アレク王国第二十三話『聖剣の心』
帽子の良く似合う老人は不敵な笑みを浮かべる。老人は傍から一冊の本を取り出し、テーブルの上に見せるように置いた。
『大賢者ハンツの手記』
オレが迷宮から持ち帰った、勇者一行の記録。まさか自分で墓穴を掘るとは・・・
「よく分かりましたね。確かにオレは元勇者一行の魔術師です・・・でもそれと王女誘拐に加担するのは関係ない。このことは王女に伝える、全員首を洗って待ってるんだな」
これ以上に話がややこしくなる前に部屋から逃げようとする。しかしシヴァがオレの方に手を回しソファに押さえつけてくる。
想像以上の力だ。魔力で身体を強化してもピクリとも動かない。
老人とギルドの男はオレの答えに眉ひとつ動かさず笑みを浮かべている。何もかも見透かしているようだ、それとも冷静を装っているのか。
どのみちコイツらが馬鹿なのは確定だ。計画をバラしたことでシヴァ達はオレを仲間にするか消すかの選択肢しかなくなった。死なない相手を無力化するなど、それこそ王女誘拐と同等に難しいことを教えてやる。
「まあまあ、話だけでも聞きましょうよ。失礼、自己紹介がまだでしたね。私『聖剣の心』で事務長をやっています。ラルム・ロディアです」
老人の横に立っていた男が、シヴァを落ち着かせながら言う。そして茶を淹れてくると退出してしまった。
「まあいい・・・別にオレはお前達の計画が成功しようが失敗しようが、どうでもいい。戴冠式の後すぐにこの国を出るつもりだったしな」
老人はにっと白い歯をみせながら、オレを見つめる。シヴァに解放してやれと言い、おもむろに被っていた帽子を脱いだ。
帽子の下には薄くなり始めている茶色の髪が見える。しかしその薄毛に目が行かなくなるほどの2本の角がそびえたっていた。
「挨拶が遅れた。俺の名前はシオン。東洋から来た魔族、鬼だ」
赤く細長い角は、光の反射で黒光りする。五百年前、数多と見てきた魔族達の姿形が脳内をよぎった。
ー
「鬼族。そうかお前は魔族か・・・・」
オレの発した言葉に少し悲しげな表情を浮かべつつ、鬼の老人シオンは言う。
「ああそうだ。最初見た時は君も仲間だと思ったが、君のそれはただの髪の毛か・・・」
オレの頭の上の逆立った2本の髪の毛をシオンは指差した。咄嗟に頭を手で抑えるも、オレの髪の毛は平になってくれない。
「500年前に人類と魔族の対立は終わったはずだ。今更になって如何しておまえが王国に楯突く?先祖のための復讐か?」
老人とシヴァはオレの言葉にキョトンとする。数秒の沈黙の後、シオンは何かを察したのか笑いながら説明をする。
「悪い悪い。アーノルド君。君の情報は500年前から止まっているようだ。君の言う通り魔族と人類の対立は終わった、君と勇者のおかげでね。今や私達は友好な関係を築いている。というか最近では魔族と人類という見方で区別することさえ良くないと言われている。私達は等しく同じ『人型の種族』という事で共存しているのだよ」
シオンは話を続ける。
「・・・まあ。その点アレク王国は少し考えが古臭くてな。今尚王国での魔族の立ち入り、移民を制限している。他の国に行くなら楽しみにしておくと良い、魔族と人類は種別の垣根を超えて共に発展を遂げているのだから」
声を高らかにシオン熱く語る。シヴァの咳払いで我に返ったのか、本題へと話を戻した。ちょうどラルムも茶を四つ持って帰ってきた。
「脱線したな。まあこの計画には魔族云々は関係ない、とも言えないが俺達の行動理念は種族差別とかそんなちっぽけなことでは無い」
「じゃあ何だよ。惚れた女の為とか言うなよ」
オレの発言にシオン、シヴァ、そしてラルムは同時に口角を上げる。何だ何だと周りを見渡すオレに向かって、シオンは勿体ぶって答えた。
「男と男の熱い約束さ。それも17年物の」
オレはシオンの的の得ない話にうんざりしていた。早く理由を述べて欲しいものだ。せめて長話になるなら茶菓子の一つでも出して欲しい。
男と男の熱い約束ねぇ・・・・
まだ麗しいレディーとの約束の方が良かった。男のむさ苦しい友情など犬も食わない。特にこんな筋骨隆々の父親と魔族の老人の話など誰が感動するものか。
「そうあれは17年前のこと・・・」
帽子を再度その薄い頭髪の上に戻してシオンは語り始める。煙をふかしながら、シオンは遠くを見つめる。置いてきた青春の1ページを大事に大事に捲るように。




