アレク王国第三十話『ミザルイワザル』
思ってもない感情が言葉になって溢れ出した。否。心の奥底でずっと思っていたのかもしれない。
言葉を吐いた瞬間に、心の中で何かがストンと落ちたような気がした。
「俺は・・・俺はただ旅をしたかったんだ。勇者と魔術師と賢者と一緒に、馬鹿みたいに笑いながら、もう一度旅をしたかったんだ。この気持ちを失くしたくなかったんだ・・・」
俺は何を口走っている?
『真実の鐘』の音で出た本音がこれか?
俺はこんな女々しい気持ちのために500年も生きてきたのか?
自分の本音に苛立ちを覚える。恥ずかしさを覚える。こんな理由で大義を掲げた自分自身に。
違う違う違う。
俺は剣王アレク。俺のお陰でアレク王国は大国になり、栄華を誇った。神が、国民が、俺に永遠に生きることを望んだのだ。
邪念を取っ払えアレックス。早くメイアを見つけて、王国の未来を守るんだ!!
少し離れたところに立つミュエールを見つける。爆発の衝撃からか微動だにしない。
ミュエールのスキルを使えばメイアを探すのは容易い。そのためにミュエールという人間を作ったのだから・・・
「ミュエール、スキルを使ってアーノルドを探せ!! アイツは目立つからすぐ見つかるはずだ。メイアも一緒にいるはず!!」
俺の問いにミュエールは反応しない。まるで心を失ったように・・・
まさか『真実の鐘』の影響か?
いやそんなはずは無い。ミュエールの心はスキルで作られたもの、本心などあってないようなものだ。
「ミュエール、聞こえてるか? さっさとしろ!!」
空を見つめていたミュールがやっと反応する。しかしどこか雰囲気が違う。
「・・・ミュエール?」
「違いますよ。お久しぶりです剣王アレク」
「貴様、何者だ?」
俺の問いにミュエールは突如として笑い出す。不気味な笑いではない。人間が自分の予想外のことに出会った時の笑い方だ。
「どうやら貴方がこの形代に渡したスキル・・・それに鐘の音が作用したことによって、スキルの所有者である私の精神がこの世に戻されたみたいです」
「だから誰だってんだよ・・・」
ミュエールの身体をした男は悲しそうに呟く。
「やはり貴方は覚えてないのですね。奪ったスキルの持ち主も、身体の持ち主も・・・」
埒が開かない。一刻も早くメイア達を探さないといけないというのに、この男と談笑している場合じゃない。
「歴代の王の誰かか? まあ良い、多少の無礼は許そう。その身体に刻まれたスキルを使って、この街で目立っているやつを探せ」
「残念ながらお断りだ。あまり私を舐めるなよ」
「・・・この国が滅ぶぞ」
俺の言葉に男は微笑み剣に手をかける。
「いいや。今夜あなたは負ける。そして王国は新たな未来へと羽ばたく!」
「無えよそんな未来」
「いや、私には見える。私は目が良いからな」
男が剣を抜くと同時に、男の頭と胴体を切り離す。他愛も無い。
もう時間が無い。時間的にもうメイアが門に到着してもおかしくはない。
急げ。急げ。こんなところで終わってたまるか。
屋根伝いに最短距離を行く。しかし踏み込みの衝撃で足がひしゃげた。
肉体が脆くなっている。早く新しい身体に入らねば・・・・
何をやっても上手くいかない。もう俺の後ろをついてくる奴はいない。かつての仲間も、血の繋がった子孫でさえ味方をしてくれない。
運命の女神からもとうとう見放されたようだ。
神よ。どうやら俺は、貴方をも斬らねばならないようです。
ー
<アーノルド視点>
鐘の音が心に響く。
胸の奥から言葉が溢れ出す。
「オレは死にたい。世界は美しい。生物の進化を見るのは楽しい。人と関わるのは飽きない・・・でももう十分だ。終わりの無い命、そんなもの虚無以外の何物でもない。オレは死ぬために生きてるんだ、死んでやっとオレという人間に意味ができる」
自分の言葉にハッとする。
こんな状況でオレは何を言ってるんだ?
メイアとイワンの方に目を向けるが、二人は微動だにしない。まるで心ここに在らず。
「俺は人間も魔族も魔物も動物も等しくどーでも良いと思ってた・・・でも人の命が理不尽に奪われる瞬間を見て、怒ってしまった。自分も人を殺したことがあるというのに。気づいたんだ、守りたい人とそうでないものの違いに・・・・って俺は何を言ってるんだろうな・・・」
恥ずかしそうにイワンも我に帰る。
二人して支離滅裂なことを言ったにも関わらず、どこかスッキリしたような顔をしていた。
「私は・・・」
やっとの思いでメイアが口を開いた。
「私は王女じゃない。国も民も王も全部どーでもいい!! 私は旅をしたいんだ。世界中を見て回るんだ。こんな国に収まっていたくないんだ!!」
メイアの叫びにイワンと顔を見合わせて笑う。
やはり彼女は王女ではなかった。ただの夢見る少女だったのだ。
「決まりだな、メイア行くぞ!!」
「行きましょうお嬢様」
オレとイワンの声で我に帰ったメイアは慌てて取り繕う。
「違う!!今のは冗談だ、私は王女なんだ。この国を見捨てられない。それにそんなことをしたら民はどうなる?」
「じゃあ聞いてみましょうか」
「聞く?」
「ええ言いたいことは声高らかに言いましょう。下らないしがらみに声を消されてしまう前に」
イワンはその場に座り込み、そっと目を閉じた。眉間にシワを寄せ、鼻から血を出す。
もの凄い集中力だ。
そして突如として声が頭の中で轟く。意味もなく大音量のその声は、聞いたものの頭を破裂させるに違いない。しかしその声はしっかりとはっきりと頭の中で繰り返された。
(アレク王国の民よ!!メイア王女は王を辞退する。国を捨て、民のためではなく自分のために生きることを決意した。文句があるものはいるか?!?!)
何回も何回もイワンは繰り返す。メイアに止められても、鼻血が地面に血溜まりをつくって繰り返し続ける。
あの仏頂面だったイワンの顔は、くしゃくしゃの良い笑顔になっていた。




