第二話『目指す先』
馬車に揺られながらオレとネイはデパトスに向かう。
山の中のでこぼこ道で馬車は大きく揺られるが、歩きよりも遥かに早い。このまま順調にいけば明日には到着しそうだ。
荷台でゆっくりしていると、ネイはオレに尋ねてくる。
「結局のところ、アンはどこに向かっているんだ?」
「前にも言ったようにオレの旅の目的は『死ぬこと』だよ」
オレの答えにネイは顔をしかめた。何が不満なのだろう。
「私が聞いているのは『どうやったら死ぬのか』だ。そもそも本当に死なないのか?」
よくよく考えてみれば、ネイはオレの不死身さを見たことが無い。と言っても不老不死を証明するのは想像よりも難しい。
オレは死なないだけで怪我はするし、一瞬でその怪我が治ることはない。スキルの残滓の効果で一時的に怪我を負わなく出来るが、それでは不死身の証明にはならない。
「う〜ん 胴体を真っ二つにされても治せるけど、今やるのはちょっとな〜」
「治るのか?」
「10日くらいかかるけどね・・・」
オレのスキルの本質は『アーノルドという生物の情報の保存』
怪我は治る。例えば頭だけになっても時間をかければ胴体が生えてくるし、胴体と頭が切り離されても断面を合わせておけばいつかくっつく。
しかし恐ろしく時間がかかる。人の肉体が土に還るように、ゆっくりとオレの身体は本来の姿に戻っていく。
「オレの旅の目標は死ぬまでの観光。そして魔王を探して殺してもらうだ。多分だけど魔王ならオレをころせる気がする」
「・・・魔王は復活したのか?」
ネイの言葉にハッとする。
魔王は復活しない。なぜなら魔王は未だ殺されていないからだ。500年前、勇者一行は魔王を殺せなかった。否。見つけられなかった。
だから魔王を討伐したと嘘を吐き、世界に平和をもたらした。
人類は魔族領を支配し魔族を参加に置いた。それでも魔王は現れなかった。結果的に人類と魔族の共存を確立させることはできたが・・・・
「ネイだけには話しておこうかな・・・勇者一行は魔王を倒していない。あれは世界を平和にするための嘘だ」
「そうだったのか・・・まあ現代で魔族と人類は共存できているんだ。私からしたら魔王を倒してなくても勇者は勇者だよ」
やはりネイは良い子だ。こういう子こそ幸せになってしかるべきだと思う。
そんな事を思っていると突然馬車が停まる。いくら山道だといっても、馬車を止めるほどの障害物は無いと思うが。
魔物が出たのかな?
御者をしていた商人に尋ねようとすると彼の顔面は真っ青になっていた。大きなため息を吐き、オレたの方を振り向く。
「すいません。リジト村に戻ります。今向かっているでデパトスにの首都 ホンレス付近で戦争が勃発したらしいんです。こんなこと今まで無かったのに・・・・」
聞くところによるとつい先月、デパトスの西側に位置する国 エイレ共和国がデパトスに向かって進軍を始めたらしい。簡単にいうと戦争が始まった。
この戦争はすぐ終わると思われていたらしい。デパトスは大陸最古の国でその軍事力はアレク王国さえ凌駕するらしい。
一方のエイレ共和国は比較的新しい国。
デパトスの国家としての力は、エイレの軽く二十倍はあると商人は説明した。
それでも一ヶ月たった今も戦争は続き、尚且つエイレの軍は着実にデパトスの軍を押しているようだ。ついには首都まで軍を退かせるほどまでらしい。
戦争中の街に行くのも気が引けるがアレク王国に留まるのも危ない。仕方がないので残りは徒歩で行く事にした。
間違えても戦場に身を乗り出すような事は避けなければ・・・
ー
デパトスまでの道すがら、これからのネイの方針を聞く事にした。
イワン達から彼女の事を頼まれているとはいえ、ネイにはネイの人生がある。わざわざオレの旅についてきてもらう必要は無い。
村で買った剣をさすりながらネイは言う。
「とりあえずは冒険者だな。一人で生きられるくらい強くならなければ」
サラマンダーを単騎で討伐するあたり充分強いと思うが、野暮なことは言うまい。
「やっぱりネイは『剣王流』なのか?」
「・・・今まではそうだったんだがな」
この世界には三つの剣術のスタイルがある。それぞれの流派に特定の技があるというものではなく。剣を振るう時の心構えみたいなものだ。
『剣王流』・・・剣技のみを洗練するのをモットーにしている。身体強化とたまに防御以外の魔術は用いずに屈強な肉体と素早さだけを武器にして戦う。シンプルイズベストと言うか、近接戦では最強だ。剣王アレックスなどはこれに属していた。
『聖剣流』・・・魔術、剣技の両方を使って戦う。近、中、遠距離の全てに対応できる万能型。簡単にいうと『剣王流』に魔術を付け足した上位互換に思えるが、剣と魔術どちらも中途半端な強さになることが多い。魔術と剣術の両方に深い理解が必要になる。無論、極めたら最強だ。
『宝剣流』・・・この流派は正直よく知らない。上二つの流派と違い「身体は剣の一部」という考えのもと戦う。剣を軸にして踊るように斬りつけてくる。昔に対峙したときの印象は、「剣術」というよりも「舞踊」だった。しかし強い。
ネイは魔術の才能もありそうだし、『聖剣流』が合ってると思うのだが・・・
「まあじっくり考えてみるよ・・・・」
ネイは言う。
まだ答えは出ないようだ。無理も無い彼女が今まで見てきた剣は世界最強の剣。剣王アレックスの剣なのだから。あの剣の才能に何人の剣士がその人生を狂わされたことか・・・
少しアドバイスでもしてやるか・・・
「・・・オレのスキルの残滓による防御はこの前教えただろ?」
「アンの存在を細胞レベルで固めて、尚且つ体から漏れ出している魔力を固定することで絶対のシールドを作るだったか?」
「ああ。物理的には絶対に傷つけられないシールドだ。まあ魔力をぶつけられたら、少しずつ削られるんだけどな・・・でも過去に二度だけ万全の状態のシールドを剣で斬られたことがある。一人はネイも知ってる剣王アレク。もう一人は『宝剣流』の使い手だった」
剣王アレクと同等の剣技の才能を持つものは、過去に一人しか見たことがない。そいつの『宝剣流』の剣は剣技を超えた何かだった。空も切り裂き、魔術も無しに炎の斬撃を繰り出すような。
概念レベルで存在を固定されたオレを斬る斬撃。
そう・・・まるで剣術というより魔法の類だった。




