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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第二十五話『旧友』

 今日も今日とてオレは馬車に揺られる。目的地は王城。しかし普段と違うのは両手足に枷をつけられている事。


「運が良いな、アーノルド。王都の牢屋は満員なんだ。お前の仲間たちのせいでな。だからお前は城の牢屋に入って貰う」



 キュークはニヤリと笑いながら言い放つ。


 何が面白いのだろうか。オレは理不尽にも捕えられた善良な一般市民だというのに。


 ・・・でも大体の話は見えてきた。城の牢屋で捕まってるフリをして、作戦の決行と同時に暴れ出す。なるほど、よく考えられている。


 王城の中は閑散としていた。シオンの話の通り、ここ二週間は誰の立ち入りも許されないそうだ。故に疑問がよぎる。


 いくら牢屋が満員だからといって、こんなに都合よくオレだけが城の牢屋に入れられることはあるだろうか?



 オレの手錠を掴むキュークに話しかけてみる。


「良いのか?オレを城の中に入れて?牢屋から抜け出して、戴冠式を滅茶苦茶にしてやる」


「やれるものならやってみろ。魔術の使えないお前は脅威じゃない。そもそもどうやって牢屋を抜ける」


 事実である。今オレの手足にかけられた手錠、これらは魔力のこもった鉄でできている。魔力を放出できるのは手足の先だけ。つまり魔術を行使しようと手と足に魔力を流しても、魔鉄の魔力で乱されてしまう。今のオレは魔術が使えない。


「そういうスキルを持ってるとは思わないのかよ」


 キュークにカマをかけてみる。しかしキュークは微塵の同様も見せず、ポケットからあるものは取り出した。


「じゃあ、試してみるか。『お前は手錠を外す、もしくは牢屋から抜け出せるようなスキルを持っている。はいかいいえで答えろ。沈黙またはその他の回答は肯定とみなす』」


 オレの顔の前でキュークは小さな鈴をぶら下げる。


 真実の鈴。嘘を見抜く魔具。まさかコイツも持っているとは・・・


「いいえ。持っていない」


 やむを得ず回答するしかない。オレの言葉に鈴は反応を示さない。自ら自分は無力だと言ってしまった様なものだ。失敗した。



 早いもので14日くらいは経っただろうか。オレは牢獄の中でシオン達からの合図を首を長くして待っている。


 こんなに長い間、自分だけの空間にいるのは久しぶりだ。人肌が恋しい。


 少々呑気に思えるが、牢屋内の待遇は悪いものではなかった。一日3回の食事。少し硬いが、一応は寝れるベッド。たまに遊びにくるキュークとの世間話。唯一の欠点は日の光を浴びれないことくらいだ・・・


 牢屋の壁に話しかけながら時間を潰す。暇つぶしのプロとはオレの事だ。


 今日はなかなかキュークが遊びにきてくれない。まあ戴冠式間近に遊びにくるのもどうかと思うが。オレは仮にも犯罪者だし・・・


 そう思ってると牢獄と城を繋げる扉が開いた。夕食の時間だ。


 今日の食事担当は誰だろうか。キュークならそのまま話し相手になってくれるので当たり。イワンは食事を投げつけてくるだけなのでハズレだ。


ソワソワしながら客を迎える。意外にも今日の食事は王女様が持ってきてくれたようだ。


「ようこそ、メイア!!元気か?」


 オレの声に少し安堵の表情を見せた王女様だが、すぐに怒りの表情をあらわにする。


「ミュエールが教えてくれた。私の誘拐を計画して捕まったんだってな・・・」


「まあ・・・色々あってな・・」


 言葉を濁すオレに向かってメイアは鈴を取り出す。持ってきた食事と一緒に、大粒の涙が牢獄の床に落ちた。


「アーノルド!! 君の目的はなんだ!? いつから計画していた? 何の目的で?

君は私の敵なのか?」


「冷静になれメイア。鈴の使い方がなってない。その鈴が判定できるのは嘘だけだ」


 らしくもなくメイアは取り乱している。当然だ、家庭教師が捕まって牢屋の中でヘラヘラ笑ってるのだから。


でもこれだけは分かって欲しい・・・


「オレはいつでも君の味方だ、メイア・・・」


 鈴は音を鳴らさない。牢獄を包んだ静寂がメイアに落ち着きを取り戻させる。


「詳しくは言えないが・・・時期は分かるだろう。オレの行動の意味が。そうだな・・・最後の宿題だ。もう一度じっくり考えてみるといい、王になるってことについて」


 詳しくはシオン達がメイアに伝えるべきだ。オレの口から言える事はこれが全てだった。


 メイアは新しい食事を持ってくると、牢獄を出てしまった。


 少し待つとまた牢獄の扉が開く。しかし食事を持っているのはメイアでは無く、護衛騎士がひとり、ミュエールさんだった。


「お嬢様相手なら何かボロを出すと思っていたが・・・」


「バカにするな。伊達に長生きしてねーよ」


 にこやかに笑いながら食事を牢の中に入れてくる。しかしミュエールのその瞳の奥は冷たく、オレの心を見透かしている様な眼差しを向ける。


「さて・・・キュークとイワンの尋問はあまり効果がなかったようだ。今からこの空間は拷問に変わる」


「・・・・痛くしないでね」


 そう去勢を張ったと同時にミュエールは剣をオレの足に突き刺す。拷問用の剣なのかギザギザのカエシがついている。ミュエールが剣を動かす度に肉が裂かれる様な痛みを感じる。


 牢屋の中に血溜まりができる。肉が見えるほど大きな傷口は塞がらない。中で血管がズタズタになっているのが見える。


 ゴリゴリゴリ


 剣はそのままオレの骨を貫こうとする。断末魔をあげながら抵抗するオレは、力無く倒れる。


 意識が途切れる・・・そう思った瞬間。ミュエールはオレの口に液体を流しこんだ。激しい倦怠感の中、オレの足に開いた穴が塞がっていく。


「何か話す気になったか?それとも第二ラウンドといこうか?」


 ミュエールの背後には無数の拷問器具が置かれている。


「・・・メイアが言ってたぞ。ミュエールは頭が固いって・・・」


 棍棒がオレの頭をかち割る。再度意識が途切れそうなる直前、ミュエールの口角が少し上がっていることに気づく。



 痛い。何時間やってる?痛い・・もう全部喋っちゃおうか・・・痛い・・・


 ミュエールの背後の拷問器具が半分の量になったあたりだろうか。流石にミュエールの顔にも疲れが見えてくる。


「少しお疲れかな、ミュエール君」


 ミュエールの顔は怒りの表情に満ちている。ここまで拷問に耐えたものは過去にいなかっただろう。特に回復薬ありの拷問は常人にはまず耐えられない。


 でもオレは痛いの慣れてるしな。こういう時はこの身体に感謝だな・・・


 そう思っていたらミュエールは床に座り込んだ。体力の限界のようだ。オレに根性勝負を挑むとは良い度胸をしている。


 ミュエールはオレに向かって手を向けた。


「これはあの時代にはなかっただろ・・・『電撃(エレクトロ)』」


 ミュエールが言い切ったと同時に、雷がオレの体を貫いた。


 全身に小さな針を刺されている様な激痛が走る。しかも針達は体中を泳ぐように蠢く。


 泡を吹きながら倒れるオレにまた回復薬を飲ませ、ミュエールは笑う。黒焦げになった手足は修復されたのに、体の痙攣は治らない。痛みの感覚が蓄積されていく。


 ・・・ちょっとヤバイな。新しい種類の痛みだ。慣れるまでに時間がかかる。確かにこんな拷問は過去になかった。


「・・・というかお前、『あの時代』って言ったか?オレが誰か知っているのか?」


 オレの言葉にミュエールは手を止める。


 おかしい話だ。オレの正体を知るものはシオン達だけのはず・・・いやもしかして他の文献にも名前が載っていた? それでもオレが不老不死だなんて普通思うか?


「お前・・・オレの正体を知ってるな? どうやって知った? いや誰が教えた?」


 ミュエールは黙り込む。何か隠していることがあるようだ


 そうだ鈴。こいつも持ってるに違いない。


「ミュエール、お前にオレの正体を教えたのはオブゼル王である。はいかいいえで答えろ。他の回答も肯定だ」


「・・・・・」


 ーチリン


 微かにミュエールのポケットから鈴の音がした。


「そうか・・・身体の乗っ取りの真相はー」


そう言いかけた瞬間、牢獄の扉が開いた。


 カツン カツン


 と音を鳴らしながら男が近寄ってくる。


 暗闇の中で尚、輝く金色の髪。年季の入った剣を腰に差すその姿は、近寄りがたく、平伏したくなる。


「・・・王」


「ミュエール。下がってろ」


 男の一声でミュエールは牢獄を出ていく。


一連の行動が無くとも雰囲気で分かる。オブゼル王だ。


「貴様がアーノルドか・・・戴冠式の妨害を目論むという」


「演技が白々しいんだよ。アレックス」



 オブゼル王の皮を被ったかつての戦友は、記憶とは違い陽気だった。


「やっぱバレたか? 久しいなアーノルド。アレク王国建国のパレードで別れたのが最後だもんなー。お前はやっぱり全然変わんないな」


「うるさい。お前は何をしてるんだアレックス。何故まだ生き永らえている・・・」


「俺のスキルは覚えてるだろ。子孫代々の体を乗っ取って俺の魂を受け継がせてるんだよ。まあ戴冠式の日になったら分かるか・・・」


「どうやってじゃない。なんでを聞いてるんだよ!!」


 オブゼル王もといアレックスは、にっと笑って見せる。


「そりゃあ、死なないためさ。本当は肉体の保存も考えたんだが、俺のスキルじゃどうしようも無くてな。仕方ないから魂、精神だけを生き永らえさせてるんだ」


「どうしてそんなことを・・・」


 絶句するオレにアレックスは言う。


「お前がそれを言うか?世の全ての権力者が欲しがる不老不死を持つお前が・・・・」


「・・・・・・」


 オレがアレックスを狂わせてしまったのだろうか? 嫌味なやつだったが、剣と志を語る時は真っ直ぐなやつだった。何故オレに関わる人間は狂ってしまうのだろうか?


「自惚れるなよ、アーノルド。別にお前に狂わされた訳じゃない。俺は昔からこうだった」


「心も読めんのかよ・・・」


「いや流石にそのスキルは無い。今のは勘だ。一緒に魔王を討伐した仲間の考えてる事くらい分かる」


 アレックスの言葉にカッとなる。


「魔王を討伐した? お前も覚えてるだろうが、オレ達は魔王を討伐できなかった!!」


「討伐したさ。そう決めたろ。世間的にはそうするって決めたのを忘れたのか?俺達は魔王を討伐した勇者一行だ!!」


 アレックスも声を荒げる。しかし深呼吸をしてすぐに落ち着きを取り戻した。


「まあ良い。俺の番だ。アーノルド何で今更になって人里に降りてきた? 何が目的だ」


「・・・オレは魔王を探す。魔王がオレの欲しいものを持っているはずだ」


 オレの発言にアレックスは腹を抱えて笑う。


「まさかまだ言ってるのか『死にたい』なんて。しかも魔王を探す?冗談はよしてくれ、魔王なんてものは存在しないんだよ。全部魔族が作った御伽話、人類で言うところの神の様な虚像なんだよ!!」


「勇者が言った言葉を忘れたのか?」


「いつまで勇者を信じている? あの偽善者こそ虚像だろうが!」


 だめだ埒があかない。元々コイツとはあまり合わなかった。しかも化け物になった剣聖なんかに最早話が通じるとは思えない。


「それでもオレは探すよ。この物語はオレが死ぬための物語だ。魔王が持つ世界の謎を手に入れて、オレは死ぬんだ」


「別に魔王を倒す必要は無い。そんなに死にたいのなら、今夜死なせてやる。かつての戦友への感謝の気持ちだ」


アレックスは腰から鈍い銀色に光る剣を鞘から抜いた。500年前に人類を守りしその剣は、かつての様な神々しさ見せていなかった。

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