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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第十六話「迷宮攻略」

「あー 頭痛い」


 朝日の光がカーテンの隙間から部屋に差し込む。顔に差し込んだ光が眩しい。目を瞑るも逃れることは出来ない。ベッドから体を起こそうとするも、寝返りを打つのが精一杯だ。まるで上から重石を載せられているように、ベッドに沈んでゆく。


「いててて」


 軋む体を無理矢理に起こす。頭の中に響く痛みとはまた違った痛みが体中に走る。


 昨日、あれからどうなったんだっけ?キュークと別れた後・・・


 ズキリと痛む頭を回しながら、昨夜の行動を思い出す。アレク王国の繁華街、シャルモン区での一夜の事を。


 ・・・そうだ。あれから馬車に乗って何とか宿まで辿り着いたんだ。・・・あれ?どうやって玄関を開けたんだ?


 オレはこの家の鍵を持っていない。いいや、昨夜は持っていなかった。鍵自体は居候生活が始まった時から持っているが、いつも部屋に置いたままだ。大体は夜になる前に帰って来ているし、遅くなる日もギルドの酒場にミューイと寄る時だけだ。深夜までは玄関に鍵はかかっていないので、出入り自由だ。

しかし昨日は違う。ミューイもシヴァも寝静まったであろう時間に、オレは一人で帰ってきた。しかも鍵を持たずにだ。


・・・まさか!!


 一抹の不安が脳裏をよぎる。まだ全快していない両足を強引に動かし、物音のする一階へと下りる。時計の長針は8と9の数字のちょうど真ん中を指している。普段ならこの家の住人は仕事に出ている時間だ。


「おはよう、ミューイ。今日はお休みだっけ?」


 台所で何かの作業をしているミューイに声をかける。まな板に包丁を打ち付ける度に彼女の桃色の髪が揺れる。お気に入りの花柄のエプロンをかける体は、華奢でありながらどこか肉感的だ。


・・・フュヌイちゃんも同じくらいの背丈だったよな。ミューイの方がいい意味で肉付きが良いけど。



 昨夜の酒の席を思い出す。あれから半日しか経っていないにも関わらず、もはやあの場所が恋しくなっている。良い酒、良い雰囲気、そして可愛い女の子達、まさに最高の夜だった。



 しかし夢の時間はもう終わった。今は、目の前のミューイに集中してあげないといけない。


 何故かは定かではないが、ミューイの機嫌は恐ろしく悪い。その小柄で可愛らしい背中から怒りのオーラを放っている。包丁を打ち付ける音もだんだんと大きくなっている気がする。先ほどから振り向いてくれないのも、何か理由があるのだろう。


・・・声をかけるべきか。それとも静かに出かけるべきか。


 数秒の熟考の後、オレのつま先は音を立てずに玄関へと進み出した。オレの歴戦のカンは、この空間から逃亡することを推奨している。


「昨日はお楽しみだったらしいですね?」


 玄関まで数歩のところで包丁のリズムが止まり、ドスの効いた声が一階中に響いた。


 オレの体はビクッと硬直し、無意識に背筋をピンッと伸ばした。


「いや〜 まあ楽しかったと言えば楽しかったんですがー」


「あんなにベロベロに酔って帰って来ましたもんね」


「ハハッ。年甲斐も無くはしゃいでしまいました」


「深夜に全力で玄関をノックしてましたもんね」


 ミューイは淡々と諭すように、昨夜の件について話してくる。その声色からは、隠しきれていないミューイの怒りをひしひしと感じる。笑ってはぐらかそうとしても冷たいトーンで両断されるだけだ。彼女は未だその顔を見せてくれない。


・・・これは相当に怒ってるな。やっぱり深夜全力ノックが頭にきたのか?


 いいや違う。彼女がなぜ怒っているのかは、何となく分かる。伊達に長生きなわけではない。


 理由はわかるが、対処の方法は分からない。何か一つお詫びの品でも送りたいところだが、いかんせん彼女にあげられる様なものは持っていない。金もない。


・・・そうだ!!金が無いなら稼いでくれば良いんだ!


 オレは玄関から飛び出し冒険者ギルドへと失踪する。


 断じてあのピリピリした空間から逃げ出した訳ではない。全てはミューイへのプレゼントのためだ。彼女の笑顔のためだ。



 冒険者ギルド『聖剣の心(サーベルズ)』に着くやいなや、オレは壁に張り出されている依頼に素早く目を通す。優に50を超える数の依頼書から、いち早く自分の望む依頼を勝ち取るのも冒険者の必須スキルだ。


 ・・・必要なのは高報酬、そして今日中に終わる依頼だ。あの雰囲気の中で数日はオレの気が持たない。今日中に解決してみせる。


「Fランク  薬草収集  報酬:1500クェール、  推定所要時間:五時間」

「Aランク  火龍討伐  報酬:80万6000クェール、推定所要時間:不明」

「Dランク 『迷いの森』ルート開拓 報酬:7万クェール 推定所要時間:七日間」


 いくつかの依頼が目につくが、めぼしいものは無い。理想としては今日中に五万ほど稼げる仕事がベストだが、そんな美味しい話はそうそうに無い。破格の報酬の依頼もあるにはあるが、大体はランクの違いで受けられない。


 諦めずに張り出されている全ての依頼を読み込んでいく。すると掲示板の左角の方にある依頼を見つけた。


「Cランク 迷宮(ダンジョン)攻略 報酬:8万クェール 推定所要時間:五日間 

*注:この依頼では、迷宮内で数日を過ごしてもらう事になりますので、野営の準備をあらかじめお願いします。また迷宮内で獲得した攻略報酬以外のアイテムは、全て攻略者の所有物としていいものとします」


 長々と書かれた注意書きには、今のオレに必要なものが二つも書かれていた。


 ・・・要するにクリア報酬以外は好きにしていいって事だろ。場合によっては破格の依頼だ。それにダンジョンで寝泊まりするってことは、あの家に帰らなくてもいいってことだろ。


 本当は今日中にミューイとのわだかまりを解消したかったが、手頃な依頼がないので仕様がない。それに少し日数を空けた方が、お互いに冷静に話が出来るはずだ。


 勝手にそう納得してしまったオレは、依頼書に手を伸ばす。


 しかしオレの手が依頼書に触れると同時に、どこからか現れた手が依頼書をかっさらってしまった。


「ちょっと!それオレの!」


 慌てて依頼書を持ち去った手を掴み、依頼泥棒のご尊顔を目に焼き付ける。


「ちょっと離せよ!」


 今日も今日とて真っ赤な服を着た「ギルド1のプレイボーイ」こと「ミューイのストーカー」ことジュールさんは、悪態を付きオレの掴んだ手をふりほどいた。


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