12話 地下室
霊達の声が聞こえるのは、どうやら、地下室の様だ。
廊下から下に降りる階段。その先で声がする。
「……じゃあ、私は……」
「……ああ、じゃあ、俺は……」
「えぇ」
どうやら、2人。男女1人ずつの様だ。
アコナイトとフロッガーは慎重に階段を下りていく。
この屋敷の地下室は、元からあったもので、それを改造し、現在では捕虜、それも一筋縄ではいかない、ならず者用の尋問部屋になっている。
部屋には様々な拷問器具や、薬品が置かれており、部屋の隅には『全自動血の鷲製造機』(ピンギキュラ作)なる物騒なものが置かれ、必要な場合そのまま処刑まで行えるようになっている。
どんなならず者でも、流石に『血の鷲』というおぞましい殺人方法の事を教えられると、恐ろしいのか、この機械に犠牲者としてセットされると大体は情報を吐いてくれる。
まぁ、中には強情な奴もいて、そういう意地でも口を割らない輩は、そのまま彼らの信奉する神々への文字通りの人身御供になってもらう。ラノダ国教は多神教であるがゆえに、贄を要求する神もいるのだ。アコナイト達の殺人への躊躇が少ないのも、そうした生贄の儀式の存在により、死が身近だった影響も大きい。
ちなみに、この血の鷲という儀式殺人の方法はソードフィッシュ族および、ソードフィッシュ家に元々伝わるものでは無い。成立過程において、多数の土着信仰を吸収していった結果生まれたラノダ国教の儀式、戒律はかなり混沌としており、いうならば、様々な宗教のキメラ状態だ。が、それで何となくまとまっているし、皆何となくそれを良しとしていった結果、『そういう宗教』としてうまい具合に現代に至るまで、まとまっているというのが、このラノダ国教の最大の特徴だった。
この殺人方法も、元々、どこかの部族でひっそりと行われていたものを、儀式殺人の際の主流な方法として取り込んだものらしい。アコナイト達にとってはメジャーで伝統的な生贄のやり方だった。
ともあれ、そんな物騒な物品が置いてある部屋に、霊達も好んで居なくとも良いものを、と思いつつ、アコナイトは部屋の扉を少し開けて、中を窺う。 魔導電球はついていないので、中は真っ暗だ。少しづつ、目を暗さに慣らす。部屋は定期的に清掃しているにも関わらず、血と死の匂いが漂っている。
果たして部屋の中には、2つの人魂が浮いていた。
「いましたね」
「アコ太郎、どうする? 攻撃する? 」
「待ってください。もう少し様子をみます。何か話しているようですし、まだこちらの存在には気付いていない」
「……確かに」
「このまま気付かれず、会話の内容を聞きたいですね。聞き耳を立ててください」
「了解」
2人は息を殺しながら、更に中の音を聞く。
「しかし、ご当主様が、封じられるとは……」
「このままでは、巫女様と令嬢様を融合させる事は……」
「……何を弱気になっておる! あの方はおっしゃっていたではないか。我等の目的はただ一つ。新たな邪神を創造する事。その為には手段を選ぶな。多少の犠牲はやむを得ない。ご当主様が犠牲になろうがそれは変わらん」
「そうですね。その為に我々は人身御供になったのですから!」
妙な事を人魂は話している。そもそも人魂同士が会話する事をアコナイトは初めて知ったが、それに関してはフロッガーも話す事が出来るので、あまり気にならなかった。それよりも、彼らの話していた内容が気になる。
(ご当主様? 巫女と令嬢を融合させる? 邪神を創造? )
一体どういう事だろうか? アコナイトは疑問に思う。目の前の人魂が、極めて重大な事を言っている事は分かるのだが、それがどういう事かは分からない。
「フロッガー、あの人魂のうちのどちらか、捕獲出来ませんか? 尋問できるなら尋問して、情報を吐かせたいです」
「昨日、アタシが割とガチ目の脅かし方したからなぁ。多分速攻で逃げると思うよ」
「むむ……。今は我慢するしかありませんか」
それからアコナイトは、引き続き、人魂を観察した。が、以降出てくるのは、この屋敷を購入して、自分達の古巣を乗っ取ったアコナイト達の悪口……『いくら驚かしても出て行かない』『なんか威圧感が異常。というか、魂に染みついた業と死臭が濃すぎる』『というかラノダ人っていまだに生贄の儀式とかしてるんでしょ、普通に怖い』。などといった正直、どうでも良い事で、正直、これ以上聞いていても意味がないと思った。
「……お、逃げる」
その内、人魂達はふわふわと漂いながら、驚いた事に、地下室の壁を通り抜けて、どこかへ飛んで行ってしまった。
「……逃げられましたか。しかし、実体が無いとはいえ、壁を抜けていくとは……」
「まぁ、しょうがないか……。とりあえず、中に入ろうか?」
「そうしましょう」
アコナイトとフロッガーは地下室に入り、辺りを見渡す。相変わらず、薄暗い。
「……これは?」
「ん? 何々? 」
「今まで気づきませんでしたが、この裏、扉がありますよ」
アコナイトは、この家を購入した時からこの地下室にある棚を指した。
棚の裏には、隠される様に扉があった。壁を注意深く観察しなければ、この違和感には気が付かなかっただろう。実際、アコナイト達はこの部屋を何度も使った事があるにも関わらず、今日までこの様なものが隠されているなど、想像さえしなかったのだ。
「こんな所に隠し扉なんて、怪しさ満点じゃん」
「そうですね。まぁ、とりあえず開けてみましょう」
「おっけー」
フロッガーはそう言うと、実体化し、2人で棚をずらす。棚の中には何も入っていないので、簡単に動かせたが、材料に使われていた木材がきしむ音が不気味だ。
「……これって」
棚をどかし、扉を開けると、驚いた事に、そこは洞窟の様になっていた。かなり内部は広く、人が2人で並んで歩けそうな程だった。
そして、洞窟はかなり先まで広がっている様で、蟻の巣を思わせる。
「家の地下にこんな地下洞窟が広がっているとは……」
「どうする? このまま奥に進む? 」
アコナイトは少し考えて、首を横に振った。
「やめておきましょう。正体不明の地下迷宮に、準備なしで乗り込むのは得策ではありません。一度戻りましょう」
アコナイトは、あくまで本来、臆病かつ慎重な性格だ。この状況で2人だけで突撃するには、あまりにもリスクが大きいと判断した。
「りょーかい」
アコナイトとフロッガーは地下洞窟の入口から外に出ると、地下室の戸を閉めた。幸い、幽霊が追いかけてくる様な事は無かった。
「……分からない事が多いですね。地下洞窟といい、人魂が話していた事といい……」
「今日はもう寝ようよ。いくら考えても、情報が少ないし」
「そうですね。まあ、まずは盗賊狩りです。火急、という訳でも無さそうですし、この件は後に回しましょう」
「うん。じゃあ、明日に備えて、夢の世界に行こうか」
フロッガーの言葉に従い、寝室に戻ったアコナイトは、再び最愛の姉妹の胸に包まれながら、眠りに落ちていった。
アコナイト「ちなみに、血の鷲について調べるのは自己責任で。いわゆる閲覧注意系のものですので」
フロッガー「バイキングの処刑を象徴として取り入れたのは、このラノダ国教が色んな宗教の要素をもつ、キメラ宗教である事を強調する為だよ」
アコナイト「まぁ、アホの作者が最近ミッドサマーを見たので、その影響も強いですが。あと根本的に現代日本人と価値観が違うという事を強調する為でもあります」
フロッガー「異世界の人間が、現代人と価値観も文化も根本的に違うっていうのが一目で分かるから便利ではあるよ。生贄の儀式」
アコナイト「初手生贄の儀みたいなショッキングな事やっとけば、その後ハーレム作ろうが『根本的にこいつら現代人と価値観が違う』で受け入れてくれる可能性は高くなります。書き手の方はご参考にして下さい。(※なお、人気が出なくてもアホ作者は一切責任負いません)」
フロッガー「血の鷲がどんなものかをググってしまった人は、評価、ブックマーク、コメント、誤字脱字よろしくね!」




