3話 襲撃計画
アコナイト達は、町から少し離れた森の中にいた。見通しは悪く、賊が潜むにはうってつけの場所だ。
すでに、廃教会と廃砦は探索したものの空振りだった。
賊の根城の候補地の最後の一つ。この先の洞窟が『正解』である可能性は高い。
3人共迷彩服を着ているし、フロッガーは緑色の体毛をしているおかげで、視認性は低い。
それぞれ、前衛がドロセラとピンギキュラ、後衛がアコナイトとフロッガーというバディで、罠に警戒しつつ、洞窟へ近づいていく。
「アコ兄様、罠はある?」
「少し待ってください。探知範囲が限られているもので……む?」
アコナイトは現在『アンチトラップ』という魔法をかけている。魔力を常に消費する代わりに、周囲の罠の位置を特定できるという、非常に高性能な魔法である。元『紺碧薔薇の魔女』の面目躍如だ。
「前方300m地点が地雷原になっています。迂回して進みましょう」
「ビンゴ! 紛争地帯でもないのに地雷が仕掛けられているって事は、この先に入って欲しくないって事だね! 」
「ええ。恐らく、この先の洞窟が本命の敵の根城でしょう」
アコナイト達は、そのまま慎重に洞窟へと向かっていった。
洞窟の入り口まであと50メートルといった所で、アコナイトは足を止めた。
「どうしたの? アコ太郎」
「シッ!」
アコナイトは、自分の唇の前に指を立てて静かにするよう促す。何となく、人の気配がしたのだ。3人と1匹は草むらに隠れつつ、双眼鏡で洞窟の入り口を観察した。
すると、洞窟の奥から、何かが出てくるのが見えた。
(あれは、馬車?)
出てきたのは、馬に引かれた荷車であった。しかも、荷台の上には檻のようなものが見える。中には、縛られた人間が何人か入れられていた。
「盗賊のアジトって言うより、闇商人の隠れ家っぽいね。あの馬車、いかにも奴隷商人って感じ」
「……この国では、人身売買は違法、だったよね。あそこをアジトにしているのかな?」
同じく、双眼鏡で観察していた姉妹2人の考察に対し、アコナイトは私見を述べる。
「というより、盗賊と闇商人、協力関係にある、という感じですかね。見てください。盗賊が何人か、馬車の護衛についています」
盗賊たちは、4人程、馬車の荷台に取り付けられた取っ手に掴まった。そのまま彼らは馬車に掴まって、足場に乗っている。その状態で、馬はゆっくりと歩き出した。
「あの人達、まさか……!?」
ピンギキュラが声を上げる。彼女も気付いたようだ。
「えぇ。恐らく、盗賊が攫ってきた人間を、ああやって運んでいるのでしょう。闇商人と盗賊、協力関係にあるといった所ですかね」
「どうする、アコ太郎? 放っておくの?」
「別に、やり過ごしても良いですが……」
アコナイトは少し考える。
「……案外、あれを襲撃する手もありますね」
「珍しいね、アコ兄様の事だから、多人数の相手に攻撃を仕掛けるのは遠慮するのかと」
「まぁ、いつもならそうするんですが、今回の主目的はあくまで攫われたテレサ・サケット嬢の救出。もし、生きていた場合、あの馬車の中に入れられている可能性があります」
「……なるほどねぇ。生きてるか死んでるかは不明だけど、可能性としてはあるわけだ」
「ええ。仮に生きているなら助けたい。しかし、戦闘になった時、人質に取られても厄介。ならば、こちらが不意打ちで先制攻撃して、敵が混乱している間に、人質を救出した方が安全かと。それに……」
「……テレサ嬢の乗っていない『ハズレ馬車』だったとしても、洞窟を直接威力偵察して捕虜を取るより、別行動中の奴を襲って捕虜にした方が効率的。そういう事でしょ?」
「ええ。流石ですね、ピンギキュラ」
「伊達に長く付き合ってないよ。アコちゃんの考えそうな事は分かるよ。じゃあ、やっちゃう?」
「ええ。作戦は、我々の襲撃だと気付かれないよう、野生のモンスター……ケルベロスに襲われたという風に見せかけましょう。私とフロッガーが毒レーザーで一撃を加え、制圧します。2人は、そこから生き残った盗賊や闇商人を捕縛してください。襲撃ポイントは……ここの崖沿いの道に先回りしましょう。ここなら人目も少ないですし、道も広くない。散弾レーザーから逃げられる場所もありません」
「流石兄様、恐ろしい程効率的に殺しに行くねぇ」
地形図を見ながら、即座に地形を利用した作戦を立てるアコナイトを、ドロセラは素直に称賛する。
「ええ。殺す事に躊躇はしませんよ。私は元々10万人殺しの殺人鬼ですし」
アコナイトはそう言って少し悲し気に微笑んだ。それをドロセラは複雑そうに見た。
「……ノースズなんて人間じゃないでしょ。それに、その件は、私達だって関わってるんだから、アコ兄様だけが背負い込む事は無いんだよ?」
「……そうだよ、アコちゃんが悪い訳じゃない。原因は私にもあるし……しいて言うなら、両国の憎悪まみれの歴史と、時代が悪かったんだよ」
「……ありがとうございます」
露骨に下がったテンションで、アコナイトは言った。時折、些細な事がトリガーになって、この男はかつての戦争の時の記憶がフラッシュバックする時がある。今がまさにその時だった。
「兄様、割とすぐに鬱スイッチが入るんだから。辛くなったら私達にすぐに言ってね」
「……私達、辛い事何でも聞くから。……なんなら、身体を使って、快楽で忘れさせてあげる事も出来るし」
「ええ。その時はお願いします」
アコナイトは礼をしつつ、姉妹2人に抱き着いた。ちなみに、フロッガーは空気を読んで黙っている。
しばらく抱き着いた後、アコナイトは無意識に浮かんだ涙を拭って、3人に号令をした。
「……では、そろそろ行きますか。これより捕食毒華は、闇商人が乗っていると思われる馬車を襲撃、捕らわれの人々を救出すると共に、捕虜をとります。各員、健闘を祈ります!」
「「「了解!」」」
ドロセラ「1部とは違って、今度は私達が襲撃側だね」
アコナイト「今回は攻守チェンジです。次回は戦闘回ですよ」
ドロセラ「そういえば、あのノースズ女とかませ魔法使いは今何してるの?」
アコナイト「今部では、プロット上は出てきませんが、黒幕に命じられて別の所で暗躍しているという事で一つ」
ドロセラ「しぶといねぇ……」
アコナイト「私達が手を下さず、知らない所でライバルキャラが散る方が問題でしょ……」
ドロセラ「コメント、評価、ブックマーク、誤字脱字報告もよろしくお願いします」




