番外編『大炎花』
<少しばかり昔の話>
「やめろ、アレックス血迷ったか!?」
「止めるなアーノルド!! 俺はもう我慢できない!!」
腰に差した剣を抜き、アレックスは恫喝する。その目は血走り、手は痙攣している。
理性を失ったアレックスがその剣が振り下ろす時、遠くの方で何か凄い爆発音が聞こえる。
あまりの音と衝撃波に、隣ですやすやと寝ていた勇者様もその鼻ちょうちんを壊して立ち上がる。
何だ何だ!!??
全員が爆発の方向を振り返る。そう言えばハンツの姿が見えない。この爆発に関係しているのか?
遠くに火柱がはっきりと見えた。
爆発の現場から数キロは離れているはずのここから見える火柱は、一体どれほどの大きさなのだろうか。
規格外の炎だ。魔術の域を超えている。あのレベルは自然災害かスキルの類だ・・・
「おや?どうしたんですか皆さん遠くを見つめて」
不思議そうな顔をしながらハンツが薪を抱えて帰ってきた。炎の上がっている方角から。
「どうしたって・・・あの爆発音が聞こえないのかよ」
「ああ・・・あれね私です。びっくりさせちゃいました?」
「「「は?」」」
示し合わせたようにオレと剣王と勇者は同時に声を出す。
ケロッとした顔で薪を置いた大賢者は、アレックスの方を向き叫ぶ。
「アレックス! そのキノコは食べちゃダメです。毒ある見た目してる!!」
アレックスが手に持つキノコを叩き落とす。腹を抑えながらアレックスはハンツを睨んだ。
「じゃあどうすればいいんだ? 剣王と勇者様が飢え死にするぞ? 俺はこのキノコが毒じゃないことに賭ける!!」
「い〜や 絶対毒だね。斑点あるし、紫色だし・・・」
地面に転がるキノコをアレックスが拾う前に踏み潰す。
とうとう怒りの頂点に達したのかアレックスはオレに掴みかかった。しかし悲しいかな、簡単に払い除けられた。
「ダメだ〜 力が出ない。お前達は良いな、ある程度食べなくても良いんだから。見ろ!! 勇者なんていつものアホ面が5倍はアホになってるぞ!!」
虚な目で木陰に横たわる勇者は雲の数を数えている。しかし今日は快晴だし、カウントが4から動かないのを見ると限界らしい。
「私のスキルを『模倣』すれば良いでしょ」
「もうやってる、それでもキツイんだよ!!」
誰彼構わず突っかかるアレックスにハンツは呆れ顔を見せる。
「そんなことよりあの爆発。もしかして完成したのか?」
「ええ。やっとです、史上二つ目の火系統の上級魔術、つい今しがた完成しました。」
「上級魔術なんて実戦じゃ使う隙ないだろ。詠唱長いし・・・それに火系統にはもう一個あるじゃねえか、滅茶苦茶強いやつ」
ニコリと笑顔をみせるハンツにアレックスは再び突っかかる。そんなことをしているから腹が減るというのに・・・
アレックスの言葉に少しイラつきながらハンツは丁寧に答える。
「確かにアレは強力ですが、あまりに惨い。私はあんな魔術で人を葬りたくない」
「・・・・そうか。まあ、そうだよな」
あまりに素直にアレックスは引き下がった。余程この前に件が堪えていると見た。
「それで史上二例目の火系統上級魔術の名前は? 大賢者様よ」
オレの問いにハンツは少し微笑む。そして空を見上げて高らかに言う。
「魔族は故人を弔う時、花を贈るそうです。その花はあの太陽を真っ直ぐに見上げ、魂を天に贈る道標となる。私の魔術は命を奪う魔術です。だからせめて魂をしっかりと天に送ってあげたい。この魔術は手向けの花です。史上二つ目の火系統の上級魔術、私は『大炎花』と命名します」




