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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第二話『王女と鈴』(2)

もう日が完全に沈みきった頃、オレとメイアと彼女の愉快な従者達は馬車に揺られていた。行き先はこの王女様のホームタウン、アレク王国。馬車の中では蝋燭の影響か外よりメイアの顔がよく見えた。

さすが王女様、整った顔立ちだ。きめ細かい肌。ツヤっとした唇。パッチリしていて、それでいてなお凛としたエメラルドグリーンの瞳。


正直いってドンピシャタイプではないが、オレがもっと若くて尚且つ彼女が王女でなければアタックしていたであろう。


「失礼、外し忘れていました」


王女様は兜をとり、光沢のある金色の髪があらわになった。


 お団子ヘアというのだろうか。いつしかエルフの子供達が髪の毛で遊んでいるのを思い出した。

しかし三つ編みも入っているぽい、なんと呼ぶのだろうか「三つ編みお団子?」

ともかく髪の長い女性が兜を被るときはああするのだろう。覚えておこう。


「では再度改めて、アレク王国王女。メイアと申します」


「続けて私の横に座っているのがアレク三銃士の一人『ミザル』ことミュエール、正面にいるのが同じく『キカザル』ことキューク、そして馬車を引いているのが同じく三銃士『イワザル』ことイワンです」


 なんだそのややこしい名前は、10回説明されても覚えられる気がしない。そもそも「言わざる」「聞かざる」「見ざる」ってなんだよ従者関係ないじゃないか


「『イワザル』などは二つ名みたいなものだから気にしないで下さい」


 オレが心の中で吐いた毒を察したようにメイアが補足する。


「『イワザル』『キカザル』『ミザル』とは東洋の大陸で主君を守る従者のことを言うらしい。古い書物に書いてあった」


 オレの横のおじさん、確か『キカザル』さんが誇らしげに説明した。甲冑を脱いだからか腹の贅肉がやけに目につく。


 やっと喋ったと思えばどうでもいい豆知識を説明してきた。そもそもあんたら「三銃士」って二つ名がもうあるらしいじゃん。もはや三つ名じゃないか。バカじゃねぇの。大方、勝手に名乗っているのをメイアが気を使ってあげているのだろう。


 そんな毒をはけるはずもなく、とりあえず愛想笑いをしておく。メイアも苦笑いを浮かべている。


「で、アーノルド殿はあんな辺境でなにをしていたのだ、あの先には国などなかったともうが」


 メイアが強引に話題を変えた。どうやら今度はオレの質問コーナーのターンらしい。


「ただの旅の者です、実はヴァース大森林からアレク王国を目指していたんですが道に迷ってしまって」


「『迷いの森』を彷徨ったのか?よく生きてられたな」


 メガネが目を丸くする、そんなに驚くことだろうか?


 確かに普通ならリス共に食料を取られた時点でゲームオーバーだ。またこの体に助けられてしまった。


「一応地図を持っていたのですが」


「あの森はその名の通り方向感覚が狂う、地図は意味をなさない。それこそエルフ族でもなければな」


 と横の小太りキュークからお叱りを受けた。


 そうだったのか。森を突っ切れば良いと言っていた昨日の自分を殴ってやりたい。無知とは恐ろしいものだ。


「それにしてもよく私たちを見つけられたな。スキルか?どんなスキルだ?」

「ミュエール失礼だぞ」

「すいませんお嬢様」


 ミュエールがまたお嬢様からお叱りをうけ、しゅんとなる。子犬のような男だ。


 この世界ではスキルを不躾なく聞くのは失礼に値するらしい。レディーに年齢を聞くようなものだ。それこそスキルを知られている、知られていないで命を落とすこともある。昔ナーナ婆ちゃんから教わったのを思い出す。


「スキルは使えない、魔術の応用で見つけた」


 別に嘘ではない、スキルは持っているが使えるわけではない。


「そうでしたかでは魔術はどこで習ったのですか」


 次の質問が投げかけられた。


「エルフの集落で居候をしていたので・・・」


「エルフが人間を歓迎したのか?」


 ミュエールがまた目を丸くする。


 どうやら人族とエルフ族は友好的、というわけではないようだ。確かに集落で人間を見たのは数えるほどしかない。


「よしこれで決まりだなあのエルフ族に認められる人間が悪しき心を持ってるはずがない。嘘もついていない」


 メイアが突然立ち上がりそう言う。


「すまないアーノルド殿。実はこっそりあなたを試させてもらいました」


 と小さな黄金色の鈴をポケットから取り出した。


「これは真実の鐘ですか?」


 その鈴は昔一度見たことのある『真実の鐘』と呼ばれる魔具に酷似していた。人々を真実のある方向へと導く、と言われる魔具だ。でも確か家が一個すっぽり入るほどの大きさだったはず・・・


「正確には鐘から削り出されて作られた『真実の鈴』です。人が嘘をつくと鳴るようになっているのです」


 どうやらオレは気づかない間に尋問裁判にかけられていたようだ。さすが王族、可愛い顔してやることが強かだ。


「流石にアーノルド殿がいた場所が場所だったので・・・疑ってすいませんでした」


 確かにあまり良い気分ではないが、あんなところに人間が一人で歩いていたら、そりゃ怪しまれるだろう。


「いえ疑われて当然です、こちらこそ謝罪したい」


 メイアはいえいえそんな、という顔で見つめてくる。


「ところでアーノルド殿。先ほどから気になっていたのですが、本当に敬語じゃなくても良いんですよ」


「じゃあ、王女様が敬語やめたらやめます」とカウンターを入れてみる。


「いえ、年上を敬うのは当然です」


 あっさりと受け流されてしまった。


「失礼ですがご年齢は・・・」


 本当はレディーに年齢を聞くのは失礼だが、この場合は致し方ないだろう。


「今年で17になります」


 まぁ見た目通り、年相応といったところだ。サラマンダーの首を落とすところ以外は。とりあえず同じ年齢と言っておくか。オレの本当の年齢なんて見た目からは想像もつかないだろう。


「奇遇ですね、同じです。だから本当に敬語はやめてくだ・・・」


『チリン。チリン』


 オレの言葉を遮るかのように、鈴はその小さなボディを震わせ美しい音色を馬車の中に響かせた。


 完全に忘れていた。今、オレは嘘をつけないんだった。チクショー鈴め、ここは空気を読んでくれても良かったのに。


 メイアと目を見合わせる、と同時に二人で吹き出してしまった。


「では再三度改めて、よろしくアーノルド」


「おうよろしく、メイア」



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