第五話『平和のために殺す』
<アーノルド視点>
静かだ・・・・
荒野に流れる沈黙。オレ達は固唾を飲んで作戦の成功を祈る。
ハミル達の動向を見ている兵士は黙ったままだ。よほど注意深く見ているのか、はたまたものすごく神経を使うスキルなのか、兵士は両目を瞑って眉をひそめている。
ハミルの隊が岩場の方へ行ってからはや30分。そろそろ『平和』さんとかち合ってもいい頃だ。
「来た二番目の岩場!!」
兵士の声に隊員達は小さくガッツポーズをする。幸運な事に『平和』達が通るのは最も罠を多く仕掛けた場所。他の岩場からも近いので、分散した兵士達も速やかに集結できるだろう。何より隊長であるハミルが待機している場所でもある、最も成功率が高い場所に敵自ら来てくれた。
「頼むぞ〜」
キャンプ場に待機組の兵士達の声援が響き渡る。それとは裏腹にスキルで作戦の状況を見ている兵士はひたすらに集中している。
さて・・・どうなる? 七大厄災とやらの力はどんなものなのか・・・
まだスキルを見ていないので分からないが、雰囲気的にハミルの実力はイワンと同等かそれ以上。間違い無く、国家の上澄みに位置する実力者のはずだ。
『平和』が岩場に現れてからおよそ1分経ったころ、作戦を見ていた兵士は力無くつぶやいた。
「作戦失敗・・・体調含め全隊員が戦闘不能」
兵士の報告に周りはどよめく。「おいおい。マジかよ・・・」「早すぎんだろ・・・」と落胆の表情を見せながら剣や杖を掴み立ち上がる。
ハミル達の作戦が失敗した以上、次はキャンプ場で待機していた兵士の番だ。部隊の副隊長的な役職の男が隊員達を扇動する。
隊長の失敗を聞いても尚、彼らの目は死んでいない。
「・・・皆! 動揺するな!! 俺達で『平和』を食い止めるぞ! 作戦は予定通り。このキャンプ場を中心とした奇襲作戦だ。各自持ち場へ!!」
「お待ち下さい!!」
観察を続けていた兵士が叫ぶ。その声と同時に全ての兵士達が動きを止め、耳を傾ける。
「おそらく『平和』の能力は、自身を中心とした一定範囲内のあらゆる攻撃の無効化および消失化です。剣士達の鎧と剣が消失するのが見えました。でも魔術師の杖は消えていない!! 距離を保って攻撃が必須です!!」
「各隊員聞いたか!? 魔術師は予定通り。剣士は剣を用いずに魔術で攻撃だ。魔術が下手な奴は石でも何でも投げて気を引け。とりあえず時間を稼ぐぞ!!」
「「「はい!!」」」
的確な指示と迅速な対応・・・どうやら『大陸最強の歩兵部隊』は嘘ではなかったらしい。
特に非常時の対応が恐ろしく早い。事前に失敗した時のための準備をしていたのもあるが、急に剣が使えないと言われた剣士達も動揺を見せない。
「ネイとアーノルドはテントの中にいろ。もし『平和』に出くわしても兵士以外は攻撃されないはずだ・・・」
副隊長がオレ達にも指示を出す。
それではありがたく隠れさせてもらいます・・・・
そう思いながら、ハミルのテントへ歩を向けた瞬間だった。
少し遠くの方。ちょうどハミル達が向かった岩場の真上らへんの空が光る。白く輝く神々しい光。まるで神話で神々がこの世に降り立つ瞬間を切り取ったようだった。
ー
『存在証明』発動!!
眩い光が空を覆う。
その刹那。スキルで自身の存在を固定する。
長い年月を生きてきたからか、はたまた生物の脊髄反射か・・・
肌で感じた。直感であり。超勘。
あの光は危険だ・・・否。危険では無い。恐らくこの世で最も安全でおぞましい何かだ・・・
何故そう思ったのかの理由はひとつ。あの光は神の御業だ。そして神様が人間になさる行為はいつもいつも規格外だ。良い意味でも悪い意味でも・・・
光に当てられ、オレ達の足元に伸びる影が薄みを増す。神々しい光から目を離せない兵士達は立ちすくむ。そして我に帰る。それぞれの兵士達から光る塵が、空へと舞い上がっていく。
光る塵は兵士達の体内から放出されている訳ではない。彼らが身につける鎧、剣、そして杖が光を放ち消滅していく。
「剣が・・・!鎧が・・・!」
キャンプ場周りの兵士達は立ち尽くす。武器も防具も持たないで戦場に立つ彼らは、明らかな動揺を見せていた。
「皆! 落ち着け!!まずはテントに余っているはずの武k・・・」
慌てて部隊を立て直そうと指示を出す副隊長が、急に黙り出す。先程まで果敢に指示を出していのが嘘みたいに、副隊長は地面だけを見つめ喋らない。
他の隊員達も同様。迅速な動きはなく、ただただ静かに地面を見つめる。
・・・何だ?何が起こった?
ただひとり、オレだけが周辺をキョロキョロ見回す。オレの横に立つネイも俯いている。
誰かがこちらへ向かってきているのが見える。岩場の方向からだ。遠目でも分かる白い服。まるで司祭が着ているような・・・
・・・あれが七大厄災『平和』か?
厄災と呼ばれるほどだからどんなものだろうと期待したが、危険な雰囲気は無い。格好は変わっているが、どこにでもいそうな男。街中ですれ違っても、二度見どころか気づきもしないような平凡な男。
しかしその平凡な男は世界を滅ぼせるのだろう。経った今、大陸最強の部隊を指一本触れずに無力化しているように・・・
『平和』とその後ろを歩く兵士達は歩くことをやめない。横で数十人の兵士達が固まっているのに、まるで視界に入っていないかのように素通りしていく。
「お前が七大厄災か!? 無視すんなよ!泣いちゃうぞ!!」
オレの叫びに『平和』は立ち止まる。オレの方を見据え、目を見開き近寄ってくる。
さて・・・七大厄災とやらはオレを殺せるのか・・・
ー
『平和』はオレを注意深く観察する。顔、身体、足そしてまた顔・・・
気色悪い。美少女にやられるならまだしも、こんなオッサンに至近距離で体を調べれらるなんて最悪だ。しかし押しのけようにも体が動かない。
「貴方・・・凄いですね〜 私の光に当たってそんなに喋れるなんて・・・」
「・・・でアンタが七大厄災『平和』か?」
「そうです。『平和』ピリアス・ピコ・ピースと申します」
「アーノルド・アンダーソンだ。以後お見知り置きを・・・」
オレの言葉に『平和』は表情を曇らせる。そして悲しげな表情でオレの肩に手を置く。
「すみません・・・突然なんですが貴方を殺さなくてはいけなくなりました・・・世界の平和のために死んで下さい・・・」
「は?」
突然の殺害宣言にオレは困惑する。涙を流しながら『平和』は説明を始めた。
「私のスキルでその人の危険度というか・・・後にその人がどのくらい世界の平和を脅かすのかが見えるのです。貴方の危険度は『世界滅亡』クラス。それでも殺生はしたくないのですが、貴方は私の光に対抗できるようですので。今ここで死んでいただきます・・・」
オレの危険度が『世界滅亡』クラス?
冗談はよしてくれ。世界を救ったことはあれど終わらせようなんて考えたことない・・・
しかしある意味ラッキーだったかもしれない。殺せるものなら殺してみて欲しいものだ。幸か不幸かオレは今『存在証明』を発動している。何人たりともオレに傷どころか触れやしない。事実『平和』の手はオレの身体に触れていない。肩と『平和』の手には少し空間が空いている。身体の周りで固定された魔力に奴は触ってるだけだ・・・
「いいよ・・・殺してくれ。でもどうやって殺すんだ?」
「・・・私のスキルは『不戦三原則』と言って、ある程度の範囲を平和にするというものなんですが・・・この『平和』の定義は分かりますか?」
「見た感じだと・・・武器の破壊、戦う意思のあるものの行動を制限って感じか?」
「概ね正解です。平和というのは実に簡単に出来るものです。もし武器を手にせず、相手に危害を与えようとせず、自身の現状に満足してそれ以上を求めなければ世界は簡単に『平和』になるのです」
簡単・・・・?簡単に言う。それが出来たら、誰も苦労しない。否。出来てしまったら、人類の発展は無いだろう。もしも闘争心でさえも『平和』に反すると言うのなら・・・
『平和』は続ける。
「私のスキルはその3つを人々に促すことです。そして武器というのは何も剣などの物だけではない。解釈を広げると人も争いのための『武器』なんですよ。貴方は危険な意思ある武器だ・・・」
そう言い『平和』はオレの身体に手を当てる。
あれ・・・触れられてる?
「せめてあの世で安らかに・・・」
『平和』の目から雫が一粒落ちる。それと同時にオレの身体は発行を始め、足先からゆっくりと塵になり空へと舞い上がっていく。
あ・・・これ結構ヤバイかも・・・でも・・・何だかポカポカするよ・・・
少しずつ、少しずつ身体の感覚がなくなっていく。同時に意識もだんだんと遠のいていく。
薄れていく意識の中、最後の線がぷつりと切れた。




