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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第十八話『大人の謝罪』

 ボロ布を繋ぎ合わせて作られたような財布の中で、四枚の金貨が眩い光を放っている。


 48万クェール。


 ギルドから依頼の成功報酬として支払われた金は、一般冒険者が一月で稼ぐ金額を優に超えていた。


 元々の報酬としてはたったの八万クェールだったが、迷宮から持ち帰った戦利品の貴重さが加味され、最終的には五倍以上の金額となった。


 財布の中身を見る度ににやけ顔が止まらない。まとまった金が手元にあるときの優越感と安心感は異常だ。


 このお金で『最高の夜(ボン・ソワール)』にまた遊びに行こうとも思ったが、先にやらなければいけないことを思い出した。


 結局、昨夜はギルドで一晩中飲み明かした後そのまま潰れてしまった。そろそろあの家に帰らなければ。ミューイと話さなければ。


 酒を飲みすぎたからか、それとも後ろめたい気持ちからか、ギルドの扉はやけに重く感じた。


 時刻は朝の七時ちょっと前。相変わらず家の鍵を忘れたため、玄関をノックするしか入る方法が無い。この家の家主、シヴァがオレのノックに気づいてくれることを願いながら扉を叩く。


 ガチャリと鍵の開く音がする。


 こういう時に限って幸運の女神はオレに振り向かない。少し眠たそうな目をしながら扉を開けたのは、花柄のエプロンをつけたミューイだった。



「お帰りなさい」


「・・・ただいま」


 不思議な雰囲気の中、オレ達は玄関越しに見つめ合う。数拍置いた後、淡々とミューイはオレを中に招き入れる。


 シヴァとミューイの家に特に変化はなかった。というのもここに帰って来なかったのは、たったの四日だけだからだ。


 しかし無性にこの家を懐かしく感じた。玄関に飾られる大剣。大きな木彫りのテーブル。ソーセージの焼ける匂い。


 ミューイはオレをテーブルに座らせ、彼女もオレの正面に座った。


 シヴァの姿は見えない。もう出かけてしまっているのか、まだ寝ているのか、朝食の時間にシヴァがキッチンに立っていないのは少し珍しく感じた。


・・・さて時間だ


 正面に座るミューイの顔を見つめる。ミューイもオレの目を見つめて逸らさない。もう四日前のように、この空間から逃げ出すことは許されないような気がした。叱責される覚悟はもう出来ている。 


「ミューイ。ごめー」


「色々とすいませんでした」


 オレが口を開いたと同時に、ミューイは謝罪の言葉を投げかけてきた。彼女からの突然の謝罪に面を食らっていると、ミューイは続け様に彼女の胸中を顕にする。


「なんか自分でも良くわかってないんですけど、アン君が『そういうお店』から一晩中帰ってこなくて。帰ってきたと思ったら幸せそうな顔してて・・・そういうの見てたら、なんかぎゅーと胸が痛くなって・・・」


 早口ながらもはっきりと喋るミューイは申し訳なさそうに笑う。はにかみながら、洋服の裾をこすりながら話を続ける彼女は、寂しそうな目をしている。


「だから私が勝手に一人で怒ってただけなんです。アン君は悪く無いんです。急に何日も帰ってこなかったのにはビックリしましたけど・・・」


 ミューイは俯いてしまう。再び沈黙が空間を支配する。パチっパチっという肉が鍋の上で弾ける音で彼女はキッチンへと戻ってしまった。


「オレの方こそ悪かった。夜遊びして、勝手にどっか行って・・・ごめんなさい」


 ミューイの背中に声をかける。ジュワーという音と共に水が鍋の上で蒸発し、肉の芳醇な香りが家中に立ち込める。


「はい!これで仲直り。お互いに悪かったってことで解決です。私達の関係も元通りってことで」


 ソーセージを転がしながら、ミューイは言った。気丈に振る舞う彼女の背中はどこか寂しげに見える。


「そうだよな。お互いに嫌いなままが一番ツライもんな。これで仲直りだ」


 ミューイの提案に納得しながら、オレは席を立つ。もう何日もしっかりとした睡眠を取っていない。久しぶりにふかふかのベッドで寝たいという欲望が脳を支配していた。


 ・・・良かった、良かった。これで仲直りだ。これで元通りだ。


 階段に足をかける。仲直りしたはずなのに心のモヤモヤは晴れない。身体が階段を上がることを拒否する。


 ・・・違う。これでいいはずが無い。


 薄々気づいていた。オレがしてしまったことの重大さを、四日前ミューイと話し合わずに逃げてしまった事の最低さを。もうただ「ごめんなさい」と言っただけでは、元の関係には戻れないということにとっくのとうに気づいていた。


 ・・・駄目だな。下手に長生きしすぎた。変に大人ぶってしまう。


 階段を降りる。ソーセージを器に盛りながら、ぼーっとしているミューイの肩を叩く。驚きの表情を見せながら、ミューイは振り向いた。彼女の目元が少し赤くなっていることに、今やっと気づいた。


「ミューイさん。良かったらオレとデートしませんか?」


 オレを見上げるように見つめるミューイは、小さくコクリと頷いた。

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