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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
デパトス編
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第六話『何しにきたんだ?』

<ネイ視点>


 アーノルドは死んだ。


 身体を自由に動かせないから詳しくは見えないが、アンの身体が光って小さな粒子になり消滅したのが分かる。


 文字通りに天に召された。

 アンを天に召した男、アンの身体があった場所に涙を流しながら立つ男。

 七大厄災『平和』

 彼はアンを危険だと言って殺した。この男の真意は一体・・・・


 アンが死んで悲しいという感情はなかった。そもそも旅をしていた理由は死ぬため。図らずとも彼の夢は叶ったのだ。だから今はただ私をあの狭い国から連れ出したことに感謝をしたい。


 ただ・・・少し寂しいな・・・


 ここからの旅は私ひとりか・・・いや仲間を作るのもいいな。いつかアンの話していた馬鹿みたいに楽しい旅をしよう。天からアンも見えるくらいに騒ぎながら。


 『平和』はアンの死に合掌をした後、くるりと踵を返し引き連れていた兵士達の元へ戻ろうとする。

しかし何かに気づいたように足を止め私の方を見据える。


 え・・・私・・・?


 否。私の背後に目を送っている。それに気づくと同時に背後に巨大な気配を感じる。デパトスの方からだ。

 おぞましい、恐ろしい、何もかもを包み込んで握り潰すような異様な気配。


 空気が変わった・・・・何が来ている?・・・私達の背後に何が居る?


 辺りの空気がピリつく。理由も分からずひたすらに喉が渇く。冷たい汗も頬を伝う。ここから逃げ出したいのに体は動かない。


「これは・・・どういう状況かな?」


 異様な雰囲気を放っていたのは中年の男だった。少し古くなった上着に丈の合っていないズボン。酒場で飲んだくれれているオヤジのような格好をしている。それでいて格好に似つかわしくない大きくな宝石のネックレスを首から下げている。


 男は立ち尽くす副隊長の横につき、状況を聞く。おぞましい雰囲気を醸し出す男の低い声に、副隊長が安堵の声を漏らすのが聞こえた。

 自由に動かない口を無理やり開きながら副隊長はたどたどしく言う。


「そうか・・・来てくれた・・・か。すまん。俺たちじゃ・・・止められなか・・・った」


「ああ。やっと政府の頭でっかち共が腰を上げた・・・よく今まで耐えてくれた。ありがとう」


 男は『平和』の方へ降り向き、言い放った。周りの屈強な兵士達が微動だにしない中、男は自由に動けるみたいだ。


「久しぶりだな、ピリアス・・・悪いがここで引き返してもらおうか」

「お久しぶりです、ヨルダさん。ちょうど1年ぶりくらいでしょうか?」

「世間話はいい・・・何の目的でデパトスに侵攻してきた?」

「ヨルダさんには話しておきましょうか・・・と言うかデパトス政府には伝えているはずなんですが・・・天啓を受けました。近日中にデパトスが火の海に包まれる。それがいずれ世界の崩壊へと繋がると・・・」

「だからデパトスごと葬ろうってことか?」

「いえ。一時的にエイレと私の監視下に置かせてもらうだけです。この侵攻は平和な世界のために必要不可欠なことだったのですよ。私が世界を守らなければいけない・・・」

「それはあれか・・・? デパトスの七大厄災である俺が守り切れないってことか?」


 デパトスの『七大厄災』

 男は確かに自分の事をそう言った。


 なるほど・・・このただ物でない雰囲気。『平和』の近くにいるのにも関わらず動ける力。このヨルダという男も『厄災』のひとりか・・・


 『平和』と新たな『厄災』の男。二人は互いに見つめ合って動かない。正に一触即発だ。


「いえいえ。ヨルダさんの能力は『厄災』の中でも別格。私は少しでもヨルダさんの力に慣れればと思いまして・・・」


「いらない。俺ひとりで全部守り切ってやる。お前は自分の国の心配をしてろ・・・それとも俺とここでやり合うか?」


「・・・ですが・・・しかし・・・あれ?」


 『平和』が反論しようしたのも束の間、急に口を閉ざしデパトスのある方向を見つめる。眉をひそめて少し考え込んだ後、厄災ヨルダの方を向いた。


「・・・どうやらデパトスから危険な雰囲気が消えたようです。今ここで天に送った少年が何か関係しているのかもしれません。とりあえず私がデパトスに行く目的は無くなりましたので帰りますね」


「そうか・・・気をつけて帰れよ」


 突然の出来事にエイレ、デパトスの兵士が放心状態になる。すぐに我に帰ったエイレの兵士達は『平和』を囲み説得を始める。今まで言葉を喋っていなかったから不思議に感じていたが、どうやら普通の人間のようだ。


(ちょっとピリアスさん困りますって!! もう引けないところまで来てるんですよ!!)

(このままデパトスを征服しないとエイレが滅びます!もうアナタ国のために能力を使えないのわかってます?!)

(これのどこが平和なんじゃ〜!!)


 兵士達から叱責を受ける『平和』はバツが悪そうな顔をしている。何だか急に人間味が出てきた。


「はぁ〜分かった。政府には俺から言っとく。今後エイレには攻撃しないと約束させるから・・・だから今日は大人しく帰ってくれ」


 ヨルダの言葉に『平和』は振り向く。パアッと明るいその笑顔は正に平和の象徴のような顔だった。


「ありがとうございます ヨルダさん!! やっぱり貴方はすごい人だ!!」

「うるせーよ。さっさと帰れ!!」


 頭を下げながら帰路につく『平和』達をデパトス兵達は見つめることしか出来ない。放心状態だったからか、まだ能力が効いているのか、誰ひとり一歩も動かない。


「そうだ! おーい。ピリアス〜!! 次の定例会議の前に一緒に呑もう。話したいことがある!!」


 ヨルダの声を受け『平和』は手を振ってきた。

 結局何をしにきたのだろう・・・まあ遠足みたいなものだったのか?

 そしてその遠足中に殺されたアーノルドは何だったのだろうか?

 やはり死というものは突然やってくる事を再確認する。


『平和』達と入れ替わりでハミル達もキャンプ地に帰ってきた。全ての経緯を話しても理解が出来ないようだ。混乱しているのかアーノルドの訃報を聞いても、淡白な返事で終わってしまった。


・・・・・・・・・・・・


 今回の進行によりデパトスは西側の領地 バルダッタ領とガルグ領を占拠され、 保有する武器の1割が破壊もしくは消失。しかしデパトス七大厄災『運命』の説得により、エイレ軍は占拠された領地の返還、軍の完全撤退を約束。


 そしてエイレ共和国 デパトス間の不可侵条約が結ばれる事が決定した。


 エイレ共和国から動員された兵士 約300人(内30人が首都ホンレスまで到達)

 デパトスから動員された兵士 約1500人


 エイレ共和国に占拠されたデパトス西側の領地、バルダッタ領とガルグ領の人口約8000人


 計9800人の内 

 負傷者0

 死者1


 エイレ七大厄災『平和』によって始まった侵攻作戦。後に『平和な行進(ピース・マーチ)』と呼ばれる大事件はここに幕を閉じた。


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