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Another World the 6th chapter

 黒い空に白い光が差す空間の中で、紅太は透明な地面に立っていた。ほんの数分前まで、そこは重力のない、まともにモノも見えない場所だった。それが何故か急に、元居た世界と同じような物理法則を持つ空間へと変化したのだ。

 急な出来事に、紅太は何が起こったのか今一つ理解が追いつかなかった。


 目の前でスォンが敵に囲まれているのを見て、紅太はやっと我に返った。霞恋に蹴られて痛むわき腹を押さえて、スォンに近付こうとする。

 スォンのすぐ横には、図書館で助けた銀髪の少年がこちらを睨んでいた。十四季の赤い瞳を囲む黒い血管に、覚えず気後れする紅太。


「……俺はあの女の相手をする。そっちは頼んだ」


 背後の仲間達に呼びかけ、十四季がこちらへ向かって走ってくる。思わず身体を退く紅太に見向きもせず、十四季は霞恋に固く握った拳を繰り出した。弾丸のようなそれを、霞恋は薄ら笑いを浮かべて避けている。


「え、えと……どうしよう……」


 とりあえず取り出した蟹の殻粉入り袋をぶら下げ、その場に立ち尽くす紅太。背後から、スォンの声が聞こえる。


「そう言えば団長に『壁を張ったらいい』と教えたような記憶が――。ち、違うんだ! ちょっと忘れてただけで、我輩は決して諸君を嵌めようとした訳では――――って、誰も聞いていないのか……」


 肩を落として溜息を吐くスォンの肩に、紅太の手が触れる。振り返ったスォンの顔に、みるみる笑顔が広がっていった。


「おお、紅太! 心配したんだぞ。もう勝手に行方をくらましたりしないでくれよ」


 諸手を挙げて喜ぶスォンを、紅太は静かに見下ろしている。


「……先生、さっきのどういう意味っすか」


 冷たい目をして尋ねる紅太に、スォンは目を泳がせて言葉を濁した。嬉々とした表情から一転してうろたえるスォンに、紅太が険しい顔で近付いていく。後退りするスォンの足元からバンダナを拾い、紅太はそれを握り締めた。


「いや、その――。仕方なかったのだ。君を探すために、我輩と彼らの間で不可侵条約を結んで……」


 しどろもどろに弁解するスォンの前で、紅太のバンダナを握る拳が固くなる。


「あの人達を倒せって言ったのは、先生じゃないっすか――」


 絞り出すようにそう言った紅太の肩は、小刻みに震えている。顔を俯けて唇を噛み締める紅太に、スォンはますます動揺した。掛ける言葉が見つからず、スォンはただうろたえるばかりだった。


「それは――騎士団の監視の目を誤魔化すための方便と言うか――。我輩は常に、君を守ることを第一に考えていたのであって」


「じゃあ、姉ちゃんを助けるのに協力するって言ったのも、嘘だったんすか」


 鋭い追及の言葉に、スォンは口をつぐんだ。言葉を失くして目を泳がせるスォンの前で、紅太の眉間に深々と皺が寄った。無言で踵を返して去ろうとする紅太に、スォンが躊躇いながら口を開く。


「ずっと言おうと思ってたのだが、君のお姉さんは、もう――」


「黙っててください! 」


 何か言いかけたスォンの横を、蟹の鋏が掠める。マントの切れ端が、黒い空間にひらりと舞った。


「先生、どうしてボクに力を貸そうと思ったっすか。ボクが弱いから? 可哀想だから? 姉ちゃんのこととか、自分が大変な状況だってことは分かってます。でもボクは、自分が可哀想だなんて思ったこと、一度も無いっす」


 紅色の粉が詰まった袋を握り、紅太が淡々と語る。スォンに背を向けたまま、血に染まったバンダナを頭に巻く紅太。


「……ボク、一人で色々考えたっす。ボクの進むべき道は――ボクが決める。先生、いままでご指導ありがとうございました」


 険しい顔でそう言うと、紅太は炎舞う方へ歩き始めた。

 次第に遠ざかっていく背中を、スォンはただ呆然と見つめるだけだった。


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