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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第二十六話『開戦の合図』

 忌々しい。相変わらず気に食わない野郎だ。


 この500年間、少しでもあいつの肉体に近づくために準備をしてきた。文字通り何でもやった。罪なき民を殺すなんて今更。死なないためならこの国ごと生贄にしても良い。


 もしも不死になれるのならば・・・・


<オブゼル王もしくはアレックス視点>


 焦燥を感じながら城の廊下を歩く。

明日はついに戴冠式。17年に一回の肉体を交換する日。間違えても失敗は許されない。


 大丈夫だ。もう何回も繰り返して来たんだ。今日のために護衛騎士も全員味方につけた。もはや障害は無い。


「メイア。少し良いか?」


 王城の一角。我が愛娘にして次の受肉先、メイアの部屋を叩いた。


「・・・どうしました、父上?・・・・これはこれは大所帯で」


 俺の後ろをついて歩いて来た護衛騎士達を見てメイアは驚く。もうそろそろ夜が更ける頃だというのに、彼女は未だ執務中の服を着ている。


「何かしていたのか?」


「いえ・・・少しばかり魔術の勉強を。今日は眠れそうにないので・・・」


 申し訳なさそうにメイアは笑う。彼女の背後には魔術書が積み上げられているのが見える。


 無駄な事を。魔術を勉強したところで使う日がくるとは知らずに・・・・


「・・・無理も無い。明日は重要な日だからな。あまり根を詰めすぎるなよ」


「はい、ありがとうございます」


「・・・それでだな。戴冠式の前にメイアに話しておくことがある」


 メイアについてくる様に指示し、部屋から遠ざかる。俺とメイアの後ろにイワン、キューク、そしてミュエールが歩いているのが分かる。


「どこへ行くのですか?」


「宝物庫を見せておこうと思ってな」


「見ても良いのですか?!」


「当たり前だ。貴様は王になるのだぞ」


 キラキラと目を輝かせるメイアの頭を撫でながら宝物庫へと足を進める。


 大階段を降りて、左側の通路の突き当たり。そこには王しか立ち入りが許されていない宝物庫がある。宝物庫の中には伝説の宝具や、歴史的な文献があるとされている。世間的には・・・


 嬉々としてメイアは宝物庫の扉を開ける。重い鉄の扉が轟音を鳴らし、部屋の中に光を通す。


 暗闇が眼前に広がる。微かに見える四方の石の壁。ここで叫ぼうが喚こうが外に声が漏れることは無いと暗闇が伝える。扉の隙間からさす一本の光の筋が、小さな台を照らした。


「・・・本」


小さな台に置かれた本をメイアは手に取り、中を確認する。


「『大賢者ハンツの手記』だ」


 俺の言葉にメイアは振り向く。


「それはアーノル・・・冒険者ギルドが発見したはずでは?」


「ほう。良く知ってたな。でもあれは偽物だ。俺が作って隠した巧妙な偽物」


「・・・どういう意味ですか?」


 怪訝な目をメイアは向ける。同時にメイアの目付きは親に甘える子供の目から、危険を察知した剣士の目になった。


「説明を!!」


「父上じゃない。アレク王国初代王にして剣王アレクサンダーだ」


「・・・何を言ってるんですか?」


「今まで、騙していて悪かったな・・・実は500年前から肉体を乗っ取って生き永らえているんだ。今の体はお前の父親オブセルの物、でも中身は500年前から変わらずアレックス。アレクサンダーなんだ」


 俺の説明に頭を抱えながらメイアは声を絞り出す。理解が追いついていないのか、忙しなく部屋中を見渡している。


「身体は父上で、中身は剣聖? じゃあ本当の父上はどこに!?」


「・・・オブゼルは死んでしまった。ちょうど17年前の戴冠式の前日に。鬼達の襲撃を受けて。そして名も知らぬ有志が王国のために立ち上がった。命を賭し他スキルで俺の魂をオブゼルの亡骸に入れたんだ」


「何故?」


「救うためさ、王国を。鬼達の猛攻を止められるのは剣聖である俺しかいない。そう神が告げたんだ」


 俺はメイアに手を差し出し、彼女の目を見つめる。


「それから17年経つ明日。鬼達は再び戴冠式を襲撃するだろう・・・狙いはメイア、お前だ」


「・・・私にどうしろと?」


「話が早くて助かる。流石俺の血を引いている・・・メイアにしてもらいたいのは一つだけ、明日一日だけお前の体を貸して欲しい。そして襲撃に来た鬼達を一網打尽にする」


 メイアは大きく目を見開き、俺の手を払い除けた。疑いの目。やはりそう簡単には騙されないようだ。


「疑うのなら、これを使え」


 鈴をメイアに渡す。嘘を見抜くこの魔具に人は絶大な信頼を寄せる。


「キューク、イワン、ミュエール!! お前達はこの事を知っていたのか?」


「「はい」」


 ミュエールとキュークの返事、そしてイワンの頷きに鈴は反応を見せない。


「お前達は操られているか?」


「「いいえ」」 鈴は反応しない。


「人聞きが悪いな・・・じゃあこういう質問はどうだ?『お前達はメイアと俺の味方であり。俺たち二人が協力することで王国を救済できると思っている』」


「「はい」」


 メイアの手にぶら下がる真実の鈴は、その音色を鳴らさなかった。


「そうか・・・お前達が言うのならば信じよう」


「理解に感謝する。じゃあ剣の柄を握ってくれ。俺の精神がお前の肉体に入りこむ。お前が次に目覚める時には全て終わってるはずだ」


 ・・・もう目覚めることは無いけどな。


 メイアの腕が剣の柄へと伸びる。早く柄をメイアの手に押し付けたい衝動を抑えながら、にこやかな笑顔で彼女を迎える。


 柄を触るその時。メイアの手は進むことを止めた。


「・・・やはり少し時間をくれないだろうか。一晩考えたい」


「ダメだ。時間が無い。今ここで白黒ハッキリさせるんだ。お前は民を救いたくないのか?」


 ・・・早く触るんだ。クソが!!


 焦りを感じながら柄をメイアの手に押し付けようとしたその瞬間。


 宝物庫の扉が爆音と共に吹っ飛んだ。



<アーノルド視点>


 何かが首をなぞるような気色悪い感触で目を覚ます。拷問で疲れ、床に突っ伏していたはずのオレの身体はベッドの上に置かれていた。


 眠い目をこすりながらベッドから起き上がる。


 金属音が足元で鳴り、急に身体が軽くなった。この二週間オレの自由を奪っていた手錠と足枷が外れている。牢の鍵も解放されていることに気付く。


 合図だ。作戦決行の時間。


 気付くと同時にオレは駆け出していた。牢屋に連れて来られた時の記憶を頼りに城の中を走り回る。途中、時計を見つけた。時刻は17時8分。


 目指す先は決まっていた。いつかメイアの話に出てきた『宝物庫』


 王国の中でも屈指の貴重で価値のある宝物を管理している部屋。王女であるメイアでさえ、入ることを許されていない部屋だ。


 そこを荒らされたら戴冠式では無いだろう。


 17時10分。時間は止まってくれない。

 

 現状『乗っ取り』の際に使われる触媒があの剣だと知っているのはオレだけ。メイアの今の精神状態にもよるが、あの剣に触れさせたらアウトだ。早くしなければ・・・


「見つけた!!」


 城の中でも一際デカく、物々しい扉。宝物庫だ。


存在証明(オントラント)」発動。


 そして・・・・


『水よ 削れ 貫け 押し流せ 水砲(アクアキャノン)


 眩い光がオレの身体、そして近くの空間を真っ白に染め上げる。


 爆音と共に流出した魔力の塊が、鉄の扉を吹っ飛ばした。


 開戦の合図だ。


多分あと五話くらいでアレク王国編終わりです。

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