アレク王国第十話『家庭教師』
二十分ほど経つとイワンとミューイが階段を降りてきた。二人とも他所行きのちゃんとした格好をしている。
「行ってきまーす」
「おう、気をつけてな。イワンもまたな!」
ミューイとシヴァは互いに手を振り、イワンんはコクッと頷き大通りの方へと歩き出した。オレも空になった皿たちをシンクに置き、シヴァに朝食の礼をする。
「そろそろオレも行くわ、朝食ありがとうな」
「おう、お粗末さん。アンの坊主はどっか行くのか?」
「ああ、ギルドに行かないと」
まだ水質調査の依頼の途中だったことを思い出す。依頼自体は終わっているがギルドに報告して、報酬をもらわないといけない。いつまでも一文無しの放浪者なままではいられない。
ミューイの部屋に置いてあったバッグを取りに行く。
もうこの部屋ともお別れか・・・まあ、あんな可愛い子と同じ空間で寝れただけでも儲けもんだな。
そんなことを思っていると、机の横に置いてある本棚が目につく。昨夜は理性を保つことで精一杯だったので気づかなかったが、ミューイの部屋には長生きしているオレにとっても珍しい本がたくさんある。
・・・これは東洋の国の文字。あんな遠いところオレでも数えるほどしか行ったことがないぞ。まさかこんなところでこの文字をまた見れるとは。それにしてもミューイはこういうのが好きだったのか、今度あっちの国の話でもしてやろう。
バッグをとり玄関へ向かう。廊下を渡る途中でオレの髪の毛が今日も元気よく逆立っている事に気づく。
・・・ぶっちゃけ、そんなに変な目で見られなかったもんなあ。もうこのままでいいか。
つい数日前に自分のキャラを決定したばかりだが、最早ブレブレである。面倒臭いのだこの二本のツノを平べったくするのが。毎朝のように髪の毛をセットできる人は、よほど辛抱強くマメな性格なのだろう。
階段を降りると、一階ではシヴァが皿洗いをしていた。
「じゃあ、ありがとうなシヴァ。行ってきます。また遊びにくるよ」
「何言ってんだ、アンの坊主。この宿に泊んないのか?」
不思議そうな顔で、シヴァはオレに問いかける。言っていることは、昨夜と正反対である。
「良いのか?一泊だけだと思ってた」
「いや、それはイワンの奴が帰ってきてたからだ。アイツはあと2ヶ月は帰ってこない」
イワンとシヴァが会話しているところを一度も見なかったが、シヴァは当たり前のように次のイワンの来訪を予言する。
「・・・そうか。じゃあ泊まらせてもらっちゃおうかな」
「おうよ」
二つ返事でオレの宿泊継続が決定した。
どうやらまだこの家族との関係は続くみたいだ。これから毎日あの朝ご飯をミューイと一緒に食べれるらしい。はっきり言って最高の宿だ。追い出されないためにも、早速ギルドに行って金をもらってこなければ・・・
「じゃあ、行ってきまーす」
「おう、頑張ってこい!」
勇足でギルドへ向かう。街は昨日の夜が嘘のように明るく、賑わっている。心地よい向かい風とシヴァからのエールがオレの背中を前へ前へと押し進める。
ー
早いことで王国にきてから二週間が過ぎた。
あれからオレはFランクの依頼を四回、Eランクの依頼を三回クリアしたことで無事Eランクへと昇格した。
順調なことに、財布の中に十二万クエールほど蓄える事ができた。ミューイ達に宿代を払っても贅沢できるほどの金額だ。もう少し余裕ができたら、自分用の武器を買っても良いかも知れない。
今日もオレは手頃な依頼を探しに冒険者ギルド『聖剣の心』へと向かっていた。
・・・そろそろDランクの依頼を受けてもいいな。今月中にはもう一つランクを上げておきたい。
そんな事を思いながら歩いていると見覚えのある馬車がオレの前に止まった。忘れもしない、オレをこの王国まで連れてきてくれた王族御用達の馬車だ。
馬車の中から男前と小太りの男二人が降りてくる。メイア王女が護衛イワンとキュークだ。
「ご無沙汰ですな、アーノルド殿」
キュークがオレの方へと寄ってくる、イワンは後ろの方でぺこっと頭を下げる。
「・・・もしかして、家庭教師の件か?」
オレはメイアに魔術を教える約束をしていたことを思い出した。この数週間メイアから音沙汰もなかったので、忘れ去られたと思っていた。実際オレも忘れてたし・・・
「その通りでございます。ささ馬車でお城までお送りします!」
そう言いキュークはオレを馬車へと促した。相も変わらず馬車の座席はフカフカである。
・・・今日迎えにくると事前に伝えて欲しかったが、オレも暇をしているしまあ良いだろう。王族と良い関係を保っておくのも後々重要だ。しかしこんな格好で王城の中へ入っても良いのだろうか。
そんなことを考えているオレをお構いになしに、馬車は軽快に走る。
・・・まあ、メイアはオレの格好とかで怒るようなやつではいか。
王族御用達の家庭教師アーノルドの魔術授業が今日、始まる。




