アレク王国第二十五話『旧友』(2)
nこれはオレが死ぬまでの物語だ。仰々しく魔王を見つけるとは言ったが、必ずしも絶対に見つけたいとは思っていない。ただ少しの心残りと、最もオレを殺せる可能性があるのが魔王だからだ。
別にその道中で死んでも良い。愛する者を守って生涯を終わらせるとかだったら最高だと思う。
もしも万が一にも死ねるのなら・・・・
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「お前がオレを殺せんのかよ? アレックス」
国王の皮を被ったかつての戦友オレに剣を向けている。
「この500年間いろいろやった。薬、スキル、魔具、人体実験・・・どれもダメだ。人間の体を不老不死にするなんて神の所業だ」
アレックスは剣をクルリと回し、柄をオレに差し出す。
「悔しいが俺の目標はお前だよ、アーノルド。切っても消されても燃やされても消滅しないその肉体と精神。俺はお前の肉体が欲しい」
「・・・身体の乗っ取りか? 知ってるだろオレは肉体も精神も概念を超えてその存在を証明されてる。オレに精神操作系は効かないぞ」
「ああ、よく知ってるさ・・・でも無理だと分かってても挑戦してみる。それが男ってやつだろ?」
「古臭い考え方だ」
ニヤリと笑うアレックスが手に持つ剣を触る。
直感で感じた。シオンの言っていた「乗っ取り」の際の触媒。それは王冠ではなく、この古びた剣だ。この剣を通してアレックスのスキルは行使される。
アレックスのスキル『模倣する者』による、複数のスキルの同時行使。
スキル『侵入者』による精神世界への干渉。
スキル『別れ話』による精神と肉体の隔絶。
スキル『心の棘』による精神破壊。
スキル『居着く魂』による肉体の乗っ取り。
スキル『存在証明』による精神の固定。
剣が床に落ちる。カランと乾いた音を鳴らす。
「・・・この死に損ないが」
「だから言ったろ、効かないんだって・・・というかしれっとオレのスキル使うなよ」
スキル「存在証明」・・・もはや呪いと化したオレの唯一のスキル。効果はそのまま意味通り。一つの対象の存在を証明する。
不老不死になれるほど強力なものではないが、ちょっとした事故でオレみたいな化け物が生まれてしまった。
「やっぱりオレのスキルだけじゃ不老不死は無理か・・・ああ『模倣』はオリジナルほど強力じゃ無いんだっけ?」
「うるさい。黙れ。じっとしてろ」
アレックスはそのゴツゴツとした手でオレの頭を掴んだ。
スキル『模倣する者』による、スキル『強奪』の発動。
「奪うのも無理か・・・」
「だーかーらー。そういうのは効かないんだって。奪う? スキルを奪うスキルなんて貴重だろ? 使用回数だって限られてるはず。貴重な一回を無駄にしたね、お疲れさん」
したり顔で煽っていたら、思い切り殴られた。痛い。
「まあ良い。はなから期待はしてなかったし、他に案はいくらでもある・・・そうだお前に見て欲しい物がある」
アレックスはそう言いスキルを発動させた。
地面から伸びるように肉の塊が生まれ、人の形を模す。まるで土魔術の『岩人形」だ。
「形代だ。さっきのミュエールも人間じゃなくてこの形代で作った人造人間なんだぜ」
「・・・は?」
「察しが悪いな。俺にはもう肉体の乗っ取りは必要ないんだ。今度からこの形代に俺の精神を移すことにした。だからお前達の作戦は意味が無い。中止にしろ。誰も死なせたくないだろ?」
「何のことやら・・・」
とぼける俺に背を向け、アレックスは牢屋から遠ざかる。その後ろ姿はオブゼル王のものに戻っていた。
「平和的にいこう。お前が動かなければ作戦は中止。メイアもお前もお仲間も死なない」
「・・・・・」
「最後にひとつだけ。死ぬなら早く死ね、後日譚の長い物語はつまらない」
「何勘違いしてんだ。この物語がメインストーリーだ。勇者一行との旅が前日譚だよ」
木の軋む音を辺り中に響かせながら、牢獄の扉が閉まった。
ー
形代に精神を移す?
もうメイアの肉体は必要としない?
嘘だ。もしそれが本当だとしたら17年前にもやってるはず・・・仮に17年前にはできなかったとしても何か他の理由があるはずだ。メイアの肉体でないといけない理由が・・・
アレックスの肉体の乗っ取りは、スキル『居着く魂』を軸にしている。他のスキルはそれの補助に過ぎない。
『居着く魂』・・・覚えてる。他社の精神内に自身の魂のカケラを送るスキル。精神内で二つの魂はぶつかり合い、より強い魂を持つ方がその肉体の主導権を握る。
しかし激しく使いづらいスキルのはず。まず他人の精神内で自分の魂が打ち勝つことはそう無い。よっぽど精神的に弱っている相手にしか効かないだろう。
しかもアレックスはそのスキルを『模倣』して使っている。故にオリジナルよりも性能が劣る。例えば、スキルの効果対象の限定など。
おそらくだが、あいつは『居着く魂』を自身の血筋にしか使えない。形代の話もオレを動かせなくする嘘だな・・・
気付くと勝手な妄想をしていた。こんな事を考えていても意味がないと言うのに。
・・・イカンイカン。別に形代の話が嘘でも本当でもどっちでも良い。オレの仕事は合図が出たら、暴れ回る。それだけ。後のいざこざは当人達でやってもらう。
足元に目を向けると、血溜まりができていることに気づく。灯りの無い牢獄で真っ黒に映るその池は、むせかえるような鉄の香りを漂わせていた。
今日はちょっと疲れたかな・・・・
ベッドを横目に硬い床に突っ伏したオレは、静かに眠りについた。




