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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
デパトス編
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第十四話『魔物はどこへ?』

赤い糸(ラブ・フェルト)』依頼達成につき、今日はみんなで祝杯を上げていた。


 パムさん、ドリスちゃん、ティアちゃん、ネイ、そして疲れ果てたフィリアが食卓を囲む。


 ドリスちゃんは空になったグラスをフィリアに見せる。


「ねーねー フィリアちゃん! 今日は出しても良いでしょ? お祝いだし!!」

「そうね・・・5杯までなら良いわよ」

「わーい」


 ドリスちゃんはグラスを右手で覆う。

 空だったはずのグラスにみるみるうちに、黄色い液体が注がれていく。


「何だそれ?」

「ふふん。これはね、ドリスのスキルだよ。手からレモネードを出せるの」

「正確には『思い入れのある液体を生成できる』です」

「そうとも言う〜」


 レモネードでドリスちゃんが喉を潤す傍、ティアちゃんがさらりと補足した。

 中々に面白いスキルだ。


「じゃあもしかして回復薬とかも出せるのか?」

「ドリスあれ好きじゃないから出せないよ」


 ということは、もしドリスちゃんが回復薬を好きになったら生成できるというわけだ。もしかしなくても結構貴重なスキルじゃないか?


「でも出しすぎちゃダメだからね、ドリス。またぶっ倒れるよ」

「分かってるよ〜 ティアちゃんは心配性だな〜」


 そんな事を言いつつドリスちゃんはすでに3杯目を注いでいる。この娘は将来、酒飲みになるに違いない。


「そういや冒険者活動はどうだ、ネイ?」


 肉を豪快に頬張っているネイに声をかける。

 最近はマルクス夫妻の依頼に集中していたので、ネイと一緒に冒険者を出来ていない。


「そうだそうだ。その事で話があったんだ。アンはBランクに上がったのだろう?受けたい依頼があるのだが、パーティーに最低二人のBランクが必要で・・・ひとりは確保したんだが、アンも来てくれないか?」


「お安い御用さ、明日行こう。ところで何の依頼だ?」


「ガルグ領とホンレスの間の森、ミロデ森林で多数の魔物の目撃情報があったらしい。それの調査と可能なら討伐だ」


「了解。行こうか魔物退治」



「おーい、ネイ。準備出来たか?」

「ああ今行く!」


 フィリアの家からネイは飛び出す。その手には剣を握っている。いつの間にか自分で稼いで買っていたようだ、成長が著しい。


 ギルドに向かおうとしたその時、オレ達を呼び止める声が聞こえた。


「待ってくださーい!! 私も連れてって下さい」


 大きなリュックを背負って、動きやすそうな服で身を包む少女。少女の紫がかった黒髪と角が目につく。

声の主は『赤い糸(ラブ・フェルト)』の会計士、ティアちゃんだった。


「どうしたんだ?」

「私も連れてって欲しいんです。ミロデ森林に行くんですよね?」

「まあ・・・そうだけど」

「お願いします!!」


 ティアちゃんは切実に頭を下げる。

 本来依頼に冒険者以外を連れて行くべきでは無いが、理由も聞かずに追い返すのは違う気がした。


「どうして行きたいんだ?」

「ミロデ森林に咲いている花から作れる紅茶があるんです。それをドリスちゃんに飲ませてあげたいんです!」

「オレ達がその花をとってくるのじゃダメか?」

「ダメです! 花をつんだその瞬間に適切な処理をしなければ、美味しさが逃げてしまいます」


 依頼の難易度はBランク。ベテランパーティーでも死人が出てもおかしくない依頼だろう。

 しかしそんな事、彼女は重々承知だろう。ティアちゃんの瞳には覚悟を感じる。


「まあ・・・こっそり連れていけばバレないか・・・」

「ありがとうございます!」


「本当に良いのか、アン?」


 渋々了解したオレにネイは慌てる。

 

 おそらく大丈夫だろう。最悪オレが囮になれば大抵はどうにかなるはずだ。ティアちゃんを守りながらの 戦闘はネイにとっても勉強になるはずだ。



 ギルドに着くと、見知った顔がオレとネイを待っていた。

 この前の昇級試験で一緒だった青年、ガイア君だ。


 もう一人のBランクはガイアの事だったらしい。


 ティアちゃんはオレの担いだリュックの中に隠れている。ガイアにティアちゃんの事を説明すると、意外にも反対はされなかった。


 彼の憧れる魔王討伐の勇者様は、依頼者の無理難題を反対しないからだそうだ。


 メンバーはティアちゃんを抜いた4人。

 オレ、ネイ、ガイア、そしてガイアの冒険者仲間のホーネットという奴だ。


 ホーネットはそのデカい図体をマントで隠している。チラッとフードの中を見た時、毛と牙が見えたので恐らく獣人だろう。


 道中の馬車でティちゃんにしっかりと説明してもらった。なぜ彼女はその紅茶を作らねばならないのかについて。


「アーノルド君はファミネという国を知っていますか?」

「ファミネ・・?」


 キョトンとするオレに代わり、ネイが答える。


「確か・・・エーリッヒのすぐ横にある小国だろう? 数年前まではとてつもない飢餓に襲われいたとか・・・」


「そうです。旧エーリッヒ帝国の支配下に置かれていたファミネは、その地で取れた全ての食料をエーリッヒに寄贈していたんです」


 それは酷い話だ・・・国が潰れてもおかしくない。


「それでそれが紅茶と何の関係が?」

「ドリスちゃんはファミネの出身です。ちょうど6年ほど前ににドリスちゃんはデパトスに避難してきたんです。両親を置いてドリスちゃんだけが・・・」


 ドリスちゃんの両親は、独裁下に置かれた国から彼女を逃したのだろう。そうなると、ドリスちゃんの両親はもう・・・


「先ほども言った様にファミネの国全体で食糧難だったのです。聞く話によると、食人も行われていたとか・・・」


「・・・・・」


「そしてドリスちゃんのスキルは覚えていますか?」

「ああ・・・『思い入れのある飲み物を手から出す』だろ?」

「そうです。そして左右の手から一種類ずつの飲み物しか出ない。右手からは昨日見せたようにレモネードが出るんですが、左手からは・・・」

「何が出るんだ・・・?」


「血です。人間の・・・」


 馬車に沈黙が流れた。


 その過去は、およそ9歳の少女が持つにはあまりに過酷すぎた。


「私はそれを上書きしてあげたいんです。出来るかどうかは分かりませんが、とびきりに美味しいと噂の夢苺の紅茶でなら可能かもしれない!!」


 森の中はどんよりとした暗い雰囲気だった。


 魔物どころか動物の気配ひとつも感じない。

 森の生物達の生活感を感じない。何かが起こっている。


「よしじゃあ覚えたての奴使ってみるか!」


『火よ その灼熱を唸れせ 波を起こせ 反響させよ 熱源探査(ヒートサーチ)


 覚えたての火系統の中級魔術 『熱源探査ヒートサーチ』は簡単にいうと、周囲の熱を発生させるものを感知する魔術だ。


 熱を帯びた魔力の波が熱源に接触し反響する。


 動物などを探すのにもってこいの魔術だ。


 まだ覚えたてなので、有効範囲は半径50メートルほど。達人は300メートルを超えるらしい。


 神経を研ぎ澄ませる。少し遠くで生体反応を感じた。


「南40メートル。生体反応」


「じゃあとりあえず行きますか・・・」


 ガイアの指示を皮切りに森の中を進んでいく。


 危険な魔物では無いと良いが・・・



 今オレ達は窮地に陥っている。


 生体反応のある方向に向かうと、そこにはドラゴンさんの姿があった。


 毒々しい紫色のドラゴン。

 ヒドラだ。


 ドラゴンはイノシシを咥えている。おそらくあのイノシシが『熱源探査ヒートサーチ』に引っかかったのだろう。しかしドラゴンは引っかからなかった。だからオレ達は気づけなかった。


 あれ・・・? オレ最近ドラゴンとの遭遇率が高くない?


 勘違いをしないで欲しいが、ドラゴンと遭遇するのなんて百年に一度あるか無いかだ。

 それなのにオレはこの一年足らずでドラゴンに2回も会っている。異常だ。


「聞いてた話と違うじゃないか・・・」

「いや、あれが例の奴じゃないのか?」

「絶対に違う。あれは違う、本当に偶然ここにいるだけだ!」


 ホーネットとガイアが小声で愚痴をこぼす。二人はBランクとCランク、ただの魔物の討伐依頼だと思って来たらドラゴンと遭遇なんて災難だろう。


 聞く話によるとドラゴンの危険度はSランク。

 最も危険なAランクの一個上に位置する。規格外というやつだ。


 ネイはドラゴンの威圧に当てられて、失神してしまったティアちゃんを介抱している。


 どうしたものか・・・


 それにしても何でオレの『熱源探査ヒートサーチ』に引っかからなかったんだ?

 ドラゴンほどの巨体、すぐに分かるはずなのに。


「なぁ、ガイア。『熱源探査ヒートサーチ』を回避する方法ってあるのか?」

「無い・・・と言いたいところだが、一つだけある。『熱偽装(ヒートブラインド)』という『熱源探査ヒートサーチ』から身を隠す魔術だ。もしあのドラゴンが使ったとすると・・・」


 ドラゴンが長い年月を生きるとその脳は成長を遂げていつしか人類と同等の知能を持つ。俗に言う『竜』と呼ばれるものだ。


 前に迷宮であったドラゴンも竜になりかけていた。

 そして今目の前にいるこいつは、おそらく完全な竜になっている。

 人類と同等の知能を持った竜は魔力を知覚し、魔術を扱える様になる。


 理不尽な生命体から、知能を持った最強の生物に進化するのだ。



「ネイ、ガイア、ホーネット。合図をしたら全力で走れ。オレが時間を稼ぐ」

「そんな事したらお前が死ぬぞ、アーノルド」

「大丈夫。オレ死なないから。『厄災』相手にも生き残ったんだぞ」


「分かった頼んだぞ、アン」



 オレの心配をするガイアを横目にネイは走る準備を始めている。ネイはオレが不死身だと知っているから当然の反応なのだが、もう少しオレが残ることに反対してくれても良いんじゃないかと思う。

最近ネイのオレの扱いが雑になっているような気がする。


「よし3、2、1で行くぞ。3・・・」


「ちょっと待った!」


 ガイアがオレのカウントダウンを遮る。


「何!?」


「0で行くのか1で行くのか?」

「知らねーよ。どっちでも良いよ」

「どうでも良くはないだろ」


 心底どうでも良い。というかそんな状況では無いのを分かって欲しい。


「1で行け! 良いな? 3・・・2・・1!」


 オレはヒドラの方向に、皆は来た方向に向かって走り出す。


「おりゃー!! 殺してみろや糞ドラゴンがぁー!!」


 叫びながらスキルを発動させていない事に気づいた。今攻撃をされたら、木っ端微塵になる。時間稼ぎができなくなる。


ヤッベ! 『存在証明(オントラント)』発・・・


 慌ててスキルを使おうとするも、竜はオレの事を凝視して動かない。攻撃する意志が無い様に感じる。


 数秒の睨みっこの末、竜はその大きな口から何か言葉を発した。

 しかし何を言っているのか分からない。竜の言語と人類の言語は違うのだ。


 竜は何かを察したように、フガフガと息を鳴らした。


 その瞬間、竜の身体中から光が放たれる。

 光に包まれた竜の身体はみるみるうちに小さくなっていく。


 光が止まった後。

 竜の身体があったはずの空間に一人の少女がちょこんと座っている。


 長い紫色の髪の少女。年齢は十代の前半くらいだろうか。服は着ていない。


 少女はオレの方を振り向き、ニコリと笑顔を見せた。


「久しぶりじゃな、アーノルド。実に500年ぶりか?」


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