第九話『仮面夫婦』
ネイは無事、デパトスの冒険者となった。
デパトスの冒険者ギルド『勇者の足跡』は、オレとネイの事を熱烈に歓迎してくれた。ちょうど『平和』さんのやらかしのせいで、冒険者ギルドには依頼が殺到しているらしい。
簡単な依頼も難しそうな依頼も大量にあったので、冒険者デビューにはもってこいの時期だ。
まずは装備を買い直すためにお金を貯めなければ・・・
最高品質の剣を買うわけではないが、だからと言って粗悪品を買っても仕方がない。ネイには悪いが当分は剣無しで活動してもらおう。
「今日はもう遅いし活動は明日からにしようか」
「そうだな。アンもフィリアの家でご飯を食べていけ」
結局オレはギルドの近くの普通の宿屋に泊まる事にした。値段は1泊1200クェール。やはりオレの金銭感覚は間違っていなかった。よくよく聞くとネイの金銭感覚も生活品や食料などに置いては正常だったので、一安心だ。
フィリアさんの家に着くと、そこにはフィリアさん、ドリスちゃん、素敵な格好をした年齢と性別共に不詳の人、そして魔族の少女が食卓を囲んでいた。
本当にどういう関係性なんだろうか・・・
「それでは! 改めましてネイちゃんの冒険者デビューとアーノルド君の復活に! 乾杯!!」
フィリアさんの掛け声と共に6つのグラスがぶつかり合う。ドリスちゃんと魔族の少女は良いとして、全員がジュースを飲んでいるのは解せないが・・・
「そういえば・・・皆さんどういったご関係で?」
オレの言葉にフィリアさんはハッとする。
そして指を鳴らすと同時にドリスちゃんとその他二人はフィリアさんの横につき、それぞれが独特なポーズをとった。
「「「「恋愛相談いつでも受け付けます。私達『赤い糸』にお任せあれ!!」」」」
こちらにウインクを飛ばすフィリアさんにネイは拍手を送る。オレはというと、恐らくものすごい真顔で彼女達を見つめているに違いない。
・・・・???? 何かの余興かな? というか魔族の少女よ、そこまで赤面するならやらなくても良いんだぞ・・・
ただただ彼女達を見つめることしか出来ない。理解できていないオレを察してくれたのか、ネイが横から説明をしてくれた。
「簡単に言うと、恋愛に関するアドバイスや好意を持たれるためのテクニックを教えているらしい・・・客が来ているのは見たことがないが・・・」
ネイの最後の言葉に目頭が熱くなる。フィリアさんにも聞こえたのか、目が死んでいるのが見える。やけにドリスちゃんと素敵な格好のおじ様が自信満々にポーズを取っているのが余計にいたたまれない。
「・・・さいですか・・・で、そこのお二人は?」
「挨拶が遅れました。私はティアと申します。一応ですけど会計士をやってます。まあ、私が管理するほどのお金の動きは無いんですが・・・」
「アタシはパムって言うの。ヨロシクね。アーノルドちゃん。ネイちゃん」
ポーズを解いてそれぞれが自己紹介を始める。この四人は一緒に会社をやっているらしい。しかし従業員の半分が少女でやっていけるのだろうか?
「あ・・・言っときますけど、私こう見えて成人しているので。フィリアよりも年上ですから」
オレの考えを見透かしたようにティアさんが釘をさす。
そうだった。魔族に限った話では無いが、長寿種は人間と比べると成長が遅いのだ。ミューイもそうだったのに何で忘れていたのだろう。容姿だけで判断するのは危険だと知っていたはずなのに・・・
セルフ反省をしていると、横からドリスちゃんが飛びついて来た。眩しい笑顔を見せながらオレの膝の上にちょこんと座る。とても可愛らしい。
「ドリスの事も忘れないで」
「そうだったそうだった。ドリスちゃんも会社の一員なのかな?」
「そうだよ。街中にビラを配ったり、人を集めるのが私の仕事なの」
「そうか。それは良いね〜 ところでドリスちゃんは何歳なのかな?」
念の為、確認をしておく。どこからどう見ても人間の幼女だが、万が一ということもある。油断は禁物だ。
見た感じは7歳から9歳ってとこか?
しかしオレの問いにドリスちゃんは答えない。何を意図しているのか、わざとらしく視線を外しオレの膝から飛び降りてしまった。
人間の幼女と思って良いんだよな・・・・?
ー
「お〜い ネイ居るか? 今日も一狩り行こうぜ!」
あれから毎日のようにオレとネイは一緒に依頼をこなしている。大体はオレがネイを起こしにフィリアの家を尋ね、そのままギルドに行くという流れだ。
あれ・・・出てこない。いつもならすぐ飛びてて来るのに・・・
不思議そうに家の周りをウロウロしていると、玄関の扉が開いた。中からティアちゃんが手招きをしているのが見える。何故か誇らしげな顔をしている。
「おはよう、ティアちゃん。今日は機嫌が良さそうだね、どうしたの?」
「ふふん。まぁとりあえず中に入れば分かります」
ティアちゃんに引かれるがまま、家の中へと入って行く。見慣れた内装だが、今日はいつもと少し違う感じがする。
匂いが違う。花の香りのお香が家中に漂っている。
いざ居間に着くと、そこにはネイを含めたいつものメンバーと、それに向かい合って一人の女性がソファに座っていた。何故かその女性の傍には、大きな兎のぬいぐるみの頭が置かれている。
「ああ良いところに来たわねアーノルド君。ウェア様、紹介しますアーノルド君です。このように我が社には、男性のスタッフもいますので男心もバッチリです」
突然ソファに座るご婦人に挨拶をするように求められる。何だか分からないが一応会釈をしてみると、婦人もぺこりと頭を下げる。
「ゃぁ・・・調査を・・・す。・・・ょ・・ぉねがぃ・・ます・・・」
え? 何て?
思わず聞き返しそうになるほど小さな声で、婦人は何かを呟いた。
ほぼほぼ聞き取れなかったが、『調査』という単語だけは聞こえた。状況から見るにフィリア達の会社に依 頼が来たのだろう。そしてオレも会社の従業員ということで、たった今この婦人に紹介された。
ここは話を合わせておくか・・・
「「はい私達『赤い糸』にどうぞお任せください!!」」
示し合わせたようにオレとフィリアは同時に言い放った。
従業員でもないのに、このアドリブに合わせられるオレには演者の才能があるかもしれない。
ー
どうやらフィリア達の会社はしっかりと活動をしていたらしい。
今の今まで「恋愛相談」という謳い文句に誰も引っ掛からなかっただけで、いざ客が来れば仕事はするそうだ。ただ仲良し四人で集まって、おままごとをしているだけだと思っていたのを謝りたい。
今回の依頼主は、ウェア・マルクス。
調査対象はその夫 マーク・マルクス。
ちょうど7日後に2回目の結婚記念日らしく、それに向けて夫にプレゼントをしたいらしい。変な話だが、2年も生活を共にしながらウェアさんは旦那さんの好みを全くと言って良いほどしらないそうだ。
お互い無口で、家ではあまり会話しないとか何とか・・・
そして白羽の矢が立ったのが『赤い糸』
ドリスちゃんが配っていたビラを見て足を運んでくれたらしい。今の所、最年少の少女が最も働いている。
旦那さんの喜びそうな物を一緒に考えてくれ、という依頼らしい。
勝手にオレも従業員にされたのには、男の趣味嗜好を調べるためのサンプルにするため。そして、マークさんに近づいそれとなく好きな物を聞いてこいと言われた。
フィリアが言うには、男の好みを聞き出すのには、同じ男が聞くのが一番良いんだとさ。
面倒だがネイが世話になっている手前、無下には出来ない。それに少し面白そうだ。
他人の恋愛の行く末を見るほど楽しいことは無い。
下世話だって? うるさい。喧しい。
マークさんは『兜屋』を営んでいるらしい。『防具屋』ではなく頭の防具に特化した『兜屋』聞き慣れない単語だが、もしかしたら将来的にお世話になるかもしれない。行っておいて損はないだろう。
さて・・・情報によるとマークさんもかなり無口な人。オレの対人能力が試される。
少し緊張しながら『マークの兜屋』の扉を開ける。チリンチリンと扉にかかった鈴が、店に客の来訪を告げる。
「ヘイラッシャイイ!! お客さんどんなのお探しでえ?! ここには北から南、西から東までの兜が全部揃っています!! どうぞごゆっくり!!」
従業員の威勢の良いどデカい声が店内を揺らす。兜屋の従業員だからか、男は特殊な面を被っている。
そんなもの無視して店内を見渡す。店には数人の客と面を被った男以外の姿は無い。
さて・・・マークさんはどこだろう?




