アレク王国第十一話『新解釈』
王国のシンボルとも言える美しい城の中庭は、それはそれは美しいものだった。
目が回りそうなほどの多種多様な色の植物が植えられる花壇。その花壇に囲まれるようにひっそりと佇む屋根付きの白いティーテーブル。澄んだ水を垂れ流す噴水と、そこに位置する剣王アレクサンダーの銅像。
そしてその美しい中庭の少し外れに、王族専用の訓練場があった。
硬いとも柔らかいとも言えぬ、訓練用としては最適な土が訓練場に敷き詰められていた。そんな土の上でオレとメイアの魔術練習が始まる。
「じゃあ、メイアの一番得意な魔術を見せてくれ」
「わかった」
メイアはオレに背を向けて、詠唱を始める。左手に浮かび上がった魔法陣に魔力が流れ、薄茶色に光る。
やはり練習を始める前に、メイアがどのレベルの魔術を扱えるのかを見ておいた方がいいだろう。無いとは思うが、この五百年で魔術の解釈が変わっているかもしれないし・・・
『土よ 壁をなせ 受け止めよ 岩壁』
詠唱を終えたメイアの足元手前の土は盛り上がり、彼女の背丈と同じくらいの岩の壁が出来上がった。目測だが壁の厚さは20センチを超えるだろう、中級魔術以上でなければ突破はされない。
「どうだ?」
オレの方を振り向き、メイアが問う。彼女自身もかなりの出来と確信しているのだろう、エメラルドグリーンの瞳は自信の光で満ち溢れていた。
「サラマンダー討伐の時と同じく投影速度、壁の厚さ、高さどれをとっても完璧だ」
「そうだろそうだろ」
フンッと鼻を鳴らし、メイアはドヤ顔を見せる。
そんな彼女を横目に、オレは次の課題を伝える。
「じゃあ今度は地面の土を使わずに、生成魔術込みの『岩壁』を見せてもらおうか」
「うっ・・・わかった」
つい先ほどまでのドヤ顔はどこへ行ったのか、メイアは冷や汗をかく。
少し渋った後にメイアは詠唱を始めた。
『土よ 壁をなせ 受け止めよ 岩壁』
メイアが両手を前に突き出し詠唱する。何もなかったはずのメイアの前の空間にどこからともなく土が生まれ、岩となり、層をなして厚みを帯びてゆく。しかしすぐに壁の生成は止まり、薄い岩の板一枚だけが取り残された。
「・・・やっぱり、魔術での物質生成が苦手だったか」
「うう・・・すまん」
しょぼんとした顔で、バツが悪そうにメイアは唸る。
・・・思えばやけに外での魔術練習を勧めてくると思っていたが、土があるこの訓練場に誘い込むためだったのか。
オレは王女様のささやかな策略に気づく。
「別に謝ることじゃないよ。むしろオレに言ってくれないと、どう教えれば良いのかわかんないだろ」
「そうだよな・・・すまない、変に見栄を張った」
メイアはオレに向かって頭を下げる。
・・・王女様に頭を下げさせるなんて打首ものだが、今はただの教師と生徒。そういうしがらみ抜きにして本気でぶつかるのが礼儀ってものだろう。
オレは遠慮の言葉をグッと堪えて、メイアの釈明を受け取った。
「他にオレが知っといたほうが良いことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「じゃあ言うが、実はな・・・土系統以外の魔術が全く使えないのだ」
少しためらった後にメイアは付け足す。恥ずかしいのか俯いたままオレの方を見ようとしない。
「『全く』ってどのくらいだ?」
「その言葉のまま、生成も操作も発動もできないんだ。才能が無いんだよ・・・」
メイアが答える。
本人は才能が無いと言い張ったが、オレはメイアの説明に少し違和感を感じていた。
ふむ・・・少し妙だな。魔術が全く使えないというやつは見たことはあるが、一個の系統以外の魔術が使えないのはおかしい。偏りこそあるものの、魔術が使える時点で全ての属性を扱えるはずだ。例えるとするなら、フォークとナイフはしっかりと使えるが、スプーンだけ使えないようなものだ。
「分かった。とりあえずメイアの得意系統は『土』で、他の3つはだめってことだな?」
オレは再度確認のために尋ねた。
するとメイアはキョトンとした顔でオレの方を見据え、答える。
「いや、4つだ。土以外の火、水、風、そして雷が使えない」
「・・・かみなり?」
耳を疑った。当たり前だ、いきなり聞いたことのないものを言われたらこうなる。
「メイア。『魔術における系統』とは?」
一瞬だけ座学の授業に戻り、オレは魔術というものを再確認する。
「系統または属性とは、魔術における現象と物質の分類のこと。大まかに5つの分類に分けられて、全ての魔術は『火』『水』『風』『土』『雷』いずれかの性質を持っている・・・だろ?」
教科書を丸暗記したかのように、メイアはスラスラと答えた。
しかしそんな教科書から引用したような一文でも、オレの思考を停止させるには十分すぎた。
この世界には四系統の魔術しか存在しなかったはずだからだ。
少なくとも500年前には・・・




