Ⅰ. 真冬の頭のおかしなやつ
こんにちは。最近書き始めた者です。初心者ですが、読んでいただけたら嬉しいです。
曇天。まさに曇天。
それ以外に言い表しようのない空模様。
視界に入り込む空がいつにもまして私の心を曇らせた。
正直行きたくない。親族の集まりなど。行きたくないに決まっている。
自分に振られるおせっかいな見合い話にいい加減黙れと言い返したくなる。
余計なお世話だ、お前に言われたくないわ。
数年に1回も会わないと言うのに、他に言葉のボキャブラリーはないのか。
顔を見ればその話しかしない血の繋がらない叔父嫁に神経を逆なでさせられる。
「今日、仮病使おうかな…」
ぽつんと口に出してみる。
よし、そうしよう。
どうせいてもいなくてもさほど変わらない存在なのだから。そんなに困らないに決まっている。
元からそんなに交流自体ない。今更仲良くしたいなんて微塵も思わない。
そうと決まれば決行だ。
画面のひび割れたスマートフォンを取り出し、大して仲の良くない従兄弟に適当にメッセージを送る。
はあ〜。こういう時便利よね。わざわざ顔見なくていいし、声も聞かなくていいし。
一人呟きながら画面を終わらせる。
はいもうおしまい。終わり。
陰鬱の因のこころのささくれが一気に解決したおかげで、わたしの心は夏の快晴の如く晴れ渡った。
実際の天気は変わらず曇りなのだが。
さてはてこれからどうしよう。一気に暇になってしまった。
歩道の真ん中に立ち尽くし、考えてみる。
だが考えてみても一向に何も浮かばない。
しかしわたしは今、自由なのだ。歩こうが走ろうが家に帰ろうが咎める者はいない。フリーの極みなのだ。
で結局何も浮かばないので適当に歩くという結論に達した。
まあ、たまにはこんなでもいいのではないだろうか。
そんなことを思いつつ橋を渡り、景観の足しにもなっていないひび割れた石畳の道をいく。
ひび割れにピンヒールがめり込みミキミキと音がする。
まあひどい状態の道に対し少しは金をかけたらどうなんだと思うのである。
だが冬のキンとした空気の中、自分の靴音が街の喧騒に混じって聞こえると、変な高揚感が出てきたりする。
ふわふわとしたような、なんとも言えない心地良さ。
軽やかに、艶やかなブーツは自然と歩が速まった。
いい気分に浸りながらしばらく歩いていたら、大きな石垣が見えてきた。かつてこの地を治めていた藩主のお城だ。
本丸はかなり昔に焼失したらしいが立派な門と石垣だけは当時の容貌をはっきりと留めている。
維新の動乱の跡が残る門を潜り、無機質にコンクリで固められた道を裏に向かって歩く。
小さい頃、母と手を繋いでよく遊びに来ていた。
誰より優しくて、賢くて、心が強かった母。
そんな母の手は温かくて握っているだけで笑顔が溢れ出した。
ズキッと胸が痛む。
自分で自分の傷を抉ってどうする。
大きな松の木が城を隠すように石垣の上に佇んでいる。
その下、苔むした石垣の傍に裸の寒そうな木。
中学生の時、あの辺りをスケッチで描いたっけ。
書き上げるのに苦労した。
あまり人が来ない一番のお気に入りスポットだった。
きれいに手入れされた木と同様にピカピカに磨かれた木製ベンチは木の真下に位置し、夏は木陰が気持ちいい。
虫の心配をしないのであれば絶好のお昼寝スペースなのだ。
ただ今は冬、寒風吹き荒れる真冬。そんな季節にわざわざ風邪に自ら罹りにいくようなバカな真似はしない。
ちょっと座っているだけでお尻が凍りつきそうだ。
そんなことを思っていた。
「は…?」
思わず声が漏れた。
なんとこの寒空の下、ベンチで転がっているつわものがいたのだ。何という命知らず。いや無鉄砲、考えなしの阿呆いうか何というか…。
ホームレス…じゃないよな?
どっちにしろ風邪ひくぞ。
そして最悪の事態が頭をよぎる。
背中を冷たいものが伝った。
慌てて傍に駆け寄り、屈んで見た。
そのつわものは顔に黒のタオルをふっ被せていた。
耳を澄ましてみると、すうすうと寝息が聞こえる。
良かった。生きてはいる。南無阿弥陀仏なんてことになっていたら洒落にならないところだった。
ほっと一息ついて、改めてまじまじと見てみるとかなり長身の男性のようだ。
ベンチの背に体の右側をこれでもかとくっつけ仰向けに寝ている。
ジーンズを履きこなしている脚はスラリと長く、ベンチのキャパに収まりきらずに膝から下ははみ出て足が地面についている。
漆黒の革ジャンは大切に手入れされていることが一目で分かるくらいに汚れひとつない。
お腹の上に置かれた大きな左手にはこれまた大きな手袋が握られている。ただ体温が下がっているのか、血色が悪い。
右手はというと、ベンチと身体に挟まれているのか、見当たらない。
「持ってるなら、着けておけばいいのに…」
可哀想なくらい色の悪い左手を見て、思っていたことが口からこぼれ落ちた。
その直後、なんの前触れもなく男性の血色の悪い左手が握っていた手袋ごと滑りおちた。
私は特に何も思うことなく、落ちた手袋を拾い、左手と共に元のお腹の上に戻そうとした。
ただこれが悪手だった。
何と今の衝撃で男性が起きてないか確認していなかったのだから。
そして案の定、事件は起きた。
手袋と左手を元の位置に戻した瞬間、私の左手はガッと骨が碎けるような勢いで掴まれたのだ。
わたしは本当に心臓が止まりかけた...。
重ね重ね申し上げますが、拙いところ等はどうかご容赦してくださると嬉しいです




