アレク王国第五話『冒険者ギルド』
ギルドに向かう道すがら、シヴァから買った「スカイラットの串焼き」を食べてみる。
やっと腹が膨れるものを食べれる。
相変わらず串焼きは食欲をそそる香ばしい匂いを漂わせている。
匂いを堪能したのも束の間、一口目を口の中に放る
うまい。
奥の歯で肉を噛み締めるとなんの抵抗もなしに口の中で二つに分かれた。それと同時に溢れんばかりの肉汁がオレの喉を潤す。やや塩味がかった肉の汁が口の中いっぱいに広がった。
500年前にも同じものを食べたことがあるがこうも風味が違うとは。スパイスというやつだろうか?ただ単に塩をふりまいただけではこの味は出せないだろう。
ごくん、と肉を飲み込む。肉の余韻と何か甘い味が口の中に残る。これがまた美味しい。肉は驚くほど柔らかく、そしてほんのりと甘い。確かはちみつなどに漬けると柔らかくなると本で読んだことがある。この甘さもはちみつだとすると納得がいく。
一口目の余韻も程なくして二口目、三口目と口の中に放り込む。気がづくと手の中には一本の串だけが残っていた。
うまかったなー。それにしてもスカイラットか・・・
因果なものだ、オレから食料を奪った犯人が食料として腹の中に戻るとは。
おっちゃんの行っていた角を曲がる。大きな通りに武器屋や防具屋などの少し物騒な店が連なっている。市場から外れたからか、人の数は明らかに減っていた。しかし少し他の店とは漂わせる雰囲気の違う建物がある。人の出入りも激しいみたいだ。
あれが冒険者ギルドかな?
他の建物よりしっかりした作りというか豪華というか、とりあえず多くの人を迎え入れるために作られたような雰囲気だ。扉もデカい。2メートル以上はあるだろう。
勢いよくドアを開ける。500年ぶりのオレの冒険者生活が始まる。
「頼もー!!アーノルドだ、以後お見知り置きを!!」
ー
冒険者というものは簡単にいえばごろつきだ。
家から自由気ままに飛び出たもの、どんな仕事も性に合わなかったもの、はたまたどこにも雇ってもらえなかったものなどが最後に行き着くのが冒険者ギルドだ。
かくいうオレも500年前、おそらく歴史上初の冒険者ギルド「未開の探索者」で冒険者をやっていたことがある。ギルドっつても元荒くれの店主が開いたバーに他の荒くれ者共が集まっただけのところだ。世話好きの店主が近所から仕入れた危険な仕事を、オレ達がタダ飯のために解決する。色々な依頼を各地で解決してきたことから、いつの間にか『冒険者ギルド』と呼ばれていた。めちゃくちゃな場所だったが、一生わすれられない馬鹿たちに会えた思い出の場所だ。
今、500年ぶりにオレの冒険者生活が再開する。
舐められないように最初は威勢よく行こう
「頼もー!!アーノルドだ、以後お見知り置きを!!」
勢いよくドアを開けた。
ドア付近で何やら話をしていた連中はさっとオレの方を振り向いたが、すぐ興味を無くしたのかまた話し合いに戻ってしまった。
・・・まぁファーストコンタクトはこんな物でいいだろう。
何かの手応えを感じながらどこか仕事を受けられそうなところを探していると、ギルドには似つかわしくない小綺麗な格好をしたレディーがオレの方へと歩いてきた。黒いブレザーに膝上までしかないタイトなスカート、そしてその下には黒のタイツを履いている。
「初めまして『聖剣の心』へようこそ。受付のミューイです。冒険者ライセンスへの登録ですか?」
どうやら受付があるらしい。案内された方向を向くと、他の受付員らしき人たちもこの娘と同じ服を着用していた。おそらくギルドの制服なのだろう。500年もたったのだ冒険者ギルドもしっかりとした形態になったのだろう。
「ああ、アーノルドだ。よろしく」
思わず受け答えが辿々しくなってしまう。この500年の引きこもり生活でコミュニケーション能力が著しく低下している。
「それではこちらへどうぞ」
受付嬢ミューイの案内のもと、カウンターへと誘導された。カウンター越しに彼女と目があう。改めて見るとこのミューイという娘、かなり優れた容姿をしている。肩まで伸びるふわっとした桃色の髪。透き通るように白い肌。華奢な体をしているが、その小さい体躯に似つかわしくないタワワに実ったもの。そしてこの男心を揺さぶるあどけない顔。いかにも男受けしそうな可愛い少女だ。ビシッと制服を着こなしているが、まだメイアと同じか年下くらいだろう。
メイアには悪いがこのミューイという少女、結構オレのタイプなのだ。
「えーと・・ライセンス登録は初めてということでよろしいですか?」
「あーと。ものすごい昔、他のギルドに入ってたんだが大丈夫か?」
「大丈夫です。そのギルドのライセンスなどは持ってらっしゃいますか?」
ライセンスか・・・
そんなもの「未開の探索者」にはなかった、そもそもライセンスという概念すらなかった。
500年前の冒険者ギルドの名前を言っても混乱させるだけだな。大人しく初回登録ってことでいいや。
「前言撤回、やっぱ初回登録ってことで」
ミューイはパッチリとした目を丸くさせて不思議そうに聞いてくる。
「そうなるとFランクからのスタートですが大丈夫でしょうか?」
「Fランク?」
「はい、ギルドにはA~Fまでのランクがあってそのランクに見合った依頼、報酬を受諾できるようになっています。また一つ上のランクの依頼を3回達成することでそのランクをあげることができます。例えばアーノルドさんはFランクスタートですので、Fランクの依頼とEランクの依頼を受けることができます。3回Eランクの依頼を達成することでEランクへの昇格となります」
なるほどわかりやすい説明だ。よくこの長文を一回も噛まずに言えるものだ。
簡単にいうと弱い奴が報酬がいいからって危ない依頼を受けないようにするシステムだな。良心的だ。賭けで負けたからといってドラゴン退治を依頼してきたどっかのギルドとは大きな違いだ。
「オーケー、それでお願いします」
「了解しました、何か身分を証明するようなものはございますか?」
「無いけど大丈夫か?」
「大丈夫です、『来るもの拒まず、去る者追わず』が『聖剣の心』のモットーですから」
ミューイが誇らしげな顔で答える。太陽のように眩しい笑顔だ。
「それでは登録料1000クェール、いただきます」
思わず変な声が出そうになる。金を稼ぐためにはまず金が必要らしい。
背に腹は変えられん、ここは大人しく払ってめちゃくちゃ稼いでやる。
オレの財布はついに青い銀色の輝きを失い、残すところあと銅貨5枚となった。