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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第十六話『迷宮攻略』(4)

 横たわるマンティコラと一角イノシシを傍に、ジュールとカレンとオレは座りこんでいた。


 迷宮に入った途端の魔獣達の猛攻。突然の出来事に緊張は未だ張り詰めている。


「とりあえず一層目の制圧は完了した。俺とカレンは少し休んだ後に次の階層に行こうと思うが、アーノルドはどうする?」


 ジュールが剣をボロ布で軽く拭きながらオレに尋ねた。横に座るカレンもこくりと頷く。彼女の杖はいつの間にか元のサイズに戻っていた。


「一角イノシシはEランクのただの猛獣。でも、マンティコラはDランクの魔物。このままだと深層にはBランク以上の魔物がいる可能性もある。このダンジョンもCランクではなく、Bランク相当だろう。それでも一緒にくるか?」


 どうやら心配をしてくれているようだ。実際オレはDランクに上がったばかり、Cランク迷宮でも荷が重いと思われているはずだ。


「行く。大丈夫オレは死なない、足も引っ張らない」


 ジュールの目を見据えて答える。あまりにも真剣な顔をしていたのか、ジュールとカレンはオレの答えを聞いて吹き出してしまった。


「フッ・・・そんなに気負うなよ。俺たちも死ぬつもりは無いし、危ないと感じたらすぐに引き返すつもりだから」


「期待してるわよ。アーノルド」


 なぜだろう。先ほどまでいがみ合っていたジュールの背中が今は頼もしく見える。協力して魔獣達を倒したからだろうか。それともジュールのイケメンオーラに当てられたのか。


「アンで良い。行こう第二層!」


 魔獣達の屍の間を潜り抜け、深層へと続く階段へと足をかける。頼もしい仲間二人を後ろに従えて、階段を降りて行く。



 二個目の階段は思いの外短く、ものの数分で終わってしまった。お決まりの罠チェックのため、片足を下ろしてみるが一層目と同様、罠は無い。カレンとジュールが二層目に足を踏み入れると同時に、迷宮内に光が灯る。


 一層目と全く同じ、広大な空間が目前に広がった。そして同様に無数の魔物達。


「マンティコラ!!」


 光が灯ると同時にジュールが叫ぶ。無数の黄色く立て髪をつけた魔獣がとんがった尻尾をぶら下げながら突進をしてくる。



『火よ 燃え盛れ 柱となり 天まで焦がせ 火柱(ヴォルカニック)

『身体強化!!』

『土よ 壁をなせ 受け止めよ 岩壁(ロックウォール)


 オレの火柱がマンティコラを肉片へと変える。魔術を潜り抜けたの数体を、ジュールがその自慢の長剣で丁寧に切り刻む。飛んでくる毒針をカレンが土魔術で対処する。


「マンティコラがなんぼのもんじゃい!!」


 ジュールはそう叫びながら剣を振り下ろす。その気迫に怯えたのか、一層目と同様マンティコラの猛攻は一瞬止まる。あちらも毒針か特攻しか出来ないはずー


 そう思った刹那。


 側頭部に衝撃が走り、オレの体は数メートルほど吹っ飛んだ。マンティコラ倒れ込んだはオレの体を四本の足で押さえ付け、牙を見せる。


火球(ファイヤーボール)!!』


 オレに馬乗りになるマンティコラをカレンの放った火球が吹っ飛ばす。


・・・なんだ!?何が起こった?


 少し朦朧とする頭を回転させながら、強引に立ち上がる。火柱の奥でマンティコラ達が尻尾をこちらに向けていることに気が付く。


『土よ 壁をなせ 受け止めよ 岩壁(ロックウォール)

『土よ 壁をなせ 受け止めよ 岩壁(ロックウォール)


 二枚の壁の後ろに咄嗟に隠れ、オレ達は息を整える。無数の毒針が岩の壁に突き刺さっているのが背中越しに感じる。


「大丈夫か、アン?」

「大丈夫だ。何が起こった?」

「あいつら壁伝いで奇襲しやがった。俺たちを毒針に集中させた瞬間にな。一層目の奴らより賢いぞ」


 休む暇も無く。ドドドドという音と共に、壁の後ろから数体のマンティコラが来るのを感じる。深呼吸をしたジュールは立ち上がり、剣を構え迎え撃つ。


「もう一回あれやるわよ、水お願い」


 壁裏でカレンが魔術を放つ時のポーズをする。手の平を前に突き出すやつだ。


 一層目と同じ、水と雷のコンボで決めるらしい。


『水よ 穿て 潤せ 水球(アクアボール)(極大)』


 壁に隠れながらオレは水球を魔獣どもの頭上で破裂させる。


『雷よ 流れろ 痺れよ  雷流一閃(ライトニンング)


 カレンが壁の隙間から放った眩い光は、火柱の間を抜けて、前列のマンティコラに突き刺さる。


「ゔぁーーーーーーー」


 断末魔と共に魔獣達は白目を向き、倒れる。


 ふぅ、と息をついたカレンは座り込み、杖を抱きしめる。


「今回はちょっと危なかったわね」



 次の層に行く前に二層目で一夜を過ごすことにした。


 幸いマンティコラに殴られたところには大した怪我はなく、軽く頭を打っただけだった。


 魔術で出したキャンプフィイアを取り囲みながら、一角イノシシの肉を頬張る。


 野生の獣の肉ということで食感は硬めだったが、悪くない味だった。獣特有の臭さはあまり感じず、塩飲みのシンプルな味付けでも十分に美味しい。


 ・・・でもシヴァの料理の方が美味いよなぁ


 そんなことを思いながら、腹を膨れさせる。あまり噛まずに食べたからか、命の重さというやつか、腹の中に溜まっていく感覚を体全体で感じる。


「なぁ、カレンとジュールはなんで冒険者になったんだ?」


 唐突に質問を投げかけてみる。今は迷宮攻略の仲間なんだ、このくらいの交流はあっても良いはずだ。


「なんだ、唐突に?・・・冒険者になった理由か。自由が欲しかったとかかな」


 少し驚きながらもジュールは答えてくれた。


「自由?」


「ああ。実は俺、ちょっと外れにある領主の息子でな。まあ貴族ってやつだ。それが嫌になって逃げ出したんだよ」


「やっぱり貴族は自由が無いんだな」


「いや、そんなことはない。俺の親父は優しい人でな、自由に生きて良いって言ってくれたんだ。でも俺は自由を感じちゃいなかった・・・」


 焚き火を見つめながらジュールは続ける。


「他人の目?将来の不安?ずっと親父みたいな何者かにならないといけないと思ってた。領主にならないとしても自分のした選択を後悔しちゃいけないと思ってた。自分の未来を自由に選択するってことに自由を感じちゃいなかったんだ・・・て矛盾してるか」


 微笑を浮かべながらジュールはイノシシの骨を投げ、カレンのバッグから水筒を取った。


「だから次の展開も明日の仕事も分からない冒険者になったんだ。未来にも過去にも関係ない、その日だけの仕事ができる冒険者に」


「・・・何となくは分かるよ、似てるやつと旅をしたことがる」



 肉を食べ切ったオレはジュールの話を頷きながら聞く。カレンもジュールの横で瞼をこすりながら頷いている。


「どんなやつだ?」


 ジュールはオレの受け答えに興味を示した。


「そいつも領主の息子でな。どんなことでもハッキリ白黒つけたがる奴だった」


「・・・それ似てるのか?」


「ああ。そいつはやりたくないことはハッキリしてたが、やりたいことが見つからなくてな。とりあえず冒険者になって剣をぶん回してた」


「オレと同じだな」


「・・・でも、やりたいことが見つかった後のそいつは凄かった。冒険者ながら父親の領土が何倍も大きくなるような功績をあげたんだ。領主になりたくなくてやった行為が領土を拡大するなんて皮肉だろ」


ハハハと笑いながらオレは説明する。しかしジュールは少し寂しそうな表情で答えた。


「凄いな・・・そいつは」


「あなたも十分に立派よ、ジュール」


 唐突に目を覚ましたカレンが優しい口調で答える。


「今日まで私を守ってきてくれたじゃない」


 ジュールの手にあった水筒をもらいながら、カレンは話す。そのままコテンと頭をジュールの膝の上に乗せた。


「カレンは何で冒険者になったんだ?」


 カレンが寝てしまう前に聞いてみる。半目状態のカレンは床に落とした骨付き肉をつまみながら答えた。


「私はジュールに付いてきただけよ。後悔は無いわ」


 そう言い、カレンは掴んだ骨付き肉を空中に放り、目を閉じた。

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