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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
デパトス編
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第十二話『運命』

 何やかんやあり無事にBランクへと昇級したオレは、ハミルと共に祝杯をあげていた。ガイアも誘ったが用事があるのでお別れとなった。


「かんぱ〜い!!」


 すでにできあがっているハミルと5回目の乾杯をする。このハミルと言う男、腕は立つようだが下戸のようだ。


「いやー本当によかったよ。アーノルドが生きてて。どうやって『平和』の攻撃から復活したんだ?」

「ん〜?」


 酒で脳が正常に動いていないのか、はたまたBランクになったことで浮かれているのか、隠しもせずに自分のスキルについて説明を始めてしまう。


 別に隠さないといけない事情があるわけではないので、問題は何のだが・・・


「オレのスキルでな『存在証明(オントラント)』って言ってな。どうやっても死なないの。だーかーら『平和』に体を消し飛ばされても時間が経つと復活するようになってんの!」

「すんげ〜」


 オレの説明にハミルは拍手を送る。そしてビールをもう一杯追加で頼んだ。


「ハミル。お前のスキルは?」

「あ〜俺の? 俺のは『神出神没(テレポート)』って言ってな。簡単に言うと自分の体を好きな所に飛ばせるの。まあ、1日に5回しか使えないけど・・・ってこれ言っちゃいけないやつだったー」


 ビールを片手にハミルは豪快に笑う。するとハミルの背後にいきなり謎の男が現れた。


「楽しそうだなー ハミル」

「来た来た! アーノルド、紹介するよ!この犯罪者面がヨルダ!」

「誰が犯罪者面だよ、どうもな兄ちゃん。ヨルダ・ディアゴスだ」

「どうも・・・」


ヨ ルダと名乗る中年の親父がハミルの頭を小突く。こんなことを言うのも何だが、確かに犯罪者面だ。酒場の雰囲気にマッチしている。

しかし謎にルビーのネックレスをしている。それだけがこの酒場の空気から浮いている。


「あまり舐めないほうがいいぞ。ヨルダはデパトスの七大厄災だからな」


 ハミルの言葉に耳を疑った。


 七大厄災。この世界をぶっ壊せる7人の危険人物の一人だと言うことだ。つい先日オレの身体を消滅させた『平和』と、目の前で酒を飲むこの中年のオヤジは同等の力を持っていると言うことになる。


 オレの緊張を察したのか、ヨルダはオレに乾杯を促す。


「俺は『平和(ピリアス)』とは違うよ。ただの飲んだくれ親父だ」

「ハハハ・・・まあ良いや。オレもちょうど『厄災』について色々聞きたかったんだ」


 ヨルダとオレのジョッキがぶつかる。隣で潰れているハミルは、目を瞑りながらもナッツを齧っていた。



「じゃあお前を殺せる奴を探してるんだな?」

「そうそう。そう言う事」


 いつの間にやらヨルダはジョッキを6杯飲み干していた。しかし未だ耳を紅潮させる程度。なかなかの酒飲みとみた。


「どうだ?『七大厄災』ヨルダはアーノルドを殺せそうか?」

「まあ・・・多分だけど殺せるぞ」

「本当か?」


 目を輝かせるオレにヨルダはため息をつく。オレが死にたいと言った時、大体の人はこう反応する。

 当然だ。『死にたい』なんて言葉、普通の奴からしたら不快だろう。


「俺のスキル・・・というか、俺の二つ厄災名は知ってるか?」

「知らない」

「俺の厄災名は『運命』スキルは『運命られた道(マイルストーン)』説明は難しいが、自分の願望を叶えられるみたいな解釈でいい」


「じゃあもしヨルダが『世界滅べ』って思ったら、滅ぶの?」

「そうだ」


 流石は厄災の名を冠するもの。理不尽以外の何者でもない。


「じゃあ願ってくれよぉ〜 オレが死ぬことを」

「嫌だよ・・・命は大切にしろよ・・・」

「えー? 減るもんじゃないしいいだろ」

「これはそんなに言いたくないが、俺のスキルで一回願ったら、その願いが終わるまで他の願いは出来なくなるの。お前が死ぬまでの間に『平和』が攻めてきたらどうするんだよ?」

「じゃあさ『明日アーノルドが死ぬ』ってのは出来ないの? それなら良いじゃん!」

「・・・・・・」


 ヨルダが視線を逸らす。どうやら時間設定はできるようだ。でも彼自身乗り気では無い。

 まあ無理強いはしない方が良いだろう・・・


「・・・分かったよ。別の方法を探すよ」

「懸命だ」

「それよりさっきから気になってたんだが、そのネックレスは何なんだ?」

「これか・・・これは妹の形見でな・・・」


 少し寂しげな表情でヨルダはネックレスを撫でる。


「詳しいことは忘れたが、重い病気だったらしくてな。何十年も前にポックリ逝っちまった」


「そうか・・・」


 今ではただの飲んだくれではあるが、辛い過去があるようだ。

 いや・・・人は誰しも辛い過去を持っているに違いない・・・


 しかし少し不思議だ。ヨルダの妹は『厄災』でも治せないような病気だったのだろうか?


「アーノルド。今お前なんで俺のスキルで治せなかったのかと思ってるだろ?」

「バレた・・・?」

「まあ皆んな同じ事を考えるからな・・・その時はまだスキルを持ってなかったんだよ。発現したのは妹が死んだ少し後。全く嫌な運命だよ・・・」


 眠たそうな表情でヨルダはつまみを口に放る。隣にいるハミルは完全に寝てしまっていた。酔いも回り、夜も老けてきた。ヨルダは席を立ち上がりコートを羽織った。


「まあ、俺は生きても後30年くらいだろう。それまでに妹に渡す土産話を集めるのが俺の運命だと思ってるよ」


「・・・頑張れよ」


「ありがとよ・・・あと、そこの飲んだくれを頼んだぞ」


 酔い潰れたハミルを指差しながら、ヨルダは店の扉を開ける。冷ややかな風が店内に入り込み、少し頭がすっきりした。


 何かを思いついたかのように、ヨルダは俺の方を向いて忠告する。


「そうだ。ハミルの事を気にかけてやってくれ。そいつは早くに両親を亡くしたからか、責任感が強い。だが精神的に不安定なところが多い。何かのきっかけで崩壊することもある。人望があるだけに暴走したら厄介だ」


「それは・・・『厄災』としての言葉か?」

「いや。ただの友人のお節介だ」


 店を出たヨルダを追うように、オレはハミルを背に店外へと出た。もうヨルダの姿は見えなかった。


 月明かりに照らされる酒屋にどこか懐かしい雰囲気を感じる。

 看板には『未開の探索者(ボン・ボヤージュ)』と書かれていた。


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