アレク王国第十六話『迷宮攻略』(5)
完全回復。準備満タン。
寝ずの番で見張りをしていてくれたカレンがオレとジュールの体を揺すり起こす。大きな欠伸をしながら体を起こしたオレは、天井を見上げて未だ迷宮の攻略中だったことを思い出す。
簡単なストレッチと朝食を食べた後、ジュールは革鎧をつけ次の階層への準備を始める。真っ赤だったジュールの鎧も魔獣達の血を浴び、ところどころ黒ずんでいる。
首周りをほぐすと、コキコキという音を出しながら軽快に回る。昨日、マンティコラから受けたダメージは大したことないようだ。
「よし。行くぞ」
寝床の周りにおいてあった岩壁と次の階層に通じる階段を塞いでいた土を崩す。ガララッという音と共に開いた階段のある空間は、これまでのものよりも禍々しく感じた。
一段一段、慎重に階段を降りていく。一層目と二層目の間にあった階段と同様に、ものの数分で階段は終わった。
いざ足を踏み入れようと意を決すると、後ろを歩いていたカレンがオレを服を掴んだ。
「アン。ちょっと待って」
小さな声で、しかしハッキリと、カレンはオレを止めて話し出した。
「作戦があるの。こういうのどうかしら・・・」
カレンが耳打ちをする。ジュールはキョトンとした顔でカレンの方を見つめている。
「・・・いいな。やってみよう」
カレンの目を見据えニヤリとほくそ笑む。オレの笑みに反応したカレンも口角を少し上げた。
「俺にも教えてくれよぅ」
寂しそうな顔をしながらジュールは自慢の剣の柄を撫で回す。オレとカレンの間を行ったり来たりしているジュールは、存外寂しがり屋なのかもしれない。
・・・色んな女性に声をかけるあたり、寂しがり屋か。
酒場でミューイと飲んでいた時を思い出す。今や頼もしいこのジュールも、最初はただのお調子者に見えていた。
・・・見た目だけが人間の全てじゃ無いのかもな。
物思いにふけながらは手のひらに魔力を集中させる。手のひらを向けている方向は真っ暗闇。明かりのついていない三層目に囁き声の詠唱が響く。
『水よ 穿て 潤せ 水球(極大)』
オレの手から放たれた水色の球は空中を漂いながら暗闇の中に消えて行く。カレンと注意深く水球を見守ること数秒間。水球が破裂した音が迷宮内に響き渡り、大雨の日の滝のような音を立てながら水は地面に叩きつけられる。
「シャー!!!!」
暗闇の向こうで猛獣達は、耳をつんざくような威嚇音を放つ。そのまま臨戦態勢に入った猛獣達はペタペタという足音と立てながら外敵を探している。
『雷よ 流れろ 痺れよ 雷流一閃』
未だ状況を把握できずにいるジュールを押しのけ、カレンが魔術を打ち込む。オレの頭上を通った光の線は、一瞬にして水球の破裂した場所に突き刺さるー
ー瞬間。猛獣達は悲鳴をあげる。どさっという音ともに生物の動く気配は無くなり、暗闇はまた完全な静寂に包まれる。
「・・・これは?作戦大成功かな?」
生物の気配が消えてから数分。恐る恐る三層目に足を下ろしたオレ達を祝福するかのように迷宮内に灯りが灯る。突然の明転で半分しか開けられない目には、前の層と同じような広大な迷宮空間とあたり一面に転がるマンティコラ達の死体が映った。
「やったー!大成功よ」
ジュールの手を取り子供のようにはしゃぐカレンは魔獣達の死体に囲まれながらぴょんぴょんと跳ねる。
やっと状況を理解できたジュールも誇らしげな顔をしながら迷宮内を見渡す。しかし同時に怪訝な顔をしながら魔獣達の体をさわる。
「どうした、ジュール?何か変なことでもあったか?」
「いや・・・なんでもない」
平静を装うジュールは立ち上がり、未だ迷宮内を跳び回っているカレンの元へと向かおうとする。
「言ってみろよ。お前の発言でオレ達が損することは無いんだ。救われることはあるかもだけどな」
「・・・何でこの迷宮にはマンティコラしかいないんだ?少し変じゃないか?同じ魔獣をこうも立て続けに置いとくってのは。一層目を攻略されたら二層目と三層目も攻略されちまうじゃないか」
「・・・確かに、ずっと同じもので守られている迷宮は妙だな」
ジュールの意見に納得しながら、脳を高速回転で回して疑問の答えを探す。こういう不可解な疑問を放っておくと、あとで後悔することは目に見えている。
・・・何でずっと同じ魔獣を消しかけてくる?ただのミス?他の魔獣を入れるのが面倒臭かったのか?いや、必ず何かしらの意図があるはずだ。
足りない脳を回しながら迷宮内を見渡す。ジュールが先ほどまで触っていたマンティコラの死体にもおかしなところは見当たらない。黄色い肌と立て髪、毒をもった尻尾、いかにも普通の個体だ。
マンティコラの死体を注視すると何かが死体の腹部の下に隠れていることに気づく。重い死体を両手で転がすと、何か白い物体がオレの眼前にあらわになった。
「ジュール!カレン!これ見てみろ」
何事かと駆け足でオレの元へとよってきたジュールとカレンはオレの足元に転がる人間の頭蓋骨を目の当たりにして絶句した。




