アレク王国第一話 『迷いの森』
「どわ!!」
何かの気配を感じて目を覚ました。
それと同時に無数の小型動物がバッグから飛び去っていった。
「あーやっちまった、寝過ぎた」
バッグの周りには食い散らかされた食料とその残飯にあやかろうとする虫たちが散乱していた。
なんだスカイラットか?なんにせよ昨日夜更かししなきゃよかったな。
一応バッグの中身は・・・
伽藍堂か、そりゃそうだよなー。ポケットに入ってた金は無事・・か、でも旅をスタートして2日目で食料を全部ロスト。大失態だ、自分のせいでこういうことになると泣きそうになる。
「もう、オレだって腹は減るんだぞ死なないけど」と空に向かって叫んでみる。食料は降ってこない。
そうオレことアーノルド・アンダーソンは「死なない」
この世界のルールの一つ「スキル」によるものだ。それぞれの人間が違うスキルを生涯でひとつだけ持つ。後天的なものもあれば先天的なものもある。
スキルは発現した時にある程度の効果を理解できるようになっているが、詳しい効果範囲や代償などは使ってみるまで分からない。
オレはその昔、よく分からないまま自分のスキルを使って不老不死になった。そして後悔している。
不老不死というと羨むものもいる。実際オレだってこの体には幾度も助けられている。しかしそれ以上に生きているという実感がない。確かに楽しいことも嬉しいこともいろいろある。だがどこか達観しているオレがいた。楽しいことは終わり辛いことがやってくる、愛する人はいずれ死ぬ。この作業をオレは永遠に繰り返さないといけない。ゴールのない人生などそれこそ虚無だ。
だから死んでみることにした。
死なない死ねないと何回も自分で言っているのに、どうやるつもりだと思うだろうが一つだけ方法がある。と言っても五分五分の賭けだ、もしかしたら無駄足かもしれない。
だから気軽に旅をしようと思う。この500年間ちょっとはヴァース大森林のエルフ族の御厄介になっていた。旅のついでに文明の進化をこの身で体感せねば。 せっかくあの集落から出たんだ、目新しいものがごまんとあるだろう。
馬鹿みたいに騒いでみよう
新しいものに挑戦してみよう
人と触れ合ってみよう
旅の果てにオレのゴールがなくても後悔しないように。
ー
多分こっちの方向だな。
エルフの集落から借りてきた地図を頼りに道を確認する
目指すはルアック大陸一の王国「アレク王国」
しっかし地図を見ながらでも自分の場所を度々見失いそうになる。
さすが『迷いの森』
ここはアレク王国のすぐ南に位置する大森林「ヴァース大森林」別名『迷いのもり』エルフ族を筆頭にした多種多様な生物が暮らしている。
それにしても腹が減った、森の動物たちに食料を窃盗されてからこの1週間飲まず食わずだ。
街に着いたらパーティーだなこりゃ。
そんなことを考えながら草木をかき分け、一歩一歩力強く進む。
よしこの茂みを抜ければ王国だ
500年ぶりの人間の街かぁ・・どんな変化を遂げてるだろう、オレハブられたりしないよな。
緊張半分、楽しみ半分で目前に立ちはだかるジャングルに足を踏み入れる。
・・・とその前に
『水よ 我に潤いを 創水』
水たまりを作って身だしなみチェックする。やっぱ人は見た目が100%。
水面を覗き込むとオレの凛々しいご尊顔が映し出された。
「相変わらずイケメンだよなー」
引き締まった頬、長いまつ毛、綺麗に整った歯、少し目つきは悪いがサファイアブルーの綺麗な瞳。
相変わらず惚れ惚れしてしまう。
しかしこの癖毛だけなー、というかアホ毛だな・・・
整った顔の上には少し薄いブラウンの髪の毛をなびかせている、2本の逆立った癖毛と共に。
「なんか鬼みたいなんだよなー、何度エルフのクソガキ共に掴まれて遊ばれたことか。」
そう言ってるとなんだかあの家が恋しくなってきた。婆ちゃんの作ったシチューが食べたい・・
といかんいかん、こんなにすぐ戻ったら笑われる
「魔法で無理やり平にするのか?いやでもそういうキャラってのが覚えてもらいやすいか?」
やはりキャラは大事だろう、いかにイケメンでも光るものがなければ・・
5分ほどの長考でオレのこれからのキャラが決定した。
「よし平で、真面目キャラで」
水たまりの水で髪を濡らす、と同時に2本のツノも落ち着きを取り戻した。
『風よ 導け 風来」』
髪を乾かす、そして再度水鏡で確認。
「よし完璧」
1日は平のままだろう、毎朝セットしてあげなければ・・・
緑の壁を両手で掻き分けぐんぐんと進む。
途中食べられそうな木の実がなっているのを見つけたが、今はまだ腹を空かせておこう
よし森の終わりが見えてきた。
茂みを両手で思い切りよく開ける。眩い日差しがオレの体に照りつける。
「こんにちはアスラ王国の皆さん、アーノルドと申します。以後お見知り置きを!!」
元気よく叫んだ。
旅の門出だ。
ー
「こんにちはアスラ王国の皆さん、アーノルドと申します。以後お見知り置きを!!」
オレのファーストご挨拶は、地平線まで続く広大な平野に響き渡った。
やはり平野はいい、森林とは比べ物にならない開放感。自分が世界の中心になったような気がする。
・・・というか王国は?街は?
おかしい。
地図によるとさっきの林を抜けると王国の見える丘に抜けるはずだ。
地図を読み間違えた?
このオレが?
そんなはずはない、というか道という道関係なく真っ直ぐに森を突っ切たのだから間違えるはずがない。
今こんなことを考えていてもしょうがない、とりあえず周り散策してみるか・・・
・・・もう10時間近く経っただろう。日も沈み初めてあたりは暗くなってきた。夕陽が綺麗だ。
こんなに歩き回っているのに街どころか、動物一匹も見当たらない。オレは違う世界に迷い込んだのか?
こんなことならフリースを連れてくるべきだったな。
フリースはエルフ族長ナーナの孫娘だ。少しシャイだけどとても可愛らしい子だ、最近は少しオレに対してあたりが強かった気もするが。まぁ「年頃」というやつだろう・・・まぁ、その話はおいといて、フリースは「浮遊」というスキルを持っていた。その名の通り浮くことができる。その能力と馬鹿みたいに良い目でエルフ族No.1の索敵能力を誇っていた。
そうか跳べば良いのか。視点が高くなれば見えるものも増えるだろう。
そう気づいたおれは両手を地面に向けた。
『水よ我に潤いを 創水』
ドン!!という音と共に体が宙に打ち上げられる
あたりを見渡すがいかんせん暗くて何も見つからない。
ダメか・・・明日の朝またやってみるか。
そんなことを思っていると少し遠くで火柱が上がっているのが見えた。
人だ、少なくとも魔獣だ!!
あんな火を生み出せるのは人間か魔獣くらいだろう。
魔獣でも食料にはなるはずだ。
全速力で現場に急行する、気持ちは音速などゆうに超えている。
今はとりあえず人肌が恋しい・・・・
「初めまして、アーノルドです。お見知り置きを!!」
元気よく挨拶する。
「なんだ、何者だ!!」
「ギュエー」
甲冑を身に纏った(多分)人間達と赤いドラゴンが同時にオレの方を振り向く
火柱の現場には人間4人とドラゴン一匹の豪華セットがおいてあった。