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アンの大往生 ー異世界終活記ー  作者: Shutin
アレク王国
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アレク王国第八話『再会』

 数分待つと、ミューイが布団を持ってきた。


 早速寝ようと布団の中に潜ると、ミューイが驚いたような顔で言ってきた。


「アーノルドさん、ベッド使わないんですか?私、布団で寝ますんで」


 その発言にオレまでびっくりしてしまう。


 流石にオレもそこまで図太くはない。いかにあちらのミスとはいえ、女子の部屋で寝てなおかつベッドをぶんどるような真似はできない。


「いやいや、オレ布団でしか眠れないからさ」


 変に気を遣った言葉を言っても、またミューイに言いくるめられてしまうのが関の山。ここは強引な嘘で布団を死守する。


「そうですか・・・ならお言葉に甘えて」


 ミューイも大人しくベッドに入った。どうやら作戦は成功のようだ、嘘も方便とはこのことだ。


「じゃあ、おやすみミューイ」


「はい。おやすみなさいアーノルドさん」


「そういえばアーノルドさんって長いだろう。アンって呼んでくれ。あと敬語もやめていいぞ」


「敬語はそのままでお願いします。でもアン君ですか・・・いいですね」


 ミューイがベッドの上から顔を覗かせ、ニコッと笑う。


「それでは、おやすみなさいアン君」


 美少女から君付け呼びか。これもこれで悪くはない・・・


 そんなことを思いながらオレはまぶたを閉じた。



 まばゆい光が花柄のカーテンごしに部屋に差し込む。


 ・・・もう朝か。一睡もできなかった。


 別に誰のせいでもない。強いて言えばオレが眠れなかった理由はミューイの寝相と寝言だ。

五分ごとに聞こえるやけに色っぽい寝言。ベッドとの段差越しでもわかる寝返りを打つたびに、ぶるんっと揺れるミューイの胸部。そしてこの部屋に充満している女の子特有の甘い香り。


 五百年間そういうことに触れていなかったオレとオレのムスコにとっては刺激が強すぎたみたいだ。目も脳もアソコもギンギンである。


「んー、おはようございますアン君。よく眠れましたか?」


 重たそうにまぶたをこすりながらミューイもベッドから起き上がる。


「うん、よく眠れたよ」


 そう言いオレはそそくさと部屋の外へと飛び出す。


 まずをコイツを鎮めなくてはミューイと顔を合わせられない。


 二階には逃げ場がなかったので一階へと避難する。しかし一階にはこの家の家主こと、ミューイの父親シヴァが立っていた。


「ひぃ!!」


 オレの悲鳴に気づいたシヴァが振り返る。その手には包丁を握りしめていた。


「おはよう、アンの坊主。ぐっすり眠れ・・・」


 最初こそ笑顔だったものの、オレの下腹部をみるやいなや眉間にシワを寄せる。右手に握る包丁に力が込められていくのが嫌でもわかる。


 殺される!と思ったのも束の間。シヴァは強張った表情をほぐし、ほっと胸を撫で下ろした。


「そういう状況ってことは、少なくとも襲わなかったってことだな。まあ、生理現象くらいは許してやろう。」


 どうやらこの立派に反り立ったスモールアーノルドのおかげで、オレは危機を脱出したらしい。


 何か大事な物を一緒に失った気もするが・・・・


「座れ。朝飯食わないと元気出ないぞ」


 エプロン姿のシヴァが美味しそうな朝食をテーブルの上に置く。包丁を握っていたのは、朝食のためだったらしい。まあそれ以外の理由なんて考えたくも無いが・・・


「おはよう、お父さん。あ!朝ご飯ありがとう。今日はなんだか豪勢だね」


 階段を降りてきたミューイがテーブルを見渡して言う。


「ああ、アン坊にとってこの家で最初の飯だからな。それに今日はアイツも帰ってきてるし・・・というかアイツいつまで寝てるんだ?ミューイ呼んできてくれ」


 「はーい」


 ミューイは早足で階段を駆け上がって行った。


 シヴァがいい匂いのするスープを木のボウルによそい、オレの席の前に置く。


「アイツらが降りて来るまで長そうだから。先にいただこう」


オレの向かいの席に座り、シヴァは手を合わせた。


「いただきます」

「いただきます」


 まずはスープを熱いうちにいただく。


 銀色のスプーンで甘い香りを漂わせる黄色の水面をすくう。スプーンの中に小さなつぶつぶが入っていることに気づく。


 ・・・コーンスープか


 ひと匙目を口の中に放り込む。瞬間、コーン独特の甘い香りと野菜から出た旨味が口の中を溺れさせる。


 体があったまる。舌が火傷するかしないかくらいのちょうどいい温度は、寝起きの体にクリティカルヒットする。


 続けて皿の上のソーセージに手を伸ばした。フォークで刺した途端、プチッと音と共に肉汁が溢れ出す。肉汁をこぼさないように急いで口の中へと運ぶ。肉のジュースとパンチの効いた塩味でオレの舌を刺激する。


 ・・・うまい!!


「どうだ?うまいだろ、うちのメシは?」


「ああ最高だ、特にこのスープ」


 シヴァが嬉しそうにうんうんと頷く。やはり料理人、自分の料理を褒められるのはこの上なく嬉しいのだろう。


 オレは付け加えてこう言う。しかしこれが余計だったようだ。


「毎日食べたいくらいだよ」


「オマエ・・・それは毎朝ミューイとご飯を食べたい、という意味か?」


 眉間に皺を寄せて、シヴァはオレに詰めよる。朝ご飯の最中らしからぬ殺気を漂わせながら。


 どうやらオレは地雷を踏み抜いてしまったようだ。ただ褒めただけなのにここまで睨まれるとは過保護が過ぎる。というか、シヴァは一生ミューイと暮らすつもりなのだろうか?


 そんなことを思っていると後ろで二つの足音が階段を降りてくるのが聞こえる。


「まーたお父さん変なこと言って」


 ミューイが呆れながら階段を降りてきた。後ろにオレと同じくらいの背丈の男を連れながら。例のアイツだ。オレから寝床を奪ったと同時にミューイと同じ部屋で寝る原因にもなってくれた男だ。


 ここはしっかり挨拶をしておかねば・・・


 オレは立ち上がり、振り向きざまに握手を求めた。


「おはようございます。初めまして・・・」


 キッチンの窓から光が差し込む。例の男の顔がはっきりとオレの目に映る。


 黒の短髪、キリッとした目、高い鼻、いわゆる男前な顔というやつだった。しかしそれ以上にオレの、いや恐らく初対面なら全ての人の注目を集めるであろう口から頬まで痛々しく残る大きな傷痕が目立つ。


 ・・・こんな偶然ってあるのか?昨日別々の場所でそれぞれ知り合った三人と同じ屋根の下で寝ていたとは。


「例の男」の正体はつい昨日別れたばかりのメイア王女の護衛騎士、「三銃士」が一人『イワザル』ことイワンだった。

 

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