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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
デパトス編
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第十話『運命のアイテム』

 オレの目の前でマークさんは終始オドオドしている。

 会話もままならない。


「ええと・・・奥さんの欲しいものを調べて欲しいと?」

「・・・はい・・・そうです・・・・」


 か細い声でマークさんは答えた。


 どうしたものか・・・まさか旦那と妻それぞれから同じような依頼をされるとは・・・


「わかりました・・・とりあえず奥さんとの馴れ初めを聞いても?」

「・・・・仮面を被っても? 被ったら・・・・スラスラ・・・話せそうです・・・・」

「どうぞ」


 オレが答えるや否や、マークさんは仮面をつける。そもそも何のために外したんだ?


「そうですねぇ〜!! あれはそう! 5年前のこと!!!」


 別人になったマークさんは元気に話し出す。


 マルクス夫妻は5年前の祭りで出会ったらしい。

 マークさんは兜屋の出店に出店していて、ウェアさんは祭りの手伝いをしていたそうだ。

 その時に雰囲気の似ていた二人は、どことなく互いを意識し始め、2年前にゴールイン。

 絵に描いたように幸せそうな馴れ初めだ。


 しかし二人はとことん無口だった。そこが良くて一緒になったらしいが、互いに何を考えているのが分からないらしい。

 だから二人とも互いに何が欲しいのかを想像できないのだ。


 ちなみにマークさんのキャラの豹変はスキルのせいらしい。

 仮面を被るとその仮面にあった性格になるんだそうだ。

 今マークさんがつけているのは『喜』の仮面。人当たりがよくなるから業務中はずっとつけているらしい。

 オレからしたら少々喧しいが・・・


「じゃあ仮面を家でもつけたら良いじゃないですか・・」


 そう質問をしてみた。するとマークさんは豪快にオレの疑問を笑い飛ばした。


「妻の前では常に素の自分でいたいんです!! まあそれで悩んでちゃ仕方ないですけどね。ハハハハハ!!!!」


 考える時間が欲しかったので、また明日くると伝えて店を後にした。



 フィリアに事の経緯を説明した。

 少々理解に苦しんでいたが、とりあえずはオレがマークさんに欲しい物を聞き出し、他のメンバーでウェアさんの欲しい物を聞き出すという形に決定した。


「ああ・・・あともう一つ言わないといけないんだけど・・・」

「どうしたの?」

「マークさんは魔族だった」

「それがどうかしたの?」


 フィリアはきょとんとしている。おかしいのはオレみたいな反応だ。


「え・・魔族と人間は夫婦だんだぞ・・・?」

「だからそれがどうしたの?」


 フィリアだけで無い。ティアちゃんもドリスちゃんもパムさんもキョトンとしている。やはりこの空間でおかしいのはオレだけみたいだ。


「もしかして・・・魔族と人間は普通に結婚できるのか・・・?」

「ええ。ああ・・そっかアレク王国は魔族の入国を制限しているものね・・・って何で泣いてるのアーノルド!?」


 あたふたするフィリアを前にオレは涙を流していたらしい。魔族と人類が共存していると言うシオンの言葉を思い出した。

 この500年でついに人類と魔族はここまできたのだ。


 ああ・・・ギムレット、ハンツ、アレックス・・・オレ達の嘘はやっぱり無意味じゃなかったぞ。オレ達はやっぱり世界を救ったんだ!!


 涙を拭いて。顔を上げる。きっと今のオレは良い表情をしている事だろう。


「ごめん・・・なんか込み上げて来て・・・よし!! 絶対に依頼を成功させるぞ! マルクス夫妻の幸せな家庭のために!!」


 オレの掛け声に皆が呼応した。



 茂みの陰からウサギの着ぐるみを観察していた。

 暇だったのでオレはパムさんと一緒に勤務中のウェアさんを遠目から見ている。


 ウェアさんはあのウサギのキグルミの中。この街のマスコットの中の人をやっているらしい。


 ウサギは子供達に風船を渡していく。キグルミだと言うのにその動きは機敏だ。この前少しだけ喋った彼女からは、想像できないほどスピーディーな動きをしている。


「・・・子供が好きなのかしら?」


 オレの後ろにいるパムさんが囁く。

 隠密だというのにパムさんはピンクの服を着ている。ヒラヒラと丈の長いスカートが風に揺られている。そのデカい図体も相まってか、道ゆく人達がオレ達に不審な目を向ける。


 何でパムさんも一緒に来たんだ・・・?


 そんな疑問を持ち続けながらも観察を続ける。しかし特にウェアさんの趣味嗜好が分かるような事は発生しなかった。


 気まずかったのか、パムさんはオレに話しかけてくる。


「アン坊は恋したことある?」


 抑揚の多い高いような低いような声でパムさんは囁く。しかし内容は思春期の女子のするような質問だ。


「・・・まあ大昔に? 最近は・・・まあ少しだけ?」


 どっちつかずの返答をしながら、オレはミューイの事を思い出していた。

 結局あれから手紙の一つも出せていない。元気にしてるといいが・・・


「ふ〜ん。アタシ物凄く興味があるわ。アン坊の過去」

「オレとしてはパムさんの過去の方が気になるけどな・・・」

「あら? じゃあ聞く? アタシの過去? その代わりアン坊にも話してもらうわよ」

「良いよ。聞かせてくれよ」


 いつの間にか安請け合いをしてしまった。しかし実際に気になっていたのも確かだ。何でパムさんは女装をしているのかについて。



 パール・エバリオン。それがパムさんの本当の名前だと教えてくれた。。


 パムさん元々はデパトスよりも北西に位置する国 エーリッヒで暮らしていて、そこで兵士をしていたらしい。エーリッヒは独裁国家なるもので、政府が凄まじい権力と共に全ての国民の生活を厳重に管理されているそうだ。パムさんはその管理に耐え切れずに国から抜け出して来たらしい。


「決められた服を着て決められた仕事を決められた時間にするなんて・・・アタシには耐えられない!!」


 ハンカチで涙を拭いながらパムさんは語る。もはやウェアさんの素行調査はそっちのけで、オレ達はカフェでお茶をしていた。


「じゃあ、その反動でそんな格好を?」

「それもあるけど一番の原因はそうね・・・・」


 パムさんはピンク色のスカートに目を落とす。彼女の飲むシュローズティーよりも鮮やかなそのピンクは、たびたび周囲の目を引いている。


「ある日ね・・・散歩してて、たまたま寄った服屋で見つけたの。それまでは女装なんてした事なかったし、理解もできなかった。でも何でかわからないけど履いてみようと思ったの・・・」


「それで・・・?」


「それでね、履いた瞬間に『あ、これだ』って思ったの。アタシはこのスカートを履くために生きてたんだって」


 コーヒーと呼ばれる焙煎した豆を挽いた飲み物を啜りながら、¥オレはパムさんの話に頷いていた。


 なるほど・・・・よく分からん・・・


 おそらくその感情は彼女にしか分からないものなんだろう。スカートを履こうと思った時の心境も、履いた後の感情の変化もオレには想像がつかない。


 しかし分かる事もある。


 そのピンクのスカートは、パムさんにとっての運命の相手だったということだ。それを見つけられた彼女はきっと幸せものなのだろう。運命のアイテムだったのだろう。


「通りでそのスカートが良く似合ってる訳だよ」

「あら・・・アリガトウ。じゃあ次はアン坊の番よ。教えてちょうだいアナタの過去」



 思い出すのは遥か昔の話。

 3000年ほど前だろうか。ラマヌンという大国で王様にこき使われていた時。

 不老不死のオレが人間の女性と結婚をした話。


 黒髪の綺麗な娘だった。気が強いわけではないが、ぶれない芯を持っている強い子だった。当時では珍しい、東洋人のような顔立ちをしたあの娘・・・


 ああ、そういえば彼女は「ニホン」という国から来たと言っていたな・・・そうだそうだ『異世界人』だ。


 しかしそれは過去の話。オレが話すべきは今の話なのだろう。


 カップに余っているコーヒーを飲みきりパムさんの方を向き直す。期待のこもった温かい目でパムさんはオレが口を開くのを待ち望んでいる。


「オレの恋の話ね・・・じゃあアレク王国での話でもしようか。ミューイって言う可愛らしい、好みドストライクな娘がいてな。彼女もオレに好意を持っててくれた。でもオレはその気持ちに応えなかった。旅がしたかったからな・・・以上。オレの話おしまい」


 恥ずかしさからか一言で言い切ってしまった。あまりの早さに少し驚きながら、パムさんはニヤリと笑った。


 こういう話は年齢も性別も関係なく、皆一概に好きなのは全時代共通のようだ。


「ア〜ラ。イケナイじゃない、アン坊。しっかり責任を取らないと・・・でも驚いた。アタシてっきりアン坊のお相手はネイちゃんだと思ってたわ」


「オレとネイが? それはナイナイ。 娘と父親みたいなもんだよ」


 それに・・・ずっと一緒に旅をしているとは限らないしな・・・


 パムさんの茶化しを躱す。


 いつの間にやら外が暗くなってきたことに気づいた。


 もうそろそろ帰らなければ・・・ネイが心配する・・・


 席を立ち上がる。同時に帰りの支度を始めるパムさんの後ろにある看板を見つけた。黒板の上に白いチョークで書かれた文字に、オレは心を踊らせる。


「なあパムさん。『コーヒー豆販売』って家でもコーヒーを淹れられるってことか?」

「ええ。フィリアの家に道具があるわよ。もし豆を買うなら多めに買ってくれないかしら?ティアちゃんもコーヒー好きだから・・・」

「了解」


 ティアちゃんもコーヒーが好きとは気が合いそうだ。こんど美味しい作り方を教わろう。


 ほろ苦いコーヒー豆の芳醇な香りが鼻に抜ける。ジャラジャラと音を鳴らす袋を両手いっぱいに抱えてフィリアの家を目指す。


 マルクス夫妻の依頼の進展は未だ無い。

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