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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第十四話『探し物』

「おい、アン!今の見たか!?」


 メイアの一言で我にかえる。


 足元に無数に転がる石の礫、目の前で魔法陣を展開するメイア。そして周囲には、まるで物語のワンシーンのように美しい庭が広がっている。


 そうだメイアと訓練中だったな・・・


 遥か遠くの方へ行っていた意識はオレの体へと戻り、目前で広がる光景を脳が処理し始める。


「ああ、悪い。なんだっけ?」



 ぷくーと頬を膨らませながら、メイアは叱責する。


「ちゃんと見といてくれ、もう授業聞いてやらないぞ。ほら、もう一回やるぞ!」


 不貞腐れながらも、メイアは左手を前に出して詠唱を始めた。


『火よ我にともしびを 創炎(フレイム)


 メイアの左手にうかぶ魔法陣が魔力と共鳴して光りだす。メイアの表情は一瞬だけ明るくなり、また真剣な眼差しへと戻る。


「出ろーーー!!!」


 気合いのこもった掛け声と共に、メイアは手を前に向かって押し出す。


『バチッッ!!』


 という鈍い音と共に、魔法陣は砕け散り、霧散する。力を使い切ったメイアは、ヘロヘロとその場に座り込む。


「おおおおおーーーーー!!!」


 足元に散らばった石に躓きながら、オレはメイアの下へと駆け寄る。


「ついに出せたか!岩以外の魔法陣!」


 力なくへへっと笑うメイアは仰向けに寝転がり、雲一つない空に手を伸ばす。


「ああ・・・やっと最初のステージに立てたって感じだ。炎はまだ出なかったが、いずれ出してやる。不可能ではないのだから・・・」


 天に向けた拳をギュッと握りしめ、メイアは立ち上がる。太陽の逆光からか、はたまた魔力の残滓からか、訓練場に立つメイアが光って見える。


 ・・・いや。きっとメイアの成長が、努力が眩しいのだろう。


 綺麗なブロンドの髪をなびかせながら、メイアは満面の笑みを見せる。




 今回の一件でメイアの魔術が壊滅的な理由を「圧倒的な魔術への理解不足と練習不足」とオレは結論づけた。


 メイアの魔術への知識と発想は、学者の卵にも引けを取らないほどに豊富ということは、座学を通して感じていた。しかし魔術の実技においては、感覚を掴み切れていないようだった。簡単にいうと、日常的に魔術を使っていなかったということだ。


・・・なんでだ?いくら『剣の国』アレク王国の王女だからって、ここまで魔術を習わないことがあるのか?・・・・いや、ありえない。実際に初代王『剣王』アレクも魔術を使っていたはずだ。

答えの出なさそうな問題を一人悶々と考えていると、メイアがシャワーから帰ってきた。


「なあ、メイア。単刀直入に聞くぞ。なんで今になって魔術を習い始めようと思ったんだ?」


 魔術を習い始めるのは幼少期がベストと言われている。幼い頃から魔力に触れさせた方が、魔術への理解度が高まるからだ。


「ああ・・・それはだな。イワンに言われんたんだ。魔術の才能が無いと諦めていたんだが、やはり王たるもの魔術を扱えるようになっておかないと。自分の身を守る術にもな」


「ふ〜ん。あのイワンがそんなんことを」


 何か王族絡みの事情で魔術を遠ざけていたと思っていたが、そうでは無いらしい。ただ単に魔術への興味が薄かっただけのようだ。


 メイアは濡れたタオルを机の上に置き。椅子を動かし、オレの前へと座った。数秒の沈黙の後、メイアは思い出したようにオレに聞いてきた。


「そうだ、アン。もう王国に来て一ヶ月くらい経つが、『探し物』は見つかったか?」


「あ・・・」


 すっかり忘れていた。言い訳をすると、この数週間はメイアの魔術訓練のことで頭がいっぱいだったのだ。今日、奇跡的にメイアが魔法陣を展開できていなかったら、もう数週間考えていたかもしれない。


 しかーし、そこは抜け目の無いオレ。実はもう『探し物』の手がかりを見つけたのだ。具体的にはギルドのランク上げが関わってくる。



「そうだった。大丈夫もう目星はついてる」


 オレの言葉に安堵の表情を浮かべるメイアは、続けて聞いてきた。


「ところで『探し物』はなんなのだ?」


「そういえば、言ってなかった。オレが探してるのは『大賢者ハンツの手記』だ」


 オレの回答に何やらメイアは神妙な面持ちをしている。


 ・・・あれ?オレ何か変なこと言った?


 「アン。確か父上がそーー」


 メイアが何かを言いかけた瞬間、城中に恒例のメロディが流れ始める。キュークの演歌(バラード)だ。


「あれ?もうそんな時間か?悪いメイア、キュークと約束があるんだ」


 オレは颯爽と部屋から出て、中庭へと向かう。こっからは一分一秒たりとも無駄にできない、なぜなら可愛い娘ちゃん達が待っているのだから。


 城の廊下を走るオレに向かって、メイアは何かを叫んでいることに気づく。しかし足はもう止まらない。


「待て、アン!それなら父上が持っている」


 悲しいかな、あまりに足が早すぎたのか、それとも不潔なオレへの天罰なのか、メイアの叫びがオレの耳に届くことはなかった。


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