アレク王国第十話『家庭教師(2)』
王城へと続く道を馬車は登ってゆく。
城へと近づくに連れて、民家の装飾がより目立つものになっていることに気付く。
『メイア王女さま戴冠式まであと80日』と書かれた横断幕をぶら下げている家まであるくらいだ。
「・・・なあ、やっぱり成人した直後に即位ってのは早すぎるんじゃないのか?王様だってまだ40かそこらだろ?」
メイアと初めて会った時からの疑問だった。王様が高齢もしくはもう亡くなってしまっている時は、その子供が若くても即位させるという話はよくある。しかし王がまだバリバリに現役なのに、まだ経験が浅い子供に国を任せるというのは少し不思議だ。
オレの問いかけにキュークが少し戸惑ったように答える。
「それは・・・風習としか言えないな。確かに王はまだ34歳でおられるが、もう王位から退かれる覚悟は決まっているようだ」
「元気なうちに子供を王にさせて、自分は影から見守るって感じか・・・」
・・・確かに「王様が死んだから国を取りしきれ!」なんていきなり言われても難しいからな。成人で王になるという覚悟があったほうが良いのかも知れないな。
そう勝手に納得していると、キュークはオレの考えをすかさず否定してきた。
「いいや、そうじゃない。戴冠式の後、王はお亡くなりになられる」
「え?」
オレは思わず耳を疑った。
ここまではっきりと自分の君主が死ぬと言ってしまう家来がどこにいるのだろうか。しかもキュークの言い方は予言や予想のそれでは無く、未来に確定している事を説明しているようだった。
「・・・それは、病気でか?」
失礼だと分かりながらも聞いてしまう。余計なお世話かもしれないが、もしかしたら力になれるかもしれない。
「・・・呪いだよ。魔王のな」
数秒の沈黙のあとキュークが口を開いた。
「お前も知っていると思うが500年前、剣王アレクサンダーは魔王を討伐した。その際に受けた呪いだ。それは子孫へと代々受け継がれてしまっている。一代前の王もそうだったように、歴代の王はご子息が成人されてから一週間後に必ず死んでしまっている」
「そんなはずはない!」
オレは立ち上がり、思わず叫ぶ。
キュークは何を言ってるんだ。魔王討伐?魔王の呪い?そんなものあるはずがない。だってアイツらは、オレ達は・・・
「どうしたんだ、アーノルド殿」
イワンとキュークが不思議そうにオレを見据える。二人の目線でオレは少し落ち着きを取り戻す。
・・・冷静になれアーノルド。今この二人に噛みついたところでどうにもならないだろう。それとも変に話を盛り上げて牢獄にぶちこまれたいのか?違うお前はそんなやつじゃない。今のお前はただの家庭教師だろう。もう少しで全てが上手く行くんだ、今は黙っとけ。
フーッと深呼吸をして、座席に腰を落とす。
「・・・すまん。なんでもない」
護衛二人はまだオレのことを不思議そうに見つめる。馬車の中は何とも言えぬ、気まずい雰囲気になってしまった。
沈黙に耐えられなくなったキュークは、馬車が城に着いた事に気づき安堵する。
「まあ何はともあれ、城についたぞ。お嬢様が待っておられる」
「ああ、ありがとう」
馬車から降り、城の中へとすすむ。城の玄関には恐ろしく大きい階段とその両脇に佇む石像が目立っていた。
どうやら、この国でやる事が一つ増えたのかもしれない・・・
ー
城の玄関にある大階段。そして美しい螺旋階段を上がったところに、アレク王国王女メイア・アレクサンダーの部屋があった。
「アーノルドです。家庭教師の件で参りました」
彼女の部屋についてある、豪華な扉をノックする。冒険者ギルド『聖剣の心』のエントランスよりも重厚で、威圧感がある。
「どうぞ」
という声を合図にオレは扉を開け、入室する。王女様ことメイアは椅子から立ち上がり、オレとの再会に喜びの顔を見せる。
「久しぶりだな、アン」
「元気にしてたか?メイア」
前みたく甲冑を着ていないからだろうか。メイアの雰囲気は心なしか前より柔らかい。
「悪かったな、急に呼び出してしまって」
「いやいやオレも暇してたからちょうどよかったよ。それよりもオレこんな格好だけど大丈夫か?」
少し色褪せた服を見せながら言う。改めて見ると場違い感がすごい。
「気にしないでくれ。私もラフな格好だしな」
そう言いメイアは自分の服に視線を落とした。
王族の家紋が入った紺色のブレザーをビシッと着こなし、中には白いシャツを着ている。同じく真っ白なレギンスを履きこなし、綺麗な金色の髪を一つ束にして下ろしている。王族の気品を漂わせながら、どこか年頃の少女っぽさもある格好だ。
どこがラフな格好なんだろう・・・
そんな疑問を持ちつつ。オレは勧められた椅子に座る。馬車の座席同様、どんな衝撃でも吸収してしまうような柔らかさだった。こんな椅子に座れるのなら、ずっと机に向かって勉強しても構わない。
「じゃあ。早速しますか、勉強」
メイアは棚から数冊の本を持ってきて、オレの背丈ほどある勉強机の前に座る。
「ああ、これから戴冠式までよろしく頼む」




