アレク王国第二十九話『鬼と右腕』
せめてキュークの魂が、迷うことなくあの世へ行ったことを願う。
「すげえな骨どころか灰も残らねえとは・・・」
シヴァの声に振り向く。
しかし何故か異様に距離を取られている。目も合わせない。自分より強いやつを見たごろつきみたいだ。
「心配しなくても噛み付かねえよ。こっからどうする?」
「俺は出来る限り時間を稼ぐ。街の兵士は他の冒険者達に任せてる。俺は王を食い止める」
「やめとけ。死ぬぞ」
「剣王アレクはお前より強いか?」
「強いよ」
実際500年前に戦った時の勝率は三割ほど。十回戦ったら七回は切られていた。シールドありでもだ。肉体を変えた今は分からないが。
「まあ良い。メイアとミューイを頼んだぞ」
そう言ってシヴァはオレに向かって回復薬を投げた。慌ててキャッチしてシヴァの方を振り向くが、もうその姿は無かった。
・・・行こう。メイアを助けに。
身体を魔術で飛ばしながらメイアの元へと急ぐ。上空からイワンの姿を確認する。もう城から脱出してから数十分経つと言うのにあまり城から距離をとれていない。
遠目から怪我をしているのが分かる。脱出した際にアレックスにつけられた傷だ。
ミュエールの姿も見える。凄まじいスピードでイワンとメイアに近づいて行く。
ヤバイな・・・
急降下からの、ミュエールの前に着地。そのまま魔術を打つ。
「スタートからやり直しだ!! 『風爆』」
辛うじて剣で受けるもミュエールの身体は吹き飛ぶ。
そのまま気絶でもしてくれたらありがたいが・・・・
イワンと合流してそのまま門を目指す。気絶させられていたメイアがイワンの腕の中で目を覚ます。
ー
「イワン降ろせ」
「ダメです。ここはまだ安全じゃない」
「・・・ずっと喋れることを隠していたんだな」
イワンの腕に抱えられるメイアは辺りを見渡す。そして寂しげな表情を見せる。
「何をしているのか分かっているのか? 王都をアレク王国を混乱の渦に巻き込んだんだぞ・・・」
「重々承知の上です。あのままじゃお嬢様は身体を永遠に乗っ取られていた・・・薄々分かっていたでしょう?」
イワンの腕の中で身体を捻り、メイアは自由になる。そして剣をこちらに向けてきた。
「知らない!! 本当だとしても私が犠牲になって王国が、民が笑顔になれるのならばその方が良かった!!」
「メイア。本気で言ってるのか?」
メイアの手は震えている。身体を奪われそうになった恐怖からか、国に謀反を起こしたオレ達への怒りかは分からない。
「キュークからの伝言だ。『恋をしろ。恋は剣よりも強し』お前の母親からの遺言だそうだ・・・多分だけどお母さんはメイアに死んで欲しくないらしいぞ」
「キュークはどうした?」
「殺した」
オレの言葉にメイアとイワンが目を見開く。敵の訃報を聞いたイワンは表情を曇らせた。
「キュークは私の父親も同然だったんだぞ。アン、君は何がしたいんだ?」
「お前の父親は17年前に殺された。でもいま重要なのはオレの目的じゃない。メイア、お前がどう生きたいかだ」
オレの言葉にメイアは剣を下ろす。俯き、喉から掻き出すように呟く。
「わからない・・・・死にたくは無い。でも民を見捨てるわけにも行かない。私は私の本心が分からない」
王女としてのメイア、ただの17歳の少女としてのメイア。その二つが混ざり合いグチャグチャになっている。
「お嬢様・・・決めてください。人として王と戦うのか、ただの器として王に身を委ねるか」
「私は・・・・」
メイアが口を開いた瞬間だった。
遠くで鐘の音が鳴った。
ー
<オブゼル王もしくはアレックス視点>
状況は詳しくは分からない、だが焦らなければいけない状況だということだけは分かる。
今まで肉体を変えること十六回。これまでにも俺の正体を明かした直後に抵抗したものはいる。逃げようとした者もいる。護衛騎士に反乱されたのも初めてじゃない。
五代目の時が一番危うかった。逃げに徹すると絶対に捕まらない奴のスキルは、俺を敗北一歩手前まで追い込んだ。メイアの捜索に回せる人員が不足している。
今回も不測の事態が多かった。アーノルドの出現。イワンの謀反。そして王国中で一斉に発生している暴動。
間違いない。これは綿密に計画された謀反だ。恐らく何年もかけて用意された計画・・・・
構わない。俺にすることは昔からひとつだけ。目の前に現れた敵を切る。それだけだ。
「やあやあこれはお久しぶりで・・・」
聞き慣れない声に振り向く。
黒のシルクハットを被る老人が大剣を担いで立っている。
男はおもむろにその帽子を投げ捨てる。その下から2本の角が顕になった。
鬼・・・・
咄嗟に構える俺を見て老人は笑う。警戒態勢に入った俺を見て笑うとは・・・俺の実力も落ちたもんだ。
「なるほど確かに・・・私の角を見て構えたのはアーノルドとあなただけですよ。剣王アレク」
「お前、何者だ?」
「これは失礼・・・シオンと申します。『怒髪悪鬼』という組織で長をやらせてもらっています」
そうかコイツが頭か。
『怒髪悪鬼』17年前に解体されたはずだが、しぶとく生きているとは。
目的はなんだ?・・・・やめよう考えるのは、今はただコイツを殺す。
老人が背丈ほどある大剣を構える。
なるほど貫禄がある・・・でもそれだけだ。
剣ごと切ろうとしたその時だった。
背後から殺気を感じる。そして横から何かが飛んでくるのが見える。
「剛 腕!!」
新たに現れた男の拳が地面を砕き割る。咄嗟に飛んだ方向で謎の飛来物を受け止める。
ミュエールだった。
謎の男とシオン、ミュエールと俺で睨み合う。
・・・こいつらの目的はなんだ? 時間稼ぎか?
いや、それならアーノルドが来るはずだ。こいつらじゃ時間稼ぎにならない。
一触即発のその空気を破ったのはシオンと名乗った老人だった。
「剣王アレク。貴方の目的は何ですか?」
愚問だ。そんなのわかりきっている。というかその質問は俺のものだろう。
「無論。不老不死」
「違う。永遠の肉体を手に入れて何をしたいのかを聞いてるのです」
何を言っているんだこの老人は?
永遠の肉体。それは番人が憧れる夢だというのに・・・それを憧れない理由など・・・
理由。不老不死を欲する理由。長すぎる年月が経ったからか、思い出せない。
まあどうでも良い。
「時間稼ぎならもう少し上手くやれ」
「私達は時間稼ぎじゃない、メイア王女の本音を聞き出すために来た。ついでに貴方のもね・・・」
老人は不敵に笑い、その大剣を俺に向かって投げる。同時に床を砕いた男も城に向かって走り出す。
飛んできた大剣を払い除けた瞬間。老人の手に数本の爆弾が握られているのが見える。
轟音と煙が辺りを包む。老人の肉片があたりに飛び散る。先程駆け出した男は城を壁伝いに登って行く。
男の目線の先には金色に輝く鐘があった。
まさか・・・・
すぐさま男を追いかける。
しかし爆発で発生した隙にできた距離の差は短く見えても大きなものだった。
「野郎ども!! 大人ぶる時間は終わりだぜ!! さっさと本心吐いちまえよ!!」
男は叫ぶ。
男の身体を一刀両断するも、その振りかざした右腕は止まらなかった。
月明かりに照らされた王都に、鐘の音が鳴り響く。
もうちょっとでアレク王国から抜け出せそうです。




