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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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番外編「聖夜」

せっかくのクリスマスなので、書いてみました。

メリークリスマス!!

 (ヴァース大森林・エルフ族の集落)


 しんしんと雪が降り積もる。真っ白な雪が広大な森を銀世界へと包み込んでゆく。


 今日は聖なる日。その昔、神が地上に舞い降りそして天へと帰った日。


「ほら、外でぼーっとしてると風邪をひきますよ」


「ナーナ」


 美しい雪化粧に見惚れて立ちすくんでいたオレに、エルフ族長の娘ナーナが話しかけてきた。


 印象的な長く白い髪を毛糸の帽子にしまい、毛皮のコートを羽織っている。エルフ族は寒暖差に弱いからか、完全防備だ。


「久しぶりだな、ナーナ。お前も雪遊び参加か?」


 眼前で繰り広げられる雪玉合戦を指差し、ナーナに問う。


 呆れたような目をしたナーナは、唐突に雪玉を作りオレの顔面へと投げつけてくる。


「私はもう子供じゃないんです。もう雪ではしゃいだりしないんです」


 顔面にクリーンヒットした雪を払い除けながら、ふとある疑問が思いつく。


「ナーナって今、何歳?」


「225歳ですよ。あなたがここに来た時に私は生まれたんですよ。忘れないでください」


 白いため息をついたナーナは、再度呆れたように答える。


 あれから225年ってことは・・・


 オレが何を考えているのかを察したかのように、ナーナはオレに言う。


「そうですよ『あの日』ですよ。あれから100年経ちました」


「そうか・・・もうそんなに経ったのか」


 考え深そうにしていると、ナーナはオレの手を取りグイグイと引っ張って行く。


「ほら。取り敢えず私の家に来てください、温かいお茶でも出しますから。今夜はお祭りなんです。その前に体調を悪くしないでください」


「お祭り?」


「そうです。ちょうど次の族長の選出と100年周期の『あれ』が被ったので、お祭りをやろうと父が・・・」


 オレとナーナの会話に聞き耳を立てていたエルフのちびっ子達が、わらわらとナーナの周りに集まり質問をする。


「ねーねー。『あれ』って何のことー?」


ちびっ子達ににこりと微笑むナーナは、屈んで頭を撫でながら問いかけに答える。


「今日はね100年に1回、世界が神様の誕生を祝福する日なんだよ」


「祝福って何やるの?」


「それは・・・今夜までのお楽しみ。だからそれまで良い子にしてるんだよ」


「「「はーい」」」


 納得した子供達は再び雪合戦を始める。ナーナはその光景を目に焼き付け、再びオレを彼女の家へと誘導する。



「ほらお茶」


「ありがとう」


 ナーナの家で温かいお茶を頂く。ここ最近会ってなかったからか、話す話題が無い。少しばかりきまずい。


「えーと・・・何ヶ月ぶりだっけ?」


「6ヶ月と18日ぶりです。流石に部屋に篭りすぎです。死んでないかと何回心配したことか・・・」


「悪い、悪い。でもナーナもオレのスキルは知ってるだろ」


「でも心配なんです」


 自分用のお茶も淹れてきたナーナはテーブルの向かいに座った。フーフーと息を吹きかけお茶を冷ましたのちに、少し熱そうにしながら口に含んでゆく。


「それにしてもナーナの淹れたお茶は美味いな」


「ありがとうございます」


 話題に困ったオレは取り敢えず褒めてみることにした。作戦がうまくいったのか、心なしかナーナの表情は明るくなる。


 ここぞとばかりにオレは畳み掛ける。


「本当に美味しい。きっとナーナの作る料理も美味しいんだろうなあ」


 しかし先ほどとは一変、ナーナの明るい表情は途端に崩れ、オレの方へと睨みを利かせる。


「・・・私、毎日作ってます」


「え?」


「私、毎日アン君にご飯を作って持っていってます。一度も食べてもらったことないけど!」



「えー!?」


 オレの家の玄関を思い出す。そういえば今朝も何か箱のようなものが置かれていたかもしれない。もしかしたらあれが朝食だったのかもしれない。


 サーと血の気が引く感覚になる。まさか作ってもらったご飯を食べないどころか、気づきもしていなかったなんて・・・


 今にも泣き出しそうなナーナに誠心誠意頭を下げ、なんとか許してもらう。


「本当にすまん。まさか毎日作ってくれてるとは。言い訳かもしれないけど、オレ食べなくても生きていけるから、誰もそういう心配はしてないと思ってた」


「もう良いです。でも誰も心配してないってのは間違いです。少なからず思っている人はいます」


「本当にごめんね。・・・そうだ代わりに何でも一つ言うこと聞くよ」


「何でも?」


「そう。無理のあるやつじゃなければ」


「分かりました。楽しみにしておきます」


 ナーナは涙を拭い、ニコリと笑う。綺麗な三角形の耳は少し紅潮していた。



 火を囲み舞を踊る。


 エルフ族の民族衣装を纏った男衆は、大地の女神と天の神に感謝し踊りを捧げる。


 キャンプファイヤーを囲むように置かれた丸太にオレは座りながら、一人酒を飲んでいた。


 今日は祭りというともあり、集落中のエルフ達が一堂に会する。40人ほどの少人数だが祭りはしっかりと盛り上がりを見せる。


 盛り上がりがピークに達した時、火の前にエルフ族長ナラガが現れ演説を始める。立派な白い髭は膝下までのび、いかにもな貫禄を漂わせている。


「皆様、今夜の祭りへの参加、誠に感謝する。今日は100年に一度、神の誕生を祝う『祝福の日』です。そして次世代のエルフ達を担う族長を決める日でもある。慎重な話し合いの結果、次族長は私の娘でもあるナーナが最適だという見解に至った。未だ未熟なところもあるが、どうか支えてやって欲しい。それでは天と地の恵に感謝を」


そう族長が言うと同時に、周りのエルフ達は夜空を見上げる。


 無数の光が空から降ってくる。雪だ。しかしその雪は光を発して、様々な色へと変化していく。青色、赤色、茶色、そしてまた白色に戻る。


「わぁ」とエルフの子供達は光る雪をその手一杯にかき集める。


「これが『お楽しみ』? すごい! キレイ!!」


 興奮さめやまらない子供達を暖かい眼差しで見守っていると、腕一杯に光る雪を集めた少年が近づいてきた。


「見て、魔法みたい!!」


「そうだな、まるで魔法だな」


 少年は更に雪を集めようと、空に向かってぴょんぴょんと跳ねる。


 しかし少年の足が再び雪に着く時、奇妙な現象が起きた。


 色とりどりに光る雪は一斉に黄色に光り、しばらくすると雪の光は失われた。


 ・・・黄色?しかも光が消えた?


「あれぇ、魔法終わり?」


 しょんぼりする子供達は、雪を落としトボトボと親の元へと帰る。親は初めて目の当たりにした光景の同様を隠すように、ちびっ子を連れて帰路についた。



 キャンプファイヤーの火は小さくなり、気づくと周りには人っ子一人いなくなっていた。


 オレも家に帰ろうと立ち上がると、一つの人影がこちらに歩み寄ってきていることに気づいた。


 キャンプファイヤーに照らされ、顔が明るみになる。ナーナだ。今回の祭りの主役だった彼女は化粧をし、民族衣装に身を包んでいる。


「お疲れ様。次期族長」


「もう。また意地悪」


「ははっ。悪い悪い」



 軽口を叩くオレの隣に座ったナーナは心なしか表情が暗い。少人数といえども人の上に立つのだ、その心労は計り知れない。


「不安か?」


「はい。私なんかが族長なんて」


「大丈夫だよ。いざとなったらオレもいる」


「頼りにしていますよ」


 クスッと笑うナーナに少しだけドキッとしてしまう。美しい白い髪を下ろした彼女はやけに大人っぽく、今にも雪と一緒に溶けてしまいそうなくらい儚い。


 見つめ合う。


 時間にするとほんの数秒だったが、それは長く、終わって欲しくない一瞬だった。


 沈黙に耐えきれなくなったナーナはオレの手にある酒杯を取り、一気に喉へと流し込んだ・・・と同時に、彼女の耳は薄い赤色になり目は虚になる。


「もう。弱いのに一気飲みなんてするから」


 心配していると、ナーナはオレの肩に寄り掛かり、小さな声でつぶやいた。掠れたような声で、しかしどこか力強く。


「頼りにしてますよ」


「ああ」


「もっと頻繁に家から出てきてくださいね」


「善処する」


「ご飯作って待ってますから」


「ありがとう」


「私を置いていなくならないで下さいね」


「・・・・」


 オレが受け答えに困っていると、ナーナは少し寂しげな表情を見せた後クスリと笑って見せた。


「冗談です。・・・そうだあの『お願い』今使っても良いですか?」


「ああ、いいよ」


 オレの肩から起き上がったナーナは、よろける体をオレの正面へと立たせた。彼女の琥珀色の瞳はオレを真っ直ぐ見つめている。


「もし、ここから旅立つ時は私に教えないで下さい。絶対に」


「・・・理由をき聞いてもいいか?」


「その方がロマンチックじゃないですか」


そう言った彼女の声は、どこか涙を堪えているようだった。

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