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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第二十一話『王女誘拐事件』(2)

 緩やかな坂道を降って行く。普通よりも豪華な装飾が施される馬車が、物凄い速度で路を突っ切るのは見るに異質だろう。小窓から見える王城は、2本の指で隠せるほどのサイズになっていた。


「メイア!これ大丈夫なのか?」


 はしゃぎながら正面に座るメイアにオレの声は聞こえない。いつの間にやら脱いでいた甲冑は足元に散乱していた。


「久しぶりだな、城から抜け出すのは!! 悪いなアン付き合わせてしまって」


 オレの方を振り向き、メイアは釈明した。謝りながらも、その顔は反省の色を見せてはいない。


 付き合うというか、強引に連れてこられたんだけど・・・



 心の中で文句を垂れながらも、メイアの笑顔を見ていたら怒る気が失せた。この王女様の本質はお転婆だったことを思い出す。


「絶対ヤバイって。すぐキュークかイワンが飛んでくるぞ」


 忠告するもメイアは聞く耳を持たない。寧ろ、そんな事言われなくても分かってる、という顔をしている。


「大丈夫だ。前は一ヶ月に一回は王都に来てたんだ。イワン達に捕まったことは未だ無い」


 ドヤ顔でメイアは語る。何がそんなに誇らしいのかは分からないが、護衛騎士達にバレないのであれば安心だ。連帯責任で打首にでもされたらたまらない。


「・・・でも、街の人達にバレるだろう。仮にも王女様だぞ」


「それなら大丈夫!!返送するからな!」


 勢いよくメイアは立ち上がる。同時に馬車はスピードを緩め、メイアはバランスを崩した。


 どうやら目的地に着いたようだ。


 恐る恐る周囲を確認しながら馬車を降りると、見覚えのある家が視界に入る。


 王女様を拐った馬車の目的地はシヴァとミューイの家、つまりはオレの下宿先だった。



「あの〜メイアさん。ここオレん家何ですけど・・・」


「ああ。ここに泊まっているんだろう?知っているぞ」


 何を当たり前のことを言っているんだ、という顔をしながらメイアは玄関を開ける。まるで毎日通っているように、躊躇なく中に入っていく。


 家の住人が出払っていることを願いながらメイアに着いていく。時刻は昼を少し過ぎた辺りなので、誰もいないはずだ。


 もしあの二人にこの状況を見られたら説明できる気がしない。


 しかしこういう日に限って物事は上手く行かないようだ。ちょうど二階から降りてきたミューイとメイアが鉢合わせた。


「あ、やべ」


 二人は互いに目を丸くさせながら身体を硬直させる。オレも事態の収拾をどうつけようかと脳を超高速で回す。


 ・・・何て説明しよう。街の視察とか言えばいいのか?というか女の子を連れ込んでるってミューイに思われたらどうしよう?もしかしてこれ、修羅場ってやつか?


 考え過ぎて見当違いな心配が新たに出来てしまった。


 しかしオレの考えは全て杞憂だったようだ。硬直が解けた二人は眩しい笑顔を見せながら互いに抱き合う。


「久しぶりだな。ミューイちゃん」


「久しぶり〜 メイアちゃん」


 先に落ち着きを取り戻したミューイはメイアを引き剥がし、呆れたような顔を向ける。女子二人の会話についていけないオレは玄関に突っ立ったまま放置されている。


「また抜け出してきたの?」


「うん。だから変装用の服を取りに来たんだ」


「了解。私の部屋のクローゼットにあるから」


 ミューイはそう言ってメイアを二階に案内した。スキップ混じりに階段を上っていくメイアの後ろ姿は、ただの17歳の少女そのものだ。ついさっきまでオレと魔術を打ち合っていたとは到底思えない。そして2週間後にはこの国の王になる者という実感も沸かない。


 今、二階に上がって行ったのはただの可愛い少女達だ。久しぶりに友達が家に遊びに来ただけなのだ。


 蚊帳の外に置かれてしまったオレは、台所でミルクを温める。冷えた身体を温めながらゆっくりしながら、二階から聞こえるメイア達の笑い声に小さく微笑む。


 2杯目のミルクを飲もうとコンロに手を伸ばすと二階からミューイが声をかけてきた。階段の上から顔をひょっこり出すミューイは、オレの行動を観察するように目を細める。


「今から女子会するので、アン君は2階に来ちゃダメですからね」


 それだけ言い放ちミューイは部屋へと戻ってしまった。


 ミルクをカップに注ぎながら自分のことを情けなく思う。聞き耳を立てると疑われてしまう自分のことを。


 ・・・まさかそこまで信用が無いとは。乙女達の秘密の花園に近づくことなんてする訳ないし、出来るわけもない


 心の中でミューイに反論しながら、ミルクを一気に飲み干す。少し舌先を火傷しながらも冷静にカップをテーブルに置く。


 テーブルの周りをぐるりと3周し、階段の中腹に座す。耳に手を当てて、両目をそっと閉じる。



(・・・ねぇ、メイア知ってる?東洋の表現で『愛してる』を『月が綺麗ですね』って言うことがあるんだって)


(何でそんな回りくどいことを・・・普通に伝えちゃダメなのか?)


(そっちの方がロマンチックなんだって。それに・・・自分の気持ちを真っ直ぐ伝えられる人なんてそうそういなんいんだよ・・・)


(そういうものかぁ)


 少女達の笑い声と水色の声がオレの鼓膜を揺らす。内容はやはり色恋沙汰。年相応でよろしいと思う。


(そういえばミューイ。アーノルドとはどんな感じなんだ?色々と話を聞いたぞ)


「ぅおっと」


 メイアの突然の切り出しに階段から転げ落ちそうになる。


 あんなにストレートに聞くとは。オレが恋愛相談していた時も思ったが、そういう話題が大好物らしい。


 再度聞き耳を立てようと思ったが、自分の話題を聞くのにはなかなか勇気がいる。万が一にも悪口を言われるようなものなら心にかなりのダメージを負うことになる。直接言われるよりも倍以上に傷つくだろう。


 それにミューイが隠している本音を盗み聞くのは申し訳ないとも思った。


 結局は一階で大人しく二人を待つことにした。窓の外を見ながら、明日は何をしようかと考える。先程まで高い位置にいた太陽はだんだんと地平線に近づいて来ている。


「待たせたな、アン」


「お待たせしました」


 ミューイとメイアの声に振り向く。変装を終えたメイアとミューイがニヤつきながら階段を降りてくる。


 金色の髪の上に被った青緑色のウィッグ。髪色と同じ色をしたメイアの特徴的な瞳。メイアらしくない、いい意味で女の子らしいスカートとトップス。ミューイがしてあげたのか化粧もしている。


 余程の馬鹿以外は王女様(メイア)だと気づくだろう。


「いや無理だって。それ変装じゃなくて、髪色変えただけだから」

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