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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第十一話『新解釈(2)』

 魔術とは魔力を利用して発生する。

 魔素をもとに発生する奇跡のような現象、魔法。それを人類が術式化して、使用できる出来るようにしたものを魔術と言う。

 

 そして大きく分類すると、この世には四種類の魔術しかない。それは自然界でもよく目にする力と物質。火、水、風、そして土の四つだ。スキルや遺伝による例外はあるものの、全ての魔術はこれに属している・・・はずだった。


「かみなり・・・」


 未だに理解が追いつかない。それもそうだ、五百年ぶりに人里に出てきたら全く新しい概念が生まれていたのだから。


・・・一体どんな魔術なんだ。雷というとあの空から降ってくるやつだが、あれを放てるようになるのか?


 見たことも無い魔術について勝手に想像する。未だに新しい魔術系統が存在していることに驚きを隠せないが、心の内はかなりワクワクしている。やはり旅の醍醐味といったら、新しいものを体験することなのだろう。


「なあメイア。ちょっと雷魔術見せてく・・」


 そう言いけかけると同時に、オレは大事なことを思い出す。


 馬鹿かオレ!土魔術以外は使えないって言ってたじゃないか。


 練習のことなどそっちのけで、雷魔術への興味が勝ってしまった。


「・・・見せてやれなくてすまない」


 しょんぼりした顔でメイアは謝る。


「すまん、オレも忘れてた・・・・でも、これから出来るようになるんだろ!」


 慌てて取り繕う。メイアもオレに気を使わせまいと愛想笑いをしてくれた。


 なんだか悪いことをしてしまった。教師として失格だな・・・・て、クヨクヨするな。切り替えていけ。


 しんみりした空気をぶち壊すように、オレは満面の笑顔で言う。


「よし! じゃあ最初の目標は岩壁を完璧にすること、そして他系統の初級魔術を少なくとも1個だな」


「そうだな。よろしく頼む」


 とりあえずの目標は決まった。戴冠式まであと80日、慌てずゆっくりいこう・・・・



 メイアの言ってた通り、土系統以外の魔術は彼女の手から発動されることはなかった。一方で土魔術だけに焦点を置くと、メイアの技量は既に実践レベルのものだった。生成魔術を除いた場合だが。


「あー、ダメだ!」


 そう言いメイアは訓練場に倒れ込み、空を見上げる。拳大にも満たない土の塊が彼女の体の横を転がる。『岩弾(ロックバレット)』のための生成魔術の練習は、絶賛難航中だ。


「まあ、物質生成は誰もがぶつかる最初の壁だからな。お! でもどんどん大きくなってきてる気がするぞ」


 オレは転がった土の弾を拾い上げ、メイアにエールを送る。心なしか回を重ねるごとに大きくなっている気がする。


 ヨイショ!っと、メイアは起き上がり。少し不服そうな顔をこちらに向け、言ってくる。


「アンのことを責めるわけじゃないんだが、生成魔術を練習する意味はあるのか? あまり必要なものだとは思わないんだが・・・」


 これは予想通りの疑問、そして至極真っ当な疑問だった。


 生成魔術はひびきこそかっこいいが、数多の魔術師が不得意とする技術だ。しかも覚えたところでデメリットが多いのも事実である。


「確かに、生成魔術にはデメリットが多くある。少しだが発動の遅延、魔力の消費量の増加、あと魔術発動の難易度が格段に上がる。生成こみの初級魔術は生成なしの中級魔術と同等の難しさとも言われる」


 オレの説明に、「そうだろう」とメイアは頷く。


「でもな、これ全部差し引いてもお釣りがくるくらいのメリットもあるんだよ」


「・・・もしかして、魔術をコントロールしやすくなるとかか?」


 持ち前の勘の良さからか、メイアは思いついたように答えた。


「どうしてそう思うんだ?」


「いや・・・なんとなく、自分自身の魔力で作ったものの方が扱いやすいと思ったんだ」


・・・割と良い線をいっている。魔術についての初歩知識もほぼほぼ完璧だったし、意外とメイアは魔術師としてのセンスがあるのかもしれない。


「半分正解ってところだな。確かに自身の魔力で作ったものの方が魔術でコントロールしやすい。で、もう一つの理由は・・・これは実際に見せた方がいいな」


 オレはメイアの立っている場所から20歩ほど歩き、彼女の方を振り向く。


「これが魔術師同士の決闘をする際の基本的な距離だ。もう少し遠い時もあるけどな・・・メイア、そこで『土壁』を使ってみろ。普通のやつでいい」

 

「分かった。いくぞ・・・」


『土よ 壁をなせ 受け止めよ 岩壁』


 詠唱を終えたと同時に、メイアの足元の土はせり上がり。岩の壁が彼女の体をすっぽり覆い隠してしまった。


「よし。じゃあこの状態からオレがメイアに攻撃するにはどうしたらいい?」


 壁の横からひょこっと顔をだし、メイアはオレの問いに答える。


「この壁を壊を壊す威力の魔術を打つ、もしくは魔術を曲げて壁の裏に届かせるとかか?」


「いいや、こうする・・・」


 オレは壁の方向に手をかざし、詠唱を始める。


『土よ 意思を持て 動き出せ 土人形(ゴーレム)


 メイアの前の岩壁は、ガラッという音とともに崩れ去る。そして崩れ落ちた土は、そのまま人の形を模して歩き出した。


「・・・!?」


メイアは口をパクパクさせながら驚きの表情で立ちすくむ。


「ハハッ、面白いだろ。これが魔術の『上書き』、もしくは『乗っ取り』と呼ばれるものだ」


「・・・上書き。私の土を魔術の材料として使ったのか」


「その通り。『上書き』は魔術師同志の戦いで最も警戒しないといけないものだ、同時にこちらの上書きが決まると相手のペースを崩せる。例えば相手の『岩壁(ロックウォール)』を『岩弾(ロックバレット)』に上書きして発射したりな」


「確かに・・・戦闘中にやられたらひとたまりもないな・・・」


 いかに『上書き』が魔術師にとって脅威なのか理解したのだろう。メイアはオレの言葉に生唾をゴクリと飲み込んだ。


 すると突然、何を思ったのか、メイアは訓練場を歩きまわる土の人形に向けて手をかざし言い放つ。


『土よ 壁をなせ 受け止めよ 岩壁(ロックウォール)


 威勢の良い詠唱とは裏腹に、岩の壁が現れることはなかった。土の人形はバカにしたように、メイアの目の前を悠々と歩く。


「ハハッ、試すのはいいがメイアに上書きはまだ早いよ。これをやるには生成魔術への深い理解が必要なんだ」


「それが生成魔術を練習する二つ目の理由か?」


「いいや、一番の理由はな・・・自分の魔力で生成した物質は『上書き』されないんだよ。魔術師同士の対決中に『上書き』を警戒する必要がなくなるんだ。」


「なるほど・・・確かにそれは便利だな」


 うんうんと頷きながら、メイアはオレの創り出した人形を目で追う。さっきまでの不満な顔はどこへいったのか、早く魔術を練習したくてウズウズしているようだ。


 ・・・どうやら納得してくれたようだ。物分かりがわくて大いに助かる。本当にオレは良い生徒を持った。


「よし。練習再開するぞ」


「ああ!!」

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