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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第三話『入国』

 王国までの道のりの途中、オレはメイアたちから国の説明を受けた。


「知っていると思うがアレク王国は、剣王アレクことアレクサンダー王が建国した王政国家だ」


 これは知っている。その偉大なる剣王とやらもよく知っている。


「アーノルドは運がいい、ちょうど数ヵ月後後に王女の戴冠式があるんだ。王都は稀に見るお祭りムードだ」


 それは楽しみだ。祭りは嫌いじゃ無い。


「17歳で戴冠する風習なんだ。まだそんな器ではないがな」


 メイアお嬢様は苦笑いで答える。


「そんなことはない。お嬢様なら大丈夫です」


 ミュエールがすかさず否定する。オレの横のキュークもうんうんと頷いている。バツが悪くなったのだろう、メイアが強引に話題を変えた。


「まぁそれは置いといて、アーノルドはなぜアレク王国に?」


「また尋問ですか?」


「うぅそんなイジワルを言わないでくれ」


 メイアがしゅんとする。しょんぼりした顔も可愛いものだ。まぁ、イジワルもこのくらいにしておこう。それこそ不敬を働いたとして、牢獄に入れられるかもしれない。


「冗談です。実はある人を探していて・・・」


 オレがそう言いかけた瞬間、頭の中に聞き覚えのない男の声が大音量で轟く。


『みなさん!!もう城門につきますよ!!!』


 うるさい。どころのものじゃない。頭がわれたかと思った、他の三人にも音が届いたのか全員苦虫を噛み潰したような顔をしている。瞬間、オレの前にすわるメガネが頭の中の音をかき散らさんばかりの怒号を馬の方に向かって言い放った。


「イワン!!あれほどスキルで喋りかけるなと言っているでしょう。頭が割れるかと思いました!!」


 馬車の御者をしている3人目の従者「イワザル」ことイワンが座席の方をむきぺこりと頭を下げた。先ほどは暗くてよく見えない、というか甲冑を着ていたので分からなかったが、右頬から左頬まで続く大きな傷跡がイワンの男前の顔をバッサリと分断していた。


「すまないアーノルド、見ての通り傷のせいでイワンは口が聞けないんだ。しかしたまにああやってスキルで喋りかけてくるんだ。音量調節はできないらしいが」


 メイアが説明する。


 なるほどテレパシーというやつか。しかしあんな大音量を聞かされるとこちらが先に壊れてしまうだろう。ミュエールが目を真っ赤にして怒るのも頷ける。本当にスキルというものはオレたちを振り回してくれる。



 メイア達と話すのに夢中になって気づかなかったが、外はもうすっかり明るくなっていた。馬車の窓から身を乗り出して外を見ると、遠くに城壁が見えてきた。


 着いたアレク王国だ。


 馬車が城門を潜る。おそらく道が舗装されているのだろう。先ほどまでとは比べ物にならないほど馬車は静かにはしる。もしかしたら身分を証明できるものを求められるかもしれないとヒヤヒヤしたがさすがは王族の力、ドラゴンの魔法さえ防ぐような壁をオレを乗せたまま素通りしてしまった。道端で拾った得体の知れないオレを、だ。


「ようこそアレク王国へ!!」


 どこからか歓迎の声が聞こえる。


 つい五分前まで通っていた道とは比べ物にならないほどの人、建物、街並みが眼前に広がる。はるか遠くに見える雲にまで届きそうな高い城。その城まで続く長い石畳の道路。そして道路を囲うように連なるレンガ造りの家たち。


「来たぜ!!アレク王国!!」


 思わず窓から身を乗り出して叫んでしまう。


「やめなさい、はしたないですよ。誰の馬車だと思ってるのですか」


 キュークとミュエールがすかさずオレを大人しくさせる。メイアがそれを見てクスッと笑う


「気に入ってもらえたようで何よりだ。ここで止まると人目につくから一旦城まで来てもらうぞ」


 どうやら冒険二日目でお城デビューをするみたいだ、こんなことなら一張羅を来てくるべきだった。



 石畳の道路を馬車は軽快に走る。ものの15分程度で城はオレのサファイアブルーの両目に収まりきらないほど近くなった。


「それにしてもデカいなー」

「ああ、かの『大棟梁』バベル・ダーマの最高傑作らしい」

「ふーん」


 こんな城は掃除も大変なんだろーな、などと関係ないことを考える。少し昔まではデカい城を持つことに憧れていたが。今ではこんな現実的なことを考えてしまう。これが大人になると言うことなのだろうか。


「お嬢様、到着いたしまいた」


 馬車が止まり扉が開く。


「おかえりなさいませ、メイアお嬢様」


 ゆうに二十を超える執事やメイドが俺達を出迎える。見惚れてしまうほど美しいお辞儀だ。


「う〜ん、四十五度」

「どうした、アーノルド?」

「ああ、ごめん気にするな」


 思わず口に出してしまっていた。


「さて、アーノルド。君はこれからどうする?そのある人物は王国内にいるのか?」


 メイアがオレに聞いてくる。


「いや、多分いない。でも手がかりはあるはずだ」

「そうか、何か力になれることがあったら行ってくれ。あと・・」


 メイアが口をモゴモゴさせながら何かを言いかける。何だろう?そんなに言いづらいことなのだろうか?まさかオレに惚れたとか?まったく、罪な男だぜアーノルドよ。


「私に魔術を教えてくれないだろうか?」


 やっとの思いでメイアが口を開けた


「魔術?オレがか?言っとくが、そんなに上手な方じゃないぞ。しかもサラマンダー相手にしっかり使ってたじゃないか。」


 実際、あの時の岩壁は出力、速度共にかなり洗練されたものだと思う。


「実を言うと、お嬢様は土魔術しか未だ使えなくてな。と言うのも今までは魔術の勉強をあまりされてなかったので」


 すかさずミュエールがフォローを入れる。メイアも申し訳なさそうな顔をしている。


「オレは良いけど。良いのか得体の知れないオレが城の中ほっつき歩いて?俺たちは昨日会ったばかりだぞ?」


「大丈夫、少なくともお前は悪いやつではなさそうだし、嘘もつかなかった。・・・もし万が一のことがあっても、私たちがいる。どうかお願いしていただけないか?」


 そういい『サンザル』さんたちはオレの方を見据える。サラマンダーの相手をしていた時以上の殺気だ。

怖いものだ。こんな緊張感の中、お嬢様の願いを断れるわけもなくオレは渋々お嬢様の『お願い』を聞き入れた。


「わかりました。 魔術教師の任、しかと承りました。」


 メイアの表情がパァッと明るくなる。


「ありがとう、アーノルド。いやアーノルド先生」


 面倒臭いといえば恐ろしく面倒臭いが、可愛い生徒を持つのは嬉しいものだ。もしかしたら王城の中でオレの探しているものの手がかりもあるかもしれない。


「よしてくれ、アーノルドでいい。いやエルフの奴らはオレをアンって呼ぶんだ。メイアもそうしてくれ」


「そうか、ではアン。貴殿に剣神の導きが在らんことを」


 剣神の導きか。悪くない響きだ


「ああ、じゃぁまたな」


 馬車で登ってきた道を下って行く。近くの民家には真っ赤なバラが5本植えられていた。


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