アレク王国第十三話『親友』
戴冠式まで残すところ67日。
今日も今日とてオレは王女様に魔術を教えるために、王城へと出向く。
最近は二日に一回の頻度で城へと出向いているが、いかんせん少し遠いのが問題だ。馬車に乗っても1時間半ほどの距離がある。ここ何回か一緒に馬車に乗ったおかげで、今ではすっかりキュークとおしゃべり友達になってしまった。一方イワンはというと、喋れないのとそもそも馬を引くために座席には座らないため、まだあまり親しくは慣れていない。ミューイの父親だし仲良くなっておきたいのだが・・・
そんなことを思いながら、王城までの暇つぶしが始まる。
「・・・そういえば、この前の歌良かったぞ」
「ああ、聞かれてたのか。これはお恥ずかしい」
頭をかきながら、キュークが照れながら笑う。
毎日2時恒例の『キカザル』キュークによる、演歌の熱唱。最近では授業終了のチャイムとなっている。とういかあんなに大音量で歌われてしまっては、授業どころではない。
・・・あんなに大声なのに、聞かれてないと思ってたのか。
少し音程の外れたあのメロディーは、まだ耳に残っている。どちらかというと音痴なキュークだが、不思議なことに彼の歌声は嫌いじゃない。
「知人に習ったんだって?メイアが言ってた」
前にメイアがキュークの歌について話していたことを思い出す。
「ああ。昔の主人がよく歌っていてな・・・習ったといえば聞こえはいいが、私はただ聞き耳を立てていただけだ」
少し遠くを見るような目をして、キュークは説明する。キュークの話し方は、その「主人」がもう亡き人だということを物語っていた。
先代の王だろうか?それともまた別の・・・・
勝手にそんなことを想像していると、キュークの格好がいつもとは少し違うことに気づく。キュークの腰からは、王族の紋章が入った剣がぶら下がっていなかった。
「今日は剣持ってないのか?」
「今日の午後から3日ほど休みをもらっていてな。武器類は城の中の部屋に置いてきたんだ」
「なるほど」
王女の護衛とて休暇はあるみたいだ。久しぶりの休みなのだろう、キュークの声色から喜びの感情が滲み出している。
「何するのか決めてるのか?」
そう聞くと、待ってましたと言わんばかりにキュークは答えた。
「そりゃあ『大人のお店』ですよ。この仕事は出逢いが少なくてね。しかも休暇もほぼないときた。たまには貯まったお金をばーっと使わないと」
「護衛騎士がそんなんでいいのか?」
『今夜』について熱弁を振るうキュークの後ろで、イワンが呆れたように首を振っているのが小窓から見える。メイアがここにいてもきっと同じ反応をするだろう。
「どうだい?アン君も、一緒に行かないかい?」
突然のお誘いにびっくりしつつも、アレク王国に来てから「そういう店」にまだ行っていないことに気づく。ついでにオレのズボンに、少しでこぼこができたのは言わないでおこう。
ゴクリと唾を飲み、キュークに耳打ちする。
「ちなみに相場はどのくらいだ」
「ちょっと財布見せてみろ」
ニヤリと笑いながら、キュークはオレの財布の中を確認する。
「十分だ。とっておきの場所を教えてやる。サービスも酒も最高級のところだ。もちろん可愛い娘ちゃん達も」
「楽しみにしとくよ」
オレもニヤリと笑いを見せ、目の前の心友と熱い握手を交わす。
「くれぐれもメイアお嬢様には内緒にな」
「当たり前だろ。親友」




