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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第二十一話『王女誘拐事件』

 戴冠式まで残すところ20日。


 早いものでミューイとのデートから一ヶ月近く経った。不思議なことにあれからミューイとの関係は悪化していない。むしろ前よりよく話すようになった気がする。互いにわだかまりが消えたのか、今では兄妹のような間柄になっている気がする。


 ミューイがどう思っているのかは知る由も無いが・・・


 オレは相変わらずギルドと王城を行き来する生活を続けている。家庭教師の任期も残すところあと僅か。メイアの戴冠式を見たらこの国を出ようと考えている。次の目的地は隣国デパトスだ。


 ミューイが作ってくれた朝食を頬張りながら窓の外に目をやる。最近はミューイがご飯を作ってくれることが多くなった。


 この家も含めた辺り一帯の家には華やかな装飾が施されている。街のお祭りムードは冷める事なく、寧ろ加熱する一方だ。王都だけでなくアレク王国全土で戴冠式を待ちに待っているらしい。


 人々の熱気とは裏腹に外には冷たい風が吹く。花壇に植えられた花々も未だその蕾を見せていない。


 朝食を平らげた後、オレは意味も無く外出した。最近はギルドの依頼が極端に減っているのでやることが無いのだ。そもそもこの時期は依頼が少なく、しかも戴冠式が近いことから飲食店以外の店は閉まっている。人の動きが少なくなると問題も減るらしい。



 とりあえずギルドの方へと足を進める。するとオレの通る道を塞ぐように馬車が停まった。

相変わらずの仏頂面のイワンが馬車の上からオレを見下ろした。


「待ってたぜ!もう最近暇で暇で・・・」


オレの独り言にイワンは一切の興味も払わない。慣れた手つきで馬たちを走らせ、軽快な音を蹄で奏でる。


 メイアと会えるのはあと何回かな?


 授業が終わってしまうのを少し寂しく思いながらも、教え子が国王になるのを誇らしく思う。王族の家庭教師なんて二度と出来ないだろう。


 次に出会う誰かに自慢してやろう。



こ の数ヶ月でメイアは凄まじい成長を遂げた。当初の目標だった「五属性それぞれの初級魔術を一個ずつ」という目標は2週間ほど前にクリアしてしまった。無から魔力で物質を作り出す物質生成込みの『岩壁(ロックウォール)』も完璧にできるようになっていた。


 ついでにオレも雷系統の魔術を二つ覚えた。

雷撃エレクトロ』雷の塊をを飛ばす魔法。カレンの使っていた『雷流一閃ライトニング』の下位互換。

雷矢ライトニングアロー』矢の形を模した雷撃を飛ばす魔法。


 ちなみにメイアが覚えたのも『雷撃エレクトロ』だ。雷魔術で最も扱いやすく使い勝手が良い魔術らしい。魔術書に書いてあった。


 最近はもっぱら魔術師同士の戦闘の仕方を教えている。新しい魔術を覚えるのは一人でもできるが、模擬試合などは出来ないからだ。特に王になった暁には戦闘も模擬戦だって出来ないだろう。


「常に足から地面に魔力を流すのを忘れるな!足元の土が矢になって飛んで来るぞ!!」


「はい!!」


 オレの声に返事をしながら、メイアは岩の壁の裏に隠れる。


 岩の裏の安全地帯に入り気を緩めた瞬間を見逃さない。岩の壁を槍へと変形させ、メイアの体を貫く。


 間一髪でメイアは体を反らし、岩の槍を躱した。地面に刺した大剣を軸にメイアの身体は宙に浮き、そのまま空中で魔術を放つ。


『火よ 灼熱を解き放ち 焦がせ 火球ファイヤーボール


 メイアが着地したとほぼ同時に放たれた火の球は、彼女に反撃する余地を許さない。力強い大剣のスイングが岩の壁たちを薙ぎ払う。


 その勢いのまま、メイアは剣を盾にして突進をしてくる。魔力で強化された彼女の身体を止めるには生半可な魔術では足りない。


『雷よ 痺れよ 動きを止めろ 雷撃エレクトロ


 雷の塊がメイアの腕に当たる。ビシャアという音と共に雷がメイアの身体中を流れ、動きを止める。雷は体の制御を強制的に停止させ、メイアはその場に崩れ落ちる。


「ふふん、甘いな。雷魔術を受けると体が硬直するんだ」


 覚えたての魔術が直撃した事でオレは少し得意げになる。メイアに歩み寄りながら偉そうに説明をするが、王女様はピクリとも動かない。


・・・大丈夫だよな。威力の制御は出来てると思うけど。


 雷魔術の予想以上の効果に少し不安になる。魔術は例え初級であっても人体に甚大な被害を与える事がある。不慣れな魔術を使う時は尚更だ。


 やばいやばいやばい。勢い余って覚えたての魔術使っちゃった。これで怪我でもしたら打首かな・・・


 血の気がどんどん引いていく。万が一このタイミングで戴冠式が無くなったりしたら打首ではすまない。アレク王国の国民一人一人から制裁を与えられるだろう。


「起きてくれ〜」


 オレの悲痛な叫びが訓練場に響き渡る。何の助けにもならないと分かりつつもメイアの手を握り締めて擦る。今は奇跡に頼るしかない。


 すると突然オレの手は払い除けられ、メイアは仰向けになり空を見つめる。


「メイア〜良かった無事で。もうどうなる事かと!!」


 抱きつこうとするも片手一本で止められてしまう。メイアは未だ何も喋らない。


 数秒の静寂の後、メイアは身体を起こし、元気よく立ち上がる。辺りを見渡して誰もいないことを確認すると、オレに耳打ちをしてきた。


「アン。王都に遊びにいくぞ!!」


「え?」


 囁き声ながら威勢の良いメイアの言葉をオレが理解するより先に、王女様はオレの手を引いて中庭を飛び出す。そのままメイアは馬車に飛び乗り「王都まで」と御者の男に言い放つ。


 突然の出来事に困惑する御者も何かを察したのか、少しニヤついた後ものすごい勢いで馬車を走らせた。

 

「飛ばしますよ。口を閉じてくださいね!!」


 馬車の小窓から見える王城が、みるみるうちに小さくなっていく。

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