アレク王国第十六話『迷宮攻略』(7)
「カレンは教師だったんだろう?魔物について教えてくれよ。オレは田舎の出だから、分からないことが多くて」
ジュールは未だ毒と戦っている。しかしオレ達にできることは限られている。せっかく時間もあるし、オレの古い常識をアップデートしておこうと思う。
「そんなに大層なものじゃないわよ」
カレンは謙遜する。
しかしオレは見ていた。小さな骨を一つ見ただけで、あの骨の主はメドゥーサと見抜いたこと。真偽はさておき、ある程度の知識はあるのだろう。
「魔物ね・・・アーノルドは『人族』『動物』『魔物』『魔族』の違いは分かる?」
少し考え込んだ後、カレンはオレに尋ねた。火の勢いが弱くなってきた焚き火に『創炎』を足しながら、オレは知っている限りで答える。
「『人族』は知能の高い動物の一種、基準は文明を栄えさせられるかどうか。人間、エルフ、ドワーフとかだな。『動物』は植物以外の生物ってくらいの認識だな」
口に出して言いながら、オレの知識の薄さに驚く。勉強は別に嫌いではないのだが、人一倍物覚えが悪いのだ。
脳味噌の中の情報を全部集めながら、オレは続ける。
「そして『魔族』は人族と同様に高い知能と文明を持つ。唯一の違いは発生地、ここから遥か北に位置する大陸にルーツを持っていて、このルアック大陸に流れて来たんだっけ?
『魔物』は同様、そこから流れてきた動植物だったかな?」
うんうんと頷きながら、カレンはオレの答えを聞く。そして言う。
「大体はあってるわよ。ちょっと古い情報のような気がするけど・・・」
・・・こうしてはっきり古いって言われると傷つくなぁ
胸がチクリと痛む。そんなオレを横目に何かを閃いたのか、カレンはバッグの中から分厚い本を一冊取り出した。本のタイトルは『ルアック大陸 魔物全録 I』
パラパラとページをめくり、カレンは様々な魔物の挿絵と説明をオレに見せる。
コホンッとひとつ咳払い。
そのまま臨時教師カレンの授業が迷宮内で始まった。
「魔獣はアーノルドの言ったように、魔大陸から来た動物と植物達を指すもので・・・・
ー
二時間ほど、もしかしたら三時間ほどに及んだ授業は、ジュールが目を覚ました事により終わりを迎えた。
カレンの授業は難しかったにしろ、とても分かり易く楽しいものだった。今度のメイアで授業をする時の良い参考になった。
授業の内容をまとめるとー
『人族』ー特定の動物が高い知能を持って進化し、文明を栄えるまでに至った生物。ルーツはルアック大陸だが、今や世界中に点在している。全ての人は魔力とスキルを持っていて、それも人が発展した大きな理由のひとつらしい。
『動物』ー『人』と植物以外の生物。そのサイズと形は多種多様で、四足歩行の物が多い。
『魔物』ー魔大陸から発生した動植物。大きな違いは、魔物達は魔術もしくは魔法に似た特殊能力を有していること。マンティコラの『毒針』やメドゥーサの『石化』元々の機能を超えたような能力を有する。その中で動物に似た形をするのを魔獣とも呼ぶ。
『魔族』ー魔大陸から発生した『人』そして同様に魔術とスキルを扱う。未だ解明されていないことは多いが、「人」との違いは皆無だと言う。一つだけ違うとすれば、カレン曰く「人は神から祝福を受け、魔族は邪神が作った存在」らしい。
それぞれに対する知識も認識も500年前とあまり変わっていないようだ。
ー
ジュールが目を覚まし、オレとカレンも十分な休息を得た。どうやら毒には打ち勝ったようだ。
三層目で思わぬアクシデントがあったにしろ、消費したポーションは0。
しかもメドゥーサがマンティコラに蹂躙された様に、次の層もマンティコラの縄張りになっている可能性が高い。油断は出来ないが、対処方法も確立されている様なものだ。この迷宮がBランク以上ってのは大袈裟すぎたかもしれない。
「いやーご迷惑をかけました」
頭をかきながら、申し訳なさそうにジュールは笑う。先ほどまでとは打って変わって、ジュールは健康そうな血行の良さそうな顔色をしている。
ジュールの手を握ったまま離さないカレンの頭を、五本の指でくしゃくしゃにする。そのまま、ジュールはカレンの手を握り締め下へと続く階段へと足を踏み入れた。
「俺は一回受けた毒はもう効かないんだ。だからマンティコラ相手にはもう無敵ってこと」
豪快に笑ったジュールは、階段内に響いた自分の声に驚き、焦って口を抑える。
「じゃあもうジュールに『岩壁』は必要ないな」
「いや。針が刺さる時は痛いからそれはお願いしたいんですけど」
そんな軽口を叩きながら、第四層へと続く階段を降りていく。
ー
『水球』そして『雷流一閃』
対マンティコラの連携魔術を放ち魔物達の無力化を計る。しかし上の層の様に、魔獣達の悲痛な叫びは聞こえて来ない。魔術が外れた可能性もあるが、雷の効かない魔物がいる可能性の方が高いだろう。
「多分マンティコラじゃない。オレがまず行って確認する。合図をしたら援護してくれ」
オレの耳打ちに頷いたカレンとジュールを階段に残し、オレは飛び出す。
侵入者を感知したと同時に光が灯る。
急な明点で視界がボヤける。視界が直る。眼前に、丸くツルツルした物体が整列している。ちょうど分かり易く、右半分の列は赤色、左半分は青色で構成されている。
「スライム!『水』『火』半々!!」
オレの叫びと共にカレンとジュールは颯爽と飛び出し、スライムの列へと駆け出す。
引きずる様に持った長剣はジュールの走りと共に加速し、その美しい銀色の刃をスライムに食い込ませる。右足を踏み込みジュールは長剣を下から上へと押し上げた。膝下にも満たないほどの大きさのスライムの体に銀色の刃が通過し、綺麗な二つの半円に分かれる。
『土よ 尖れ 穿て 石弾』
いつの間にやら杖を展開していたカレンは、石の弾丸を放つ。放たれた石はスライム達の体を貫き、穿つ。
「アーノルドもスライムの核を壊して。火スライムは大爆発する危険がある!」
カレンの警告で我に帰る。目測で火スライムは残り30体程度、急がねば。
確かスライムの核を壊すには一点集中な攻撃が必要・・・
記憶を頼りに有効そうな魔術を打つ。オレ達の連携攻撃によりスライム達はなす術も無く破壊されていく。
ー
四層目に入って早数分、火スライム達は冒険者3人に蹂躙された。
無数のスライムの核だったものは、黒く変色し床に散乱する。仲間の死を嘆いているのか、青色の水スライムは核の周りを飛び跳ねている。
「とりあえず、爆発はしなかったかな?」
逃げ惑う水スライム達の核を丁寧に破壊しながら、ジュールは息をつく。一人で半分以上のスライムを切り伏せたジュールは、とても寝起きとは思えない。
「スライムは大爆発以外は脅威じゃないからね。火スライムはCランクだけど、他のはFランクだし」
Fランク。子供でも対処可能ということだ。実際水スライムの攻撃手段は少し勢いの強い水をかけるくらいだ。
ジュールから逃げてきた水スライムがオレの足元を飛び跳ねる。こうして見ると可愛いものだ。
「おいおい。それは食いもんじゃないぞ」
床に散乱する仲間の残骸、核を水スライムは取り込む。その水のような体に核だったものは溶けて消えていく。
水スライムは赤く、そして白く光り。大爆発した。




