アレク王国第十五話 『最高の夜』
メイアの部屋を駆け足で去り、王城の玄関でキュークが来るのを待つ。数分経つと、やけに小綺麗な格好をした小太りの男がオレのそばへと歩み寄ってきた。
「待たせたな!じゃあ行きますか」
「行きますか!」
黒く光る革靴、いかにも高級そうなジャケット、そしてどこで買ってきたのか異様にツバの広い真っ黒な帽子、見るからに上機嫌なキュークは王城の雰囲気と完全にミスマッチしていた。はっきり言うとダサい。
いやもしかしたら、これが最近のファッションセンスなのかもしれない・・・・
オレは笑いを堪えながら、キュークと握手を交わす。キュークはそのままオレの腰に手を回し、道路の方へと誘導してきた。
「馬車を呼んである、1時間もすれば着く」
そうキュークが言うと同時に街の方から馬車が坂を上がってくる。オレ達は城の誰かに見られる前に馬車に乗り込んだ。
「「それでは!いざ行かん、楽園へ!!」」
ー
エルフの集落を出て、王国に来てから早一ヶ月。もしかしたらオレは性欲が強いのかもしれないと最近感じている。というのも、毎朝起きるとオレのご立派さんが直立しているのだ。美少女と同じ屋根の下で寝ているからでもあるだろうが、なんとかしなければと思っている。
・・・まあ、ここ500年間ご無沙汰だったからなあ
そんな事を思いながら、馬車に揺られること小一時間。オレとキュークは王国一の繁華街、シャルモン区に辿り着いた。
「ああ・・・いつぶりだろうなあ。ちょうど1年くらいか?」
賑やかな空気をに当てられたキュークは感慨深そうに目を閉じる。心なしかうっすら涙を浮かべているようにも見える。
・・・どうやらキュークも随分長い間、発散出来てなかったんだろうな
「それにしても、王都の少し外れにこんなところがあるなんて。なんで誰も教えてくれなかったんだ?」
このシャルモン区、いつもいる王都から馬車で一時間ほどしか距離が無いのだ。
・・・考えてみたら、オレいつも喋っている相手、大体ミューイかメイアだからな。教えてくれるわけ無いか。まあ、逆にあの二人がここを勧めてきたら、少し心配になる。
少し安堵しながらも、王国に来てから話し相手を全く作れていない事に気づく。500年間の引きこもりの弊害だ。
「ちょっと早いが、俺のお気に入りの店に案内してやる。がっつき過ぎるなよ」
ニヤニヤ笑いながら、キュークは胸元から取り出した櫛で髪を整える。少し色素の薄いブロンズ色の髪は、後頭部へとすきあげられている。キュークの凛々しい額があらわになる。しかし似合っているかと問われると、残念ながら答えはノーだ。
・・・お前っ、帽子の下そんなことになってるのかよ!!
またもやオレは笑いを堪えながら、キュークの後ろをついていく。
繁華街の奥に行くにつれて、喧騒は落ち着いてゆく。代わりにどこか妖艶な雰囲気が周りに漂い始め、心なしか辺りが暗くなってゆく。
「着いたぞ」
キュークは数十分歩いた後、ある一つの店の前で立ち止まった。外装はどちらかというと酒場に近い。パッと見ではこの店が『そういう店』だとは気づけないだろう。
ごくりと唾を飲み込んだキュークが店のドアノブを回す。扉にかかっている「OPEN」という看板が揺れ、コツコツと音を鳴らす。
ーチリン、チリン。
ドアベルの音が鳴り、オレ達は薄暗い酒場の中に消える。同時に店内に桃色の甘い声が響く。
「「イラッシャイマセ〜!ようこそ、『最高の夜』へ!!」」




