アレク王国第二話 『王女と鈴』
「話は通じるな、すまない今は戦闘中だ下がっていてくれ」
両手剣を持った甲冑がオレに忠告した。声の感じからしておそらく女性だろう。
レディーが戦っているのなら加勢するのが紳士ってもんだ。
「オレも戦えるぜ!! 火よ・・」
と大きいのを一つぶちかまそうとすると、違う甲冑がオレの前に手を出して遮ってきた
「加勢ありがとうございます、でも訓練中なので手出し無用です」
「訓練?ドラゴン相手にか?」
耳を疑う。
「ドラゴンではありません。サラマンダーです」
確かによくよくみると赤いドラゴンではなかった。赤いトカゲだった。
しかしただのトカゲではない、火を吹くデカい猛獣だ。エルフ族の熟練戦士2人相応の強さはある。訓練用の的ではない。
「ギョエーー」とサラマンダーが雄叫びを上げる。
突然の乱入者に興奮したのだろう。身体と同じく、そのガラス玉のような目も真っ赤に充血させる。
トカゲは女甲冑を見据え口を閉じる。そして息を吸い込み、腹を大きく膨らませる。
「くるぞ、火炎放射だ!!」
思わず叫ぶ。女甲冑以外はオレの言葉に反応もしない。
「わかっています」
オレ以外は至って冷静だ。
『土よ 壁をなせ 受け止めよ 岩壁』
女甲冑はあっさりと土の魔法で火を防いだ。
刹那。
甲冑は土壁を踏み台にし、トカゲの顔の前まで跳ぶ。その勢いのまま、サラマンダーの太い首に両手剣を振り下ろした。
ザン!!
と音に合わせてサラマンダーの首が地面に落ちる。まさに一刀両断だ。
「お見事です、お嬢様」
オレを止めていた甲冑が言う。
他のふたりはサラマンダーの死体を回収している、その姿にオレの食料を食い漁ったリスどもを思い出した。女甲冑は強かった。初級とはいえ正確な魔術、高い状況判断能力、鎧を身に纏っているとは思えない身体能力。さらにまだスキルを使っていない。
もしただの兵士の訓練がこれだとしたら、アスラ王国はどれほどの戦力を有しているのだろう。
この数百年の間に人間は目覚ましい進化を遂げているようだ。大いに期待ができる。
ー
「はい、改めましてアーノルド・アンダーソンです」
今日初めて挨拶が成功した。三度目の正直とはよく言ったものだ。
「メイア・アレクサンダーと申します。よろしく」
丁寧な事に女甲冑は小手を外して握手を求めてきた
すかさず手を握りしめる。約10日ぶりの人肌だ。しかもレディーの。少しエルフ達より体温が高いかな?と思ったが先程まで剣を振り回していたのだ、そんなに変わらないのだろう。
10秒間くらい握手をしているとメガネの男がこちらを見つめてくる。背丈からしてさっきオレを止めた男だろう。
ヤバい、気色悪かったか?
流石にがっつきすぎたようだ。
手を急いで離してみたが男はまだこちらを見据えてくる。なにがおかしいのかわからずにいるとメガネはオレの顔をみていることに気づく。
・・・まさか!
手を髪の毛に当てると2本のツノがいつものポジションに戻っている。おそらく魔族と間違えられて怪しまれているのだ。
この世界の人型の生物は『人類』と『魔族』に分かれている。細かい説明は省くが魔族の特徴として、彼らはその頭に角を生やす。
そうまるで今のオレみたいに。
「大丈夫だ、オレは人間だ」
慌てて取り繕う。しかしメガネは『コイツなにを言ってるんだ?』と言う顔でオレに聞いてきた。
「お前、メイアお嬢様を知らないのか?」
「・・・お嬢様?」
と、きょとんとした顔をしているととメイアがもう一度自己紹介をしてきた
「メイア・アレクサンダー、アレク王国の王女だ」
「王女・・」
一瞬思考が止まった。どうやらメイアはお嬢様どころかお姫様だったらしい。どこの世界にサラマンダー相手に圧倒するお姫様がいるだろう・・
「これは御無礼をお許しください、メイア王女」
頭を下げ、今までの粗相を取り繕う。不敬の罪で牢獄にぶち込まれるかもしれない。ファーストコンタクトからトラブルはごめんだ。
「大丈夫です。というか楽にしてください。敬語も大丈夫です」
なんと優しい・・まるで聖母のようなメイア姫さま。
「しかしお嬢様、王族としての威厳が・・」
「よい、下がっていろミュエール」とメガネをメイアが遮る。
そうだメガネお前は黙っていろ。
メガネがしゅんとしているのを横目にメイアが他の二人がいる方向を指差しオレにいう。
「とりあえず、夜も冷えるし詳しい話は馬車の中で、アレク王国に向かっているんですよね?」
「ああ・・・そうです」と気の抜けた返事をする
とりあえずオレはお咎めなしということで良いみたいだ。しかも王国まで送ってもらえる。まだオレの運は尽きていないということだ、幸先が良い。
寛大なるメイア王女さま万歳!!
アレク王国万歳!!