第四話『平和主義者』
七大厄災 『平和』 ピリアス・ピコ・ピース
それが今回デパトスに進行してきた、エイレ共和国が保有する『厄災』の名らしい。
七大厄災にはそれぞれに各々の能力を冠した二つ名がついている。今回は『平和』
平和の名を冠するものが戦争を始めるとは、世も末である・・・本当に世が末にならないことを願う。
そしてネイの話によるとそれぞれの厄災の能力は、その二つ名と共に公表されているらしい。国家機密のようなものだと思っていたが、世間一般的に広がっているようだ。無論、広まったところで対策をたてられないから『厄災』と呼ぶんだそうだ。
ハミルが今回の相手『平和』の厄災について教えてくれた。
この一ヶ月で首都ホンレスより西、エイレ共和国側にあった街や村はすでに陥落している。しかしおかしな事に、この戦争によるデパトス軍の死者は未だ報告されていない。どころか負傷者もいないみたいだ。
前線にいた兵士達は残らず捕虜にされているため詳しくは分からないが、デパトスの兵士達は無抵抗のままエイレに捕まったらしい。
無抵抗の強制。それが『平和』の能力。
もし能力を発動されたらコチラから攻撃ができないようだ。故にハミルは頭を悩ませていた。
ここはデパトスの首都ホンレスから僅か数十キロしか離れていない。ここを通したら首都を攻撃される。最後の砦というわけだ・・・
にも関わらず派遣された部隊はハミルの部隊ひとつだけ。デパトス政府は恐れているのだ。全軍を『厄災』に突撃させて、大陸最強を誇る軍隊が壊滅させられる事を。
政府はどうにか和解で手を打とうとしているらしい。ハミル達はそれまでの時間稼ぎに抜擢されたのだ。
「今から作戦を発表する・・・・」
朝。昨夜の酔っ払い達は別人のように鎧を着こなし、見事に整列する。壇上に上がったハミルは部隊の皆を見回し、声高に説明を始める。凛々しい声が荒野中に響き渡る。
「皆も知ってるように、今回の相手は『七大厄災』ピリアス・ピコ・ピース。能力は『無抵抗の強制』と知られている。俺も一晩中無い頭を捻って考えてみたが・・・こんな理不尽な能力の裏を書く方法など分からない・・・・」
兵士達は笑う。『流石は隊長! デパトス1の脳筋』とヤジを飛ばす。
「故に俺達の作戦は簡単!! 『能力を使われる前に倒す』これに限る。報告によると『平和』は兵士達を視認してから能力を使ったと書かれている。辺境の兵士達も同じく『平和』を視認してから攻撃しようとしたに違いない・・・だが俺達は違う!俺達はデパトス最強の歩兵部隊。ここに遠距離攻撃も隠密もできないバカなどいない事を願おう。相手の視線の外から、意識の外から攻撃しまくる。勝てなくても良い!1分1秒でも長く、国のために時間を稼ぐ。頼むぞみんな・・・」
ハミルの熱弁に兵士達は湧く。それぞれが剣や杖を掲げ己を鼓舞する。
満足気なハミルも兵士達に背を向け、壇上から降りて行く・・・と思いきやクルリと体を回し、再び兵達に視線を送った。
「いや!! 前言撤回だ。時間稼ぎではない!! 俺達は今日、厄災に勝つんだ! やるぞ厄災殺し!!!」
ー
兵士達は休みも無く動き回る。剣士達は剣を置き、隠れる場所の再確認。魔術師達は罠を作りつつ、放つ魔術について意見を交わしている。
ハミルの予想では『厄災』が到着するまで残り二時間ほど。もう時間が無い。
しかし意識外からの魔術の攻撃なんてできるのだろうか?
まず前提としてコチラが先に相手の位置を知っていないといけない。そして位置が分かったところで、相手の視界に入ってはいけない。魔術でさえも視認されてはいけないだろう・・・
となると隠れつつ、超高速で土もしくは風の魔術を放つしかない。火と水は圧倒的に荒野で目立つ。
遠くで魔術師達が罠を設置しているのが見える。
罠の魔術は高度な技術を必要とする。通常の魔術を変換して、任意の場所に魔術陣を貼るの事を罠魔術というのだが、意外に調節が難しい。例えば『火球』は詠唱を唱え陣に魔力を流せばすぐに打てるが、罠用の『火球』には魔術陣の内容を少し変えなければいけない。そうして罠を発動させるタイミングなどを調節するのだ。
実をいうとオレことアーノルド、罠の魔術が得意だったりする。手を使わずに足の裏だけで、中級の魔術を罠に変換できたりする。
間違っても姑息な手が得意なんて思わないで欲しいが・・・・
ー
あっという間にその時が来た。
部隊の一人のスキルが『厄災』の姿を補足したからだ。
作戦はこうだ。
まずは『平和』が罠を仕掛けた岩場までくるのを待つ。罠を仕掛けた岩場は5つ。そのどれかにでも引っかかってくれたら上出来だ。
『平和』がそこを通った瞬間に罠を発動、そして総攻撃。岩場に隠れた剣士と魔術師で攻撃し続ける。
この作戦の成功の肝は『平和』の反応速度だ。突然の罠と魔術と剣の攻撃。時間にして1秒も満たない。『厄災』が攻撃に反応して能力を発動するのが早いか、それとも能力を使われる前に攻撃を当てるのが先かの勝負だ。
「それでは行ってくる」
ハミル達はキャンプ地を後にして岩場へと向かう。
オレとネイは残りの兵士たちとここで待機。万が一にも作戦が失敗した時は、部隊の残りで時間稼ぎをするらしい。ついでにオレ達のことも守ってくれると言うのだから、何とも紳士的な兵士達だろう。
ちなみに作戦のハミル達の状況は逐一確認できる。部隊の一人がスキルで様子を観察していて、動きがある度に報告してくれる。
「来た!! 二番目の岩場です!!」
オレ達は見えないが、何となく状況は理解できる。
『平和』が来た。デパトスの命運が今決まる。
ー
<ハミル視点>
足音と気配で分かる。
敵の数は多くて30人・・・
やはり規格外だ。たったの30人でデパトスの首都まで足を進めたとは。
いや後ろを歩く兵士達はただの飾り。ここまでこれたのも全ては『平和』のおかげだろう。
違う岩陰に隠れた奴らと目で合図を送り合う。
『平和』達は今ちょうど、罠を仕掛けた場所を歩いている。
仕掛けた罠は全部で五個。落とし穴ひとつと、『電撃』と『水飛沫』を二つずつ。
今から三秒後、罠は発動される。それと同時に突撃だ。
3 ・・・ 2 ・・・ 1 突撃!!
兵士達の先頭を歩く男が目に入る。戦場に似つかわしくないまるで神殿の司祭のような格好・・・そして余裕の現れか、ポケットに手を入れゆっくりと歩く。
ヤバイ雰囲気は感じない。だが状況的に見て、あの男が『平和』だ。
スキル『神出神没』発動。
『平和』の右横2メートルの場所に移動。
瞬間移動をした俺に遅れるように無数の魔術が『厄災』の周りを囲む。
エイレの兵士達そして『平和』は反応できていない。否。反応は見られるが、対処できないのだろう。彼らの眼球だけが俺のスピードについてこれる。
とった!!
剣が『平和』の首にかかる・・・
その時だった。
突如として俺の剣と鎧が塵と化し、風に流れていく。誰にも触れられていないはずの俺の身体は薙ぎ倒され、うつ伏せになって動かせない。
俺に続いて剣士隊が駆け寄る。しかし彼らの剣と鎧もまた塵と化し、剣士達はうつ伏せになって動かない。
魔術師達が放つ魔術も『平和』に届く一歩手前で霧散する。今気付いたが罠から放出されたはずの水と雷はここまで 届いていないし、落とし穴に至っては発動さえしていない。
「・・・どういう・・・ことだ?」
全身に力を入れても一言話すのがやっとだ。俺の声が聞こえたのか『平和』は立ち止まり、驚いたような表情を見せる。
「ほほう・・・私の近くで喋れた兵士は貴方が初めてですよ。ついでに今回の戦争で最も私に近づけたのも貴方です。かなりお強いようで・・・・」
『平和』の話し方は粗暴でなく、それでいて丁寧すぎない。普通の男。それだけの印象のどこにでもいそうな男だった。
「いつ・・・スキルを・・・発動した?」
「ああ、少し難しい話なのですが・・・ええと、私は平和主義者ですので争いを好まないんですよ。だから私の周囲の武器や攻撃といった行動は消滅するようにできてるんです」
常時発動のスキル・・・・この情報が無かったてことは、今ままでに近付けたやつさえいなかったってことか・・・
クソ!動け身体!!剣なんてなくても良い。口でも何でも使って食い止めるんだ!!
しかし身体はピクリとも動かない。まるで俺の身体が攻撃をする意思を無くしたように。
岩陰に隠れながら魔術師達は攻撃を続ける。『平和』に当たる前に魔術は消えてしまうが、魔術師達はまだ自由に動けるようだ。
あそこは範囲外か・・・良いぞそのまま続けろ。
「ふむ・・・少し野蛮ですね」
そう言い『平和』は魔術師達をゆっくり見渡す。目を閉じて数秒の瞑想の後、ふぅーと息を吐き空を見上げた。
スキル発動『不戦三原則』
雲をかき分けて天空から光がさす。白く美しく暖かい光が俺達を照らした。うつ伏せの俺の前に立つ『平和』に後光がさす。その姿はまるで天からの使者のようだった。
岩場の陰から塵が舞うのが見える。
そして遠くにいたはずの魔術師達は立ちすくみ微動だにしない。
「それでは行きましょう・・・世界を救いに・・・」
『平和』の後をエイレの兵士達がついて行く。彼らが手に持つ銃には引き金がついていなかった。
ダメだダメだダメだ・・・何としても止めなければ。何でも良いから被害を与えて進行を止めるんだ・・・
そう思った瞬間だった。
ある思想が、ある感情が脳内を埋め尽くした・・・・
あれ?何で俺は拳を握っているんだ?彼らを睨んでいるんだ?
俺よ拳を握るな、武器を探すな、敵意を捨てろ。
もっと平和的になれ。




