第八話『決意』
結局フルチン不法侵入の誤解は解け、事なきを得た。ネイがオレの服を持っていたからフルチンも回避できた。
ともあれ色々と説明をしなければいけないらしく、オレは家主の前で正座をさせられている。
この家の家主であり、ハミルの妹 フィリア・アルバート。
回転式の座椅子に足を組みながら座り、どこか大人な女という雰囲気を醸し出している。どこから取り出したのか小洒落たティーカップを片手に正座するオレを見下ろしている。
彼女の着てるシャツの第二ボタンが取れかけているのに気づくが、今は関係ないので黙っておこう。
「・・・それでアナタは死んでもこうして復活すると?」
「そうですね。体が消滅しても2日、3日でこうやって戻るんですよ。どこにどうやって復活するのかは選べないんですけど・・・」
フィリアさんの問いに答えていく。横でネイとドリスちゃんも興味津々に聞いていたが、いつの間にやら観客が二人増えていることに気づく。
見慣れない顔がドリスちゃんの横に座っている。一人は多分だけど男。顔つきと体型は男だが、格好は女性のモノだった。リジト村で会ったハーブさんを思い出す。
もう一人はドリスちゃんと同じくらいの年齢の少女。オレの髪の毛をジロジロ見ながら、冷ややかな目つきでオレの事を睨んでいる。
・・・一体ドリスちゃんはオレの事をどう伝えたんだろう?
しかしそんな事はどうでも良かった。もっと気になるのは少女の頭頂部。少女はその紫がかった黒の髪の毛から2本の角を生やしている。魔族だ。
「・・・聞いているの? おーい。もしもーし」
「ああ・・・はい。すいません!!」
フィリアさんの声に我に帰る。
いけない、よそ見をしていた・・・そもそも魔族だからって何だというのだ。
「ええと・・・何の話でしたっけ?」
「だーかーらー これからどうするのって聞いているの。ウチが貸し出せるのは一部屋だけだけど大丈夫なの?」
ああ・・・これからの事ね。部屋は一つあるのなら十分だろう。見た感じネイはこの家で上手くやっているらしいし、オレがどっかの宿に泊まればいいだけだ・・・
「ご心配なく。オレは外の宿に泊まるんで」
「アン・・・その事なんだが・・・」
言いづらそうにネイが何かを見せてくる。ネイの手にはボロっちい袋が握られており、その中には白金貨5枚と小銭が入っていた。
オレの財布!! ネイが回収してくれてたのか・・・
「今手持ちがこれしか無いんだ・・・」
しょんぼりしながらネイが呟く。相変わらず白金貨は財布の中で輝きを放っていた。
これしか・・・・?
ネイは何を言ってるんだ?白金貨は一万クェール。小銭も入れたら7万クェールくらいはあるじゃないか。
少し節約すれば一ヶ月は保つ金額だぞ・・・
「いやいや充分だろ。食事代込みの宿でも半月はもつだろ・・・」
「何を言ってるんだ!7万だったらせいぜい泊まれて5日ほどだぞ!」
何だろう・・・何かが噛み合ってない気がする。もしかしてアレク王国とデパトスでは貨幣の価値が違うのか?
確認をしようとフィリアさんの方を振り向く。オレの突然の振り向きに驚いて、フィリアさんは飲んでいたお茶にむせた。
咳を抑えながらもオレの意図を察してくれたのか、説明を始める。
「確かにアレク王国に比べるとデパトスの物価は多少高いけど・・・普通の宿だったら1泊1500クェールってところかしらね」
ふむ・・・やはり普通の宿は高くても1泊2000クェールもしない。食事も込みでオレとネイの二人で1日 5000ほど使うだろうか。
そして他の道具や生活用品も買うとすると・・・
これからの出費について考えている最中、ネイとの食い違いの原因に気づく。
そうか・・・!ネイは元王族。金銭感覚が違うのだ。
あれ・・・でもオレが「サイリウム」買った時はあんなに怒ってたのに・・・
何はともあれ、別に一文無しということでは無い。ネイにもしっかり庶民の金銭感覚を教えてやらねば・・・
「まあ7万あれば当分は保つ。ネイはここに居てもいいんだぞ。もちろんフィリアさん達が良いというんなら・・・」
「でも装備も買わないといけないだろ」
確かにネイのいう通りだ。
『平和』さんのせいで新調したばかりの防具と武器は塵に還った。もう一度買い直そうとするのなら、7万だけだと心許ない。
しかしそれは装備を買い直した場合の話だ。装備が必要なのはせいぜい冒険者か兵士だけ。ネイは冒険者になるのだろうか?
常に危険と隣り合わせのあの冒険者に。
「別に装備なんて買わなくても良いんだぞ・・・この街にいれば安全だし、良い感じの職を見つければ安定した生活を送れる。わざわざ武器が必要な事をしなくても良いんだぞ」
「愚問だな、アン。私は冒険をするために出てきたんだ。まだ剣を捨てるつもりは無いさ」
躊躇いも無くネイは答えた。
確かに愚問だった。否。試していたのかもしれない。ネイという人物の覚悟を。
そして彼女は冒険者になると答えた。それならば話は早い。
「よし決まりだ。ギルド行って、装備買うぞ! 冒険者にとって金は使ってなんぼ。全財産はたいてでも良い剣買って、その分稼ごう!!」
「おう!」
良い笑顔のネイを観客達は嬉しそうに見ている。何故か得意気なフィリアさんも小さく拍手をしている。そして持っていたティーカップを置いて声高らかに叫ぶ。
「感動したわ! ネイ、私にもアナタの夢を応援させてちょうだい。ここのいる間の家賃は払わなくて良いわよ、ご飯もここで食べて行きなさい!!」
「本当?!」
目を丸くさせ喜ぶネイにフィリアさんはニコリと微笑む。この大人の余裕、何ともかっこいい事だろうか・・・
その横で魔族の少女がフィリアさんに何かを耳打ちする。同時にフィリアさんの表情がみるみるうちに曇っていく。
「・・・え? ウチの会社そんなにヤバイの?」
「というか会社として機能してないから」
口をヒクヒクさせながらフィリアさんは振り返る。彼女の第二ボタンはいつの間にか取れてなくなっていた。
「あの・・・その・・・やっぱり食事代くらいはもらっても良いかしら?」




