アレク王国第二十三話『聖剣の心』(2)
<17年前アレク王国>
疎外感を感じていた。
周りは皆、連日のお祭りムードに浮き足立っている。そう、この国の第一王子オブゼル・アレクサンダーの戴冠式をちょうど3週間後に控えているからだ。
この国にたったの5年しか住んでいないオレにとっては、事の重大さがよく分からなかった。
5年間同じところで生活を続けている割には、友人が少ない。良く話すのは二人が良いところで、親友と呼べるものはいない。必然的に、一緒に祭りで騒いでくれる悪友もいなかった。
しかし聞く話によると今回の祭りは「控えめ」らしい。というのも最近、王都だけではなく国中で犯罪が多い。殺し 強盗 窃盗がより身近なものになっている。全ては近頃よく耳にする犯罪組織「怒髪悪鬼」のせいだ。
何もかも「鬼」のせいだ。犯罪組織の頭も鬼と聞いた。王国中のワルと徒党を組んで国家転覆でも狙っているのだろうか・・・
鬼族。東洋から渡って来た魔族の一種。ちょうど俺がこの国に来た辺りだろうか、王政が新しい取り組みとして王国そして王都内の魔族と東洋人の立ち入りを緩和したらしい。
約3000の東洋人と2000を超える鬼族達。彼等はあっという間にアレク王国の風習に順応し、ここで生計を立てることに成功した。今朝ちょうど始めたての仕事をクビになった俺と違って。
昔から不器用なのだ。技術面でも対人面でも。特に口下手ってのが痛い。自分では上手く喋っているつもりが、いつの間にやらあらぬ誤解を招くことがある。厄介なものだ。
スキルも持っているが、あまり人生の役には立っていない。利便性は高い方だと思うが、扱いが難しい。ここ一年はまともに使っていない。
さて如何しよう・・・・
とりあえず明日の食い扶持を探さなければ。手持ちの金など無い。いっそ故郷で流行っていた「冒険者」とやらになってみようか・・・・・
ー
路地裏で何やら叫ぶ声が聞こえた。
そんな暇はないと分かりつつ、野次馬根性で見に行ってしまう。しかし行ってみるとあまりにも人目が少なく、薄暗い雰囲気だったので少し足がすくむ。
「助けてくれ!もうしない!金もやる助けてくれ!!!」
全身から体液という体液を放出しながら懇願する男は宙に浮いている。否。ぶら下がっている。両腕を天に祈る様な形で上げ、それを支えにその小さな身体は地面から数十センチ浮いている。
「そういう話じゃ無いんだよ。お前らはしちゃイケねぇ事をした分かるか」
懇願する男を掴み、宙に吊るしている巨体の男が言った。あり得ないほどに発達した筋肉を服の上から確認できる。吊るされている男の腕は握り潰されてひしゃげている。それでも筋肉の男は掴むのをやめない。
助けるか・・・あのくらいなら勝てるかな。助けたら金くれるかもだし・・・
昔から喧嘩だけには自信があった。故郷で冒険者になった知り合いにも喧嘩を売られることが多々あったが、負けたことはない。確かそいつのランクはCだった。
「おい!離してやれよ!!」
俺の威勢良く放った言葉に筋肉の男は反応する。刹那、俺は姿勢を低くし男に向かって全速力で駆け抜ける。
一瞬、反応が遅れる男。ちょうど食べていた串焼きの串を男の顔に放り投げる。
そのまま男の大股の間をスライディングしながら、金的を一発。
筋肉の男が悶絶してるうちに、いじめられっ子を担いで退散する。体液と血が混ざってぐちゃぐちゃだ。
逃げ切れる。そう思ったその時、背後から悪寒がする。王国の生活で鈍った勘がそれでも俺に警鐘を鳴らす。ヤバイの来ると。
「逃すかよ 剛 腕!!!」
男は掛け声と共に拳を振り下ろした。拳が地面に触れた瞬間。ものすごい轟音と共に、衝撃波が俺の体を吹っ飛ばす。辺りの壁や地面はただの瓦礫と化した。
壁に叩きつけれ意識が朦朧とする。担いでいた男の息は絶え絶えだ。颯爽と助けるどころか、自分もピンチに晒すとは。やはり俺は不器用らしい。
・・・スキルか・・・忘れてた、やっぱり鈍ってんな・・・
助けようとした事を後悔している俺に筋肉の男は近寄ってくる。その巨大な拳を鳴らしながら。
「選べ。今死ぬか。俺達の組織でこき使われて死ぬか」
故郷から飛び出して早5年。アレク王国で一発当てようと夢見ていた俺は、犯罪組織「怒髪悪鬼」の一派に加わることが決定した。
ー
「組長 お疲れ様です!!」
路地裏でボコられた俺はそのまま組織のボスに「お目通し」することになった。
俺をボコったこの筋肉質の男の名前はノヴァというらしい。組長の右腕的ポジションだとか・・・
「ご苦労ノヴァ・・・ええと君は新入りかね」
組長は俺の方を向いて言う。しっかり挨拶をするあたり荒々しい人ではない様だ。訂正する。人ではない。今は頭を下げているので見えないが、さっきチラッと組長の頭に2本の角が見えた。やはり噂は正しかったようだ。
「はい!!今日から入ります・・・ええと名前はー」
俺が答えようとすると組長が遮る。
「名前は言うな。私達は犯罪組織だ、偽名を使っている」
「分かりました!!」
元気の良い返事に組長は満足したのか、高らかに笑う。そして俺達に頭をあげるよう命令した。
組長の姿が目に入る。茶色の短髪。赤い2本の角。東洋人らしい渋い顔。この室内で一番小柄にも関わらず、言い表せない「凄み」を発している。
「今日から君は『キク』と名乗れ。故郷の花からとった。しっかり働いてくれよ」
「はい!!」
ー
数時間前まで犯罪組織の一派になるという緊張で吐きそうだったが。存外、上手くやっていけそうだ。犯罪に加担するのは少し負い目を感じるが、この国にそこまで思い入れは無い。ある程度の犯罪をして、この組織内での地位を築こう。いずれは組長の座まで奪い取ってやる。
「さて・・・私達は何をしているか知っているかね?キク君よ」
座椅子にどっかりと座る組長が俺に尋ねる。
今の俺は下っ端だ。一言一句気をつけねば・・・
「巷では犯罪組織と呼ばれています。殺し、盗み、脅し、何でもやる集団だと」
俺の答えに組長は笑う。組長の横に立っているノヴァさんもはにかんでいた。
「まあ間違いでは無いだろう。君も見たように私達は平気で殺すし、人を痛めつける。盗みはやったこと無いはずだが、脅しは日常茶飯事だ。私達の行動理念は分かるかね?」
組長は質問を投げかけてくる。
しかしなんで人殺しをするかなんて分かりたくもない。どうせ魔族は迫害された、とか気に食わないから、という恨み辛みだろう。
「・・・・さあ?」
間違っても角が立たないように言葉を濁す。すると組長は立ち上がり、室内を歩き始めた。
「じゃあ少し勉強の時間だ、少年よ。アレク王国には今、東洋人と鬼族がいることは知っているよね?五年ほど前の取り組みにより私を含める多くの鬼族がこの国にやって来た」
「はぁ」
俺の気の抜けた返事を横目に組長は続ける。
「今、鬼族と東洋人はアレク王国全体に何人いると思う?失礼、君には何体と聞いた方が良いかな?」
「確か五年前に東洋人が3000鬼族が2000だったので、ちょっと増えて4500と3000くらいですかね?」
適当に数字を言ってみる。しかし組長の表情から察するに俺の答えは組長の「予想通り」だったらしい。
「東洋人の数は概ね正解だ。今は5000くらいかな。一方鬼族は大間違いだよ、キク君。アレク王国内の我々鬼族の数は今や300にも満たない。王都にいたっては数えるほどしかいないだろう」
確かに王都で鬼を見たことはなかった。違う地域に行った時に数人見る程度だろう。
「何で減ったんですか?」
俺は尋ねながらも答えを知っていた。そしてその答えが「怒髪悪鬼」を極悪集団たらしめる理由だということも知っていた。
「彼らは殺されたのだよ。その頭につけている角は高値で売買されるという理由で」
そう「怒髪悪鬼」の噂で「鬼の乱獲」というものがある。飲んだら不老不死になると言われるその角はワル達の格好の標的になっている。
・・・鬼か。闘ったことは無いが強そうだ。殺せと言われたら殺せるかな?
未だ熱く語る組長の目は血走っている。同時に二つの大きな雫を両目からこぼしている。
「こんな理不尽があっても良いだろうか?・・・・否!!私達『怒髪悪鬼』は全ての鬼族を守る。悪しき心を持つ者を潰し、脅し、殺し尽くす!!文字通り心を鬼にして」
ノヴァさんも組長の言葉にうんうんと頷く。
どうやら犯罪組織『怒髪悪鬼』は、所謂「義賊」というものらしい。
大変立派な志、実に結構だと思う。俺は別に人助けのために組織に入るわけじゃないが。いや、鬼助けか・・・
どうでもいい。人の命も、鬼の命も久しくどうでも良い。食うに困らない金が手に入るのならそれでいい。
こんな自分はもしかしたら世界で一番の無差別主義者なんじゃないかと思ったりする。




