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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第九話『朝食』

 持論だが、人間の顔は二種類の顔に分類できる。それは「印象に残りやすい顔」と「残りにくい顔」だ。ある人の顔は絶対忘れないのに、またある人の顔は一向に覚えられないという経験をしたことはないだろうか。勘違いして欲しくないのだが、特段どちらの顔の方が得や損といったものはない。あくまでこれはオレ個人が勝手に分類しているだけだ。


 まあ結局何が言いたいかというと、『例の男』の正体イワンの顔は紛れもなく「印象に残りやすい顔」だった。常人の何百倍もの時間を生きているオレでも忘れることは無いだろう・・・


 ミューイの家で奇跡的な再会を果たした、オレとイワンは互いに見つめあっていた。なんとも言えない静寂の中、イワンは仏頂面で眉をひそめてオレを見つめている。オレはというと、先程までコーンスープを食べていた口をあんぐり開け、驚きの表情を見せる。


「同居人ってイワンのことだったのか」


 こんなに奇遇なことが続くとは・・・


 ギルドで知り合った受付嬢の実家は、道端で会った串焼き屋の店長の宿屋で。しかもその家にはオレを王国まで連れてきてくれた王女様の護衛が住んでいた。


「・・・・・」


 イワンは一向に喋らない。

 いいや、彼は喋れないことをオレは思い出した。


 オレは手話を使って話しかけてみることにした。


(やあ、昨日ぶり)


 イワンは眉をひそめるのをやめ、オレの突然の手話に身構える。


(手話、できるのか?)


 イワンも手の動きだけで会話を始める。オレよりもはるかに慣れた手つきだった。


(習ったことがあるからな)


「へぇ、そうなんですか。アン君って割となんでも出来るんですね」


 ミューイもオレの手話を理解したのか、会話に参加してくる。


「パパも耳は聞こえるので、 普通に喋りかけて大丈夫ですよ」


「そうか」


 イワンの耳は聞こえているらしい。


 メイアや他の護衛たちも、手話を使ってイワンと話していることはなかったことを思い出す。


 ・・・今、パパって言わなかったっか?


 数秒のタイムラグの後、ミューイの発言に聞き捨てならないものが混じっていたことに気付く。


「今、パパって言ったか?」


 何か不思議な事でもあるのか、と言いたげにミューイはケロッとした顔で答える。


「はい、イワンは私のもう一人のお父さんです」


 あまりに気になったので思わず聞いてしまったが、ミューイの反応からして触れてはいけない話題では無かったようだ。


 ・・・シヴァとイワンがミューイの父だとしたら、母親はどこへ行ったのだろうか?そもそもなぜこの二人が一緒に暮らしているのだろうか?そして王女の護衛がここにいるのか?


 様々な疑問がオレの脳内を飛び回ったが、一向に答えが出る気配は無い・・・というかこの数日間で得た情報量は、オレの脳の容量(キャパ)を優に超えていた。


「とりあえず三人とも座れ、飯が冷める」


 オレ達の会話を遮るようにシヴァが朝食を促す。イラついているのか、声のトーンが少し低い。


 シヴァが怒っているのを察したのか、イワンとミューイは急いで食卓に座る。


 ・・・まだまだこの家族については疑問がたくさんあるが、考えていても埒が開かない。それにあんまり深入りするのも失礼だろう。


「そうだな、スープが冷めないうちに食べようか」


 オレは飲みかけのスープが置かれている席に戻る。


「それでは・・・」


「「「「いただきます」」」」



「なぁ、ミューイ。オレと王女様が知り合いって昨日言ったよな。その時イワンのこと教えてくれてもよかったんじゃないか?」


 二本目のソーセージに齧りつきながら、オレはミューイに問いかけた。


 純粋な疑問だ。昨日ミューイと飲んでる最中、オレはメイアと王国まで来たことを彼女に話している。その時イワンの名前を出したかは覚えていないが、そこにイワンも一緒いたと推測するのは容易いはずだ。


「う、それは・・・」


 ミューイは二個目のパンをスープに浸しながら顔を赤くさせる。昨夜オレに同じベッドを勧めてきた時よりも恥ずかしがっているみたいだ。


「ミューイは人一倍、酒に弱くてな。たぶん会話の内容の二割も覚えていないと思うぞ」


 シヴァが可愛い娘の代わりに説明する。


「ジョッキ6杯を飲み干してもケロっとしてたぞ?」


 このミューイという娘、見た目に反しなかなかの酒豪だったはず。飲んだ後もしっかりと歩いていたはずだ。変な冒険者達も軽くあしらってたし・・・


「何というか・・・そういう体質でな。見た目は酔ってなくても頭は動いてないんだ。会話はできるけど何を言ったのかは自分でも分からないし覚えていないらしい。面白いよな!」


 ガハハ、とシヴァが豪快に笑う。イワンもオレの横で笑みを浮かべている。ミューイはというと、「もうやめて!」とシヴァのことを叩いていた。


 そんな『家庭の日常』な光景をみながらオレはスープを飲み干した。


 色々と複雑な事情はありそうだが、この三人は紛れもない『家族』なのだろう。


 するといきなりシヴァがキリッとした顔でミューイの方を向く。


「というかミューイ、お前6杯も飲んだのか。あれほど飲みすぎるなと言ったのに・・・」


「・・・いいじゃん。私だってもう大人なんだから」


 ムッとした表情でミューイが反抗する。意外にも子供らしい一面もあるらしい。


「お前なぁ・・オレにとっちゃお前はいつまでも子供なんだからな。血は繋がって無いとはいえ・・・」


「わかったよ。気を付ける」


 ミューイがしゅんとした顔で反省する。


 さらりと言っていたので聞き逃しそうになったが、シヴァとミューイは血が繋がっていないらしい。確かにあのコワモテの父親から、あんな可愛らしい子が生まれるとは思えない。


・・・じゃあ、イワンが父親なのか?


 有り得ると思う。シヴァには悪いが、男前のイワンがミューイの本当の父親という方が納得できる。



 イワンの方をチラッと見る。ミューイたちの親子喧嘩を、我関せずという感じでスープを飲んでいる。

 

 さすが王女様の護衛、冷静だ・・・


 と思いきや、おもむろに立ち上がり二階へと上がってしまった。


「もうそんな時間か」


 シヴァがボソリと呟き、時計の方を見る。時計の針は、午前7:20を指す。


「私ももう行かないと。ごちそうさまでした!」


 朝食をささっとたいらげ、ミューイも慌てて二階へと上がっていく。


 オレはというと三つ目のパンを手に取り、ミューイがしたようにパンに浸して食べる。柔らかいパンの生地がコーンスープを程よく吸い上げ、旨味の相乗効果を生み出す。


「ごちそうさまでした」


 良いものを朝一番に食べるだけで、何でもできる気がする。


「さて、今日は何をしよう」

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