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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
デパトス編
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第十一話『昇級試験』

 フィリア達の手伝いをしている中、気がつくとネイの冒険者としてのランクはEランクになっていた。

 恐ろしく早い昇格、危うく見逃すところだった、


 それもこれもデパトスの冒険者ギルドでの昇格の制度が、アレク王国のものと違うかららしい。


 デパトスでは自分の一つ上のランクを何回か達成することで昇格となるが、デパトスでは『昇格試験』なるものが存在するらしい。


ギ ルドからのが集めた試験官達が昇格したい冒険者達が昇格に足り得るかを見るための試験らしい。そこで合格すれば、例え依頼をこなしていなくても昇格できるようだが、アレク王国とデパトスの制度のどちらが良心的かは一概にも言えない。


 オレも久々にギルド行ってみるか・・・・


 純粋にその試験とやらに興味があった。なかなか進展しないマルクス夫妻の依頼から気分転換したい気分でもあったのだろう。


 オレの足はギルドへと向かっていた。


 大きな石の階段の上段に座す大きな建物。一見教会にも見えるそれはデパトスの誇る冒険者ギルド『勇者の足跡』だ。


 中は多くの冒険者で賑わいを見せている。優に100を超える冒険者がいるだろう。大理石の床に机が綺麗に並び、いくつもの冒険者パーティー達が熱い議論を交わしている。『聖剣の心』とは大違いだ。


 入って突き当たりにある9つのカウンター。その一番左に『昇級試験ご案内』と書かれた看板を見つける。

受付に昇級試験を受けたいと伝えると、奥の部屋に案内された。ちょうど今日CランクからBランクへの昇級試験が開催されているらしい。ラッキーだ。


 奥の部屋には机が用意されていた。数机に座る数人の冒険者と一人スーツを着たゴツい男が向かい合っている。おそらくあのスーツの男が試験官だろう。


 オレが部屋に入って扉を閉めると同時に、試験官は冒険者達に目を向ける。


「時間です。これよりBランク昇級試験を始めます」


 オレからすると異様な雰囲気だった。まるで学者の勉強会のような雰囲気だ。ここは冒険者ギルドではないんじゃないかと錯覚してしまう。


「なあ・・・これから何するんだ?」


 隣に座る男に話しかけてみる。男は緊張しているのか何かをブツブツ呟いてたが、オレが声をかけると同時ににこやかな笑顔でこちらを振り向いた。


「やあ俺ガイア、よろしく」

「アーノルドだ。よろしく・・・で、今から何をやるんだ?」

「何だ? 知らないのか? 今からBランク昇級への筆記試験だよ」

「筆記試験!?」


 聞き慣れない、否、冒険者ギルドでは絶対に聞きたくない単語だった。


 何と冒険者ギルドに筆記試験が存在するとは・・・オレ勉強なんかしてないぞ。


 慌てふためくオレを置いて、試験官はそれぞれの机に一枚の紙を置いていく。同時にペンも渡され、本当に今から筆記試験をやるのだと認識する。


「それでは筆記試験はじめ!!」


 試験官の掛け声と同時に、それぞれが紙を裏返してペンを持つ。軽快な音を鳴らしながら紙の上で走るペンは、オレを置いてけぼりにした。



 筆記試験の内容は大きく分けて4つ。


 一つは魔術の基礎知識。

 魔素、魔力、魔具についての簡単な問題や、魔術を使用する際の心がけなどの簡単な問題。一応は勇者一行の魔術師だったので、この項目では躓けない。


 一つは自分のスキルについての理解度。

 これに関しては自分のスキルを事細かに説明する必要はないみたいなので、適当に書いておいた。配点も低かったんので大丈夫だろう。


 一つは生存知識。

 実践におけるサバイバルの知識。どんな野草や果物が安全か見分ける方法などを答えなければいけない。放浪の旅の経験が豊富だったから助かった。


 最後は魔物や野生動物の知識。

 これがオレにとっての関門だった。昔から苦手な分野だ。角の折れた一角イノシシと普通のイノシシの違いなどわかるはずもない・・・・


 頭を捻りながら45分の激闘の末、突如始まった筆記試験は終了した。空白は全て埋めたので、あとは祈るだけだ。


 隣に座るガイアも疲れ切っている。しかし表情から察するに、上手く行ったようだ。とても満足気な顔をしている。


「どうだった?」

「いや〜 多分パーフェクトだな」


 冗談混じりにガイアは微笑む。よくよく見るととても爽やかな青年だ。アレク王国の冒険者達と比べるのが失礼なくらいの好青年だ。


「なんでガイアは冒険者なんてやってるんだ?」

「そりゃあ憧れの職業だからな!」

「冒険者が?」


 このガイアという少年、爽やかな印象とは裏腹に少々変わった感性をお持ちのようだ。ゴロツキになるのが夢だとは・・・


「ガイアは変わってるな。冒険者に憧れるなんて・・・」

「変わってる・・・? おいおい冒険者は全少年の憧れの職業だぞ・・・・簡単にはなれるが高ランクに冒険者はほんの一握りなんだ。Cランクになれるのだって少数なんだぞ」


 全少年の憧れ? いつから冒険者とはそんな崇高なものになったんだ? 


 眉をひそめながら話を聞くオレを横目にガイアは話を続ける。その目には輝きが宿っている。


「そしてゆくゆくはAランク冒険者になって色々な迷宮を踏破するんだ。魔王を討伐した勇者のように!!」


 ガイアの高らかな宣言にオレは全てを理解した。冒険者を少年達の憧れの職業にした原因は、他でもないオレ達だ。500年前の珍道中が盛られ、脚色され、ついには常識を変えるほどまでの伝説になってしまったらしい。


 ガイアやデパトスの少年達は勇者の被害者なのだろう。もちろん良い意味で。



 手に汗握る、筆記試験の合否発表。

 信じてもいない神に祈りながらガイアと肩を寄せ合う。


 試験官が合格者とその者の得点を読み上げていく。


「ガイア・ショーシャック 485点」


 冒険者達がざわつく。試験は500点満点。パーフェクトまでとはいかなかったが、ガイアがとびきり優秀なのは間違いないだろう。


 試験官が次々と名前を挙げていく。聞いている感じ、点数の高い順で呼んでいるらしい。


 頼む・・・ここまで来たなら受かりたい・・・


「アーノルド・アンダーソン 402点」

「よっしゃあああ!」

「お〜 良かったな。 アーノルド」


 思わず叫んでしまう。合格点の400点ギリギリだとしても合格は合格だ。久しぶりにテンションが上がる。何とも言えない全能感に身体が包まれる。


「合格者はギルドの裏の修練場に集合」


 試験官の一言でとりあえずの解散となった。



 先程の筆記試験の半数ほど、7人の冒険者がギルドの修練場に集まった。

 少し遅れてあのゴツい試験官が数人の部下を従えてやってくる。


 ガイアの話だと第二次試験は実践演習。筆記試験よりは楽そうだ。


「えー それぞれに試験官が一人つくのでその試験官の指示に従ってテストを受けてください」


 説明をするゴツい試験官お後ろで誰かが手をコチラに向かって振っているのが見える。

 見たことのある顔だった。何故こんなところにいるのかは謎だが・・・


 ハミルだ!! 何で軍隊の隊長であるハミルがここに・・・?


 説明が終わると同時にハミルはオレのところに飛んできた。その傍にはガイアと同じくらいの少年を従えている。


「本当に生きてたんだな! アーノルド!! フィリアから話を聞いていたが、まさか復活するとは・・・」

「お陰様で生きてます。フィリアには世話になってるよ」

「いやいや。あいつの事だ。どうせあいつの会社の手伝いをさせられてるんだろ?」

「あの・・・二人はどういう関係で・・・?」


 世間話に花を咲かせるオレとハミルにガイアが割って入る。心なしかハミルの方をチラチラ見てる気がする。


「ああ すまない。俺はハミル・アルバート。一応は国の軍に所属してるんだけどな。色々あってギルドで暇つぶしだ」


「ガイアです。『瞬神』ハミルですよね!? 知ってます! 大陸最強の歩兵軍の隊長であり、この前の『平和の行進(ピース・マーチ)』での活躍。デパトスで貴方を知らない人はいない!!」


 「照れるな」と言いながらハミルは満更でもなさそうだ。心なしかこの前会った時よりも雰囲気が柔らかい気がする。


 当たり前か・・・ここは戦場じゃないんだし・・・


「ここにいるアーノルドも『平和』を食い止めるのに一役買ったんだぞ」

「本当か? アーノルド!?」

「・・・・まーねー」


 ハミルの期待の眼差しが痛い。実際はなす術なく殺されただけとは、恥ずかしくて言えない。


「それで色々な事情ってのは?」

「ああ・・・『平和』と対峙してからまともに剣が持てなくてな・・・聞く話によると数日もすれば治るらしいが・・・だから軍の練習もままならないので、暇つぶしにギルドの手伝いをしてるんだ」

「そうか・・・」


 数十日経った今でもスキルの効果が残り続けるとは流石は『厄災』と言ったところだろうか。それにしても暇つぶしでBランクの試験官を請け負ってしまうハミルは、やはりすごい人物なのだろう。


 ハミルの横に立つ青年と目が合う。しかしすぐ視線を外されてしまう。何とも愛想の悪い青年だろう、まるで借りてきた猫のようだ。


 その態度の悪さに気がついたのか、ハミルは青年の頭を小突く。そしてオレ達の前へと差し出した。


「忘れてた。こいつは俺の部隊の期待の新人。カルドス・クバーレ。俺と同じく試験官のバイトだ」


「・・・・よろしく」


 ふてぶてしくも青年は挨拶をする。どこか気怠そうな、面倒臭いという雰囲気を全身にまとっている。

しかしこの若させBランクの試験官をやれるというのだから、優秀なのは間違いないだろう。

自己紹介もほどほどに他の試験官達は早速試験を開始している。


「よし! じゃあカルドス。お前はガイア少年をテストしろ。俺はアーノルドを請け負う」

「早く帰りたいんですけど・・・」


 大きなため息をつきながらカルドス少年はガイアを連れていく。


「おいおいあのカルドスって奴 大丈夫か?」

「悪いやつではないんだけどなぁ」



 オレとハミルはガイアの試験を観戦していた。

 試験官であるカルドスが選んだのは模擬戦。魔術と剣を使用した練習試合だ。


 ガイアは木剣を手に取り構える。

 カルドスも同じく木剣を手にするが、構えずに欠伸を噛み殺している。


「俺は『聖剣流』魔術と剣の混合で戦います。カルドスさんは?」

「僕は・・・まあその時次第ですかね・・・制限時間は5分。スキルは無し。僕に傷をつけたらガイアさんは合格です。良いですね?」

「はい! お願いします!!」


『身体強化』

風来(ウィンド)


 土埃をあげながら、ガイアは身体を加速させる。

 目眩しに乗じてカルドスの横につき。身体を捻り木剣を振り抜く。

 しかし予想通りかのようにカルドスは脇腹を木剣で守り、その衝撃で両者ともバランスを崩す。

 すかさず体勢を立て直し、ガイアは右足を軸に剣に体重を乗せて切り付ける。

 カルドスはヒラリとそれを躱してカルドスの右脛を強く叩いた。


 足の痛みに耐えながらガイアは距離をとる。二人は元々の距離感になり、試合はまた振り出しへと戻る。


 『おお〜」と感心しながらハミルはニヤつきながら二人を応援していた。ハミルは自分が試験官だということを忘れているのではないだろうか。


 それにしてもあのカルドスという青年・・・ハミルのお墨付きでもあってあの若さにしては恐ろしく強い。否。戦い慣れをしている。


 性格も相まってか、常に戦局を冷静に見れるタイプだ。しっかりと相手の動きを予測して、それに見合った対策を常に考えている。

 最初に言っていた『剣の流派は相手次第』というのも彼の戦闘スタイルからだろう。相手の嫌がる戦法を確認してから臨機応変に動く。余程の器用さがなければ出来ない芸当だ。並の剣士や魔術師ならほぼ完封されてしまうだろう。


 しかしそれは相手が並の場合。ひとつの技しか繰り出せない剣士でも、その技が相当に洗練されていれば有利不利を壊す一撃を放つ場合もある。


 ガイアが勝てるとすれば、カルドスの予想を超えた攻撃を放つか、対策無視の強力な一撃を放つしかない。


 数秒の睨み合いの中、やはり攻撃を仕掛けたのはガイアだった。


火球(ファイアーボール)


 火の球がカルドス目掛けて一直線に進む。

 火球は木剣では受けられない。故に回避するしかない。


 カルドスの体が左に、ガイアから見た右に揺れる。

 先程と同様カルドスは剣で防御する。しかしガイアの構えは先ほどの攻撃と少し違う。前は斬りつける動作だったのに対し、今回は剣同士を押し当てて吹っ飛ばすかのようにスイングをかます。


 ミシッという木剣が軋む音と共に、カルドスの身体が数メートル後方に飛ばされる。バランスも大幅に崩している。


 勝機を見出したガイアはすぐに距離を詰め、両手でしっかりと握った木剣をカルドスの頭めがけて振り下ろす。


水弾(ウォーターバレット)


 カルドスの呟きと共にガイアの顔を目掛け水の弾が飛ぶ。間一髪でガイアは避けるも、体勢を立て直したカルドスに自分がやったのと同じように木剣を横腹にスイングされる。


 「ぐふっ」と声を漏らしながらガイアの身体は裏庭を転がる。慌てて剣を支えにし、起きあがろうとすが無情にも試験終了のタイマーが鳴る。


「終了です。お疲れ様でした」

「くそ!!」


 さらりと言い放つカルドスとは対極的にガイアは悔しそうな表情を見せる。多少は実力に差があったとは言え、ガイアもかなり食い下がっていた。もう少し時間があれば、結果は変わっていたかもしれない。


「ガイア・ショーシャック。合格です。おめでとうございます」

「え?」


 カルドスからの合格通知にガイアは目を見開く。


「え・・・?嫌なら不合格でも良いですけど・・・・」


「いやいや! 合格で良いです・・・でも何で・・・?」


「そうですね・・・強いて理由を言うとすれば・・・まず『聖剣流』魔術と剣術の複合ということをあなたは良く理解している。無理に詠唱の必要な強力な魔術を使わないで、威力は弱いが無詠唱で打てる魔術をしっかりと自分の剣術に取り込んでいた。そして応用力。木剣という火に弱い武器という特性を瞬時に理解して、相手の動きをコントロールしようとした。最後に姿勢。ルールでは『僕に傷をつければ合格』でしたが、あなたの攻撃は常に僕の命を狙った『実戦』の剣だった。試合の意味を良く理解できてる人には見込みがある。あなた充分にBランクはあります」


 カルドスの説明をハミルは誇らしげに聞いている。そしてオレの方を向きドヤ顔で言い放つ。


「な? いい奴だろう?」


「そんなことより・・・オレの試験は始めなくていいのかよ?」


 オレの問いにハミルは、キョトンとした顔をする。何を言ってるんだコイツはと言いたげな顔だ。


「何を言ってるんだアーノルド。お前合格でいいよ。七代厄災に明確な殺意を向けられて生きてる奴なんてAランクでもいないぞ・・・それにこの前見てたが、お前上級魔術を打てるレベルの魔術師だろ? こっそりやってたつもりだろうが罠魔術を貼るときのスピードと精度が桁違いだった」


 スラスラとハミルは説明する。流石は隊長というのだろうか。周りを良く観察して分析している。


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