アレク王国第二十四話『逮捕』
要するにアレク王国の王は何者かに乗っ取られていて、それを妨害するためにメイアを拐いたいらしい。
身体の乗っ取り。もしそれが本当だとするのならばスキルの類だろう。過去にも同じようなスキルを使うやつを見た事がある。
「・・・で話から察するに17年前の計画は失敗したんだな?」
長話を終え、茶を啜るシオンに尋ねる。
シオンの話から17年後の現在。アレク王国に鬼の領土は無く、シオン達も未だにギルドを続けている。そして再び同じ計画をしようとしているのだから、恐らく現国王オブゼルも身体を乗っ取られたのだろう。
「失敗というかやる意味が無くなったんだ。当初の計画では戴冠中に騒ぎを起こし、その混乱に乗じてオブゼルを拐うはずだった。オブゼルは身体の乗っ取りの際の触媒として、王冠が使われると考えてたからだ。だから拐うと同時に王冠も破壊する手筈だった・・・しかし戴冠式が始まる前、王冠を頭に乗せる前からオブゼルはもう乗っ取られていた」
シオンはソファから立ち上がり一冊のノートをテーブルに置く。メイアの使っているノートに酷似していた。
「オブゼルが残したノートだ。そこに全てが綴られている」
ノートに目を通す。
シオンの言う通り、ノートにはオブゼル王の半生から計画の手筈、そして計画が失敗した際の事についても書かれていた。
要約すると。
もし失敗た暁には護衛騎士とギルドの運営を続けつつ、戦力を確保して欲しいこと。そして17年後、つまりは現在に同じ計画を立て今度こそ国を救って欲しいと書かれていた。
否。国を救って欲しいとは書かれていなかった。ノートの最後の一文は王としてでは無く、ひとりの父親の願いが書かれているだけだった。
『我が娘メイアを自由にしてやって欲しい。乗っ取りを阻止し、自由に羽ばたける様にしてあげて欲しい』
そう綴られていた。
シオンは真剣な眼差しでオレを見つめる。
「もう一度聞く。メイア王女誘拐もとい奪還作戦。それに協力してくれるか?アーノルド・アンダーソン」
ー
少し迷っていた。メイアは可愛い生徒だ、助けてやりたい気持ちもある。この国の住人達にも世話になった。
しかし同時に面倒臭くもあった。何せ相手は国王、しかも中身は得体の知れない化け物。対峙するにはリスキーすぎる。そもそもオレの旅の目的は死ぬまでの暇つぶし、最初の国で悪名を広めたくない。
「悪いけど。オレは不参加で。その代わりこのことは誰にも言わない。そもそもオレ抜きで進行してた計画だろ?オレがどうしようと大差ないはずだ」
オレの言葉にシオンは顔を濁らせる。帰ろうとするオレを強引に引き留め、懇願する。
「この計画には一つ大きな不確定要素がある。メイア王女の意思だ。万が一にも彼女が考えるのを放棄して、乗っ取りを受け入れてしまったら。全ての計画が無駄になる」
「オブゼル王は自由にさせてくれと言ったんだろ?乗っ取られるも逃げるもメイアの勝手だ。自由に決めさせてやれよ」
「追い詰められた際に出された選択肢を選ぶことを自由とは言わない。それは『自由』という皮を被った『強要』だ。まず自分で選択肢を選ぶ事が出来るのを自由と呼ぶんだ。その選択肢を得るために、人は戦う」
ただの綺麗事だ。そもそも生物は生まれた時から選択を強要されている。生きるか死ぬかという事を。シオンの言葉通りなら生物は生まれながらにして自由じゃないという事になる。特に「死」という選択肢が無いオレは。
「じゃあこういう言い方はどうだい?・・・私達の命をかけた生き様を、いや死に様を見届けてくれ」
シオンの言葉にオレは立ち止まる。そんなオレを見てシオンはニヤッと笑った。
「やはりそうか・・・アーノルド。君は人が命をかける瞬間を見届けるのに固執している。不老不死ならではの感情か、それを美しく感じてるのだろう?」
「別に好きなわけじゃ無い・・・ただ理解したいんだ。命の捧げ方ってやつを・・・」
「なら約束しよう。二週間後。私達は王国に楯突き、派手に散ろう。君にはそれの手伝いをして欲しい」
何度も食い下がるシオンとシヴァにオレは遂に根負けしてしまった。
「分かった、協力しよう。ただヤバくなったら逃げるからな」
「ありがとう」
安請け合いしてしまった。こんなことは勇者達との旅中で、もうこりごりだと言うのに。
まあ良い。これも思い出のひとつだ。死ぬその瞬間に思い出して、クスッと笑えるような事件になるのなら後悔は無い。
ー
「具体的には何をすれば良い?」
オレの問いに少し目を泳がせながらシオンは説明する。
「何というか・・・城を内部からメチャクチャにして欲しい」
「どういうことだ?メイアの授業の最中に暴れれば良いのか?」
「違う。そもそも戴冠式の前二週間は誰も城に立ち入れない。授業も無いはずだ」
「そうなのか・・・じゃあ城に侵入するのか?言っとくけどオレに隠密は出来ないぞ。色々と目立つからな」
「いや侵入じゃない。それは後になれば分かる。とりあえず計画は17日後、戴冠式の前夜。その日の夜20時まではオブゼルは乗っ取られていなかった。だから計画の決行は夜19時と覚えておいてくれ」
計画の全容が掴めない。オレが城で囮になるのは良いとして、どうやってメイアを城から脱出させるつもりか分からない。
オレの考えを察した様にシオンは続ける。
「メイア王女を拐うのは城の内通者だ。君はとにかく囮に徹して欲しい」
「その内通者ってもしかして・・・」
言いかけたオレの口をシオンは抑える。
「内通者の質問はしないでくれ。あちらには嘘を見抜く魔具がある。君が内通者が誰かを知っていると色々と面倒だ」
・・・『真実の鈴』嘘の言葉に反応して音を鳴らす魔具。
確かにオレが内通者を知っていたら面倒だ。しかしシオンの物言いは、あちらがオレに尋問をするのが確定している様な話し方だった。
「・・・分かった」
疑問に思いつつもシオンの言葉に頷く。いつの間にか部屋にオレとシオンしかいない事に気づく。
気にせず次の疑問を投げかけようとしたその瞬間、所長室の扉が勢いよく開いた。
「アーノルドはここにいるか!?」
開いた扉の奥には数人の兵士、そして見慣れた顔が二つ並んでいた。メイア王女様が護衛騎士、イワンとキュークだ。
「どうしたんだ?」
オレの言葉にイワンは一瞥もくれずに、歩み寄ってくる。状況を理解出来ないオレの両腕をサッと掴み、重く硬い手錠をオレの手首にかける。
「アーノルド。お前を王女誘拐未遂の容疑者として逮捕する」
「え???」
キュークは残念だという顔をしながらオレの罪状を読み上げる。理解できないオレは流れのまま連行されるしかなかった。
何故か知らんフリをするシオンを後に、所長室から連れ出された。手錠をつけたまま歩くオレを冒険者達は白い目で見る。特に遠目から事を見ていたミューイの顔は、怒っているような哀しんでいるような、一生頭から離れない様な表情をしていた。




