10話 歴史の授業
「そう言えばさ、アコ太郎。いつもアコ太郎達がお祈りしてるアントク様って誰?」
食事を終え、片付けに入ろうとしている一同。そんな中で、フロッガーはアコナイトに尋ねた。純粋に疑問に感じたのだろう。
「アントク様じゃなくて、アグトク様。フロッガーはここで我々に仲間になりましたからね。女神アグトク様は、我々が信仰するラノダ国教の女神の一柱ですよ」
「神様って事?」
「はい。ラノダ国教は、複数の神格が崇められる多神教です。最高神はソトア様という神様ですが、アグトク様は私達にとっての女神です」
アコナイトは微笑む。フロッガーは今一つ分かり辛そうに首をかしげる。
「たしんきょーって、神様が沢山いる宗教だよね。そのソラマメ様って神様が一番偉いんでしょ?なんで、そのアントク様って神様を拝んでるのさ」
「フロッガーはずっと山奥にいたもんね。我々の国の成り立ちについては知っている?」
ドロセラが、そう言って彼女に少し得意げに講釈を垂れる。元々、歴史分野は得意な事に加え、今は少し酒も入っていた。いつもより饒舌になっている。
「ううん。知らない」
「うんうん、語りがいがあるなぁ。では、簡単に説明するね。まず、我が国、ラノダは、元々は小さな部族の集合体だったんだよ。ソトア様っていうのは、元々、そこで信仰されてた土着神なんだよね。それが、4000年前、それはそれは凄い王様、英雄王アールっていう人が出て来て、その部族をまとめて、今のラノダコール王国の元になる国を建国したんだ。そして、まわりの異民族や国を征服してどんどん国を大きくしていった。まあ、ノスレプ野郎共には、最後まで決定的な勝利を収める事は叶わなかったけど」
「へぇ、すごいんだねぇ」
感心しながらフロッガーは相槌を打つ。
「そうだよ!で、征服していった国でも、当然それぞれの神様を信仰していたんだけど、それらの神様を全部無理矢理、自分達の神話の中に取り込んでいっちゃったんだよね。負けた神様をソトア様が従える、もしくは、……色々な意味でメロメロアヘアヘにさせて妻にする展開、というのが神話の中でよくあるんだけど、まさにそんな風に取り込んでいった。例えるなら、自作の小説の中に、他人の小説の主人公を無理矢理登場させて、自分の作品の主人公がそれを倒していく設定にしちゃった様なもんだね」
「……なんかそれ、酷いね」
フロッガーがそう感想を述べると、ピンギキュラは軽く笑った。
「……まぁ、そういう時代だったという事で。それに、ソトア様に負けて主従関係につかされる、あるいは無理矢理その妻にされるというだけで、消滅させられて、忘れさられるよりはマシでしょ。征服した人々から信仰の自由を完全に奪う事も出来たのに、それをせず、まだ自分達の神様を拝める機会を残してくれたとも言える」
「そうかなぁ……そうかも……いや、本当にそうかぁ?」
フロッガーは納得しきれない様子だった。構わず、ドロセラは歴史解説を続ける。
「そんなこんなで、初期のラノダはたくさんの部族や小国を併合していったんだけど、制圧された部族の中に、北方の海辺にいたソードフィッシュ族って部族もいた」
「ソードフィッシュって……!アコ太郎達の苗字と同じだ!」
「そう、アコ兄様達、厳密には、私達ファイアブランド家やアルバコア家の御先祖にもあたる人達だね。彼らもよく戦ったけど、アール王の戦の才の前についに屈した。だけどのその時、彼らは猛々しく戦い、アール王さえ称賛した。戦闘後、王はこう言った。『お前達は、これからこのアールとラノダに仕えよ』ってね。王は彼らの戦闘力を高く評価して、ソードフィッシュ族の酋長を王家の家臣として取り立てる事にしたの。それが、我等がソードフィッシュ辺境伯家の始まりだ。以来、我々の仕事は、今までの海辺だけでなく、北方方面全域の辺境の管理とラノダに侵略をかけてくる周辺国……主にノースズとの戦になった!」
いよいよ、ドロセラの台詞に熱が入る。
「つまり、ソードフィッシュ家は、その時にラノダに下った少数民族の末裔で、今もその誇りを忘れない為に、剣の魚の名を使っている、と」
「その通り!! ちなみに、ファイアブランド家も、アルバコア家も元はソードフィッシュ家から分裂した家だよ。卑しいノースズ共を食いちぎる勇ましいメカジキの系譜!そのソードフィッシュ族が信仰していた土着神が、火の女神アグトク様!」
ドロセラは、自身の血統に相応のプライドがあるのだ。酒に加え、かなり、自身の言葉に酔い始めている。
「……なるほど。それで、アコ太郎達、ソードフィッシュ家の皆さんは、そのアントク様とやらを熱心に信仰している、と」
「そういう事。それに、私達、ソードフィッシュ家の祖先は、女神アグトク様によって救われたという神話を持つの。だから、その恩返しの意味もあるね」
「ふーん。じゃあ、アコ太郎達にとっては、すごく大事な神様なんだね」
「……その通り、伝説の8人の勇者に邪神テネブラエを討伐する力を与えた神の1柱としても登場するくらい、ラノダコールだとメジャーな神様でもある」
ピンギキュラが、補足する。
「へぇ~、アコ太郎達にとってのヒーローなんだね。それに救ってくれた神話かぁ……」
「……元々ソードフィッシュ族は、わざわざ魚の名前をつけている位で、海辺の土地に住んでいたんだよ。しかし、海は恵みと共に、災害も運んでくる。津波やら高波が起きて、家も作物も何もかも押し流して水浸しにしてしまう。昔から彼らの住む土地にはよくあったらしい。その度に、彼らは天に救いを求めて祈りを捧げた。すると、ある日の夜、津波が来た時、天から火が下りてきて、暗い道を避難先の高台まで照らしてくれたことがあった。この時の津波では、多くの人が助かったらしい。以来、私達の御先祖様は火の神が自分たちを守ってくれると信じた。そして、その奇跡に感謝し、アグトク様を崇めるようになった」
「火が下りてきて……ねぇ」
少し、うさん臭そうなものを見る目になるフロッガー。
「まぁ、昔話なんてものは、大体そんなものだからね。」
シスルがそう笑いながら言う。
「私を含め、ソードフィッシュ家の領地で育った人間は、子供の頃から聞かされる話なんだよね。」
「そうですね。私だって、子供の時から、乳母上から何度も聞かされています。『いいか、アコ。これはソードフィッシュ家の人間である以上、決して忘れてはいけない事だ。』って」
アコナイトとクローバーの兄妹はそう言って微笑んだ。
ドロセラ「宗教周りの設定解説回でした。」
フロッガー「アホ作者、架空の歴史とか地図とか宗教とか好きだからね。この回も割とノリノリで書いてたよ」
ドロセラ「エス〇ンシリーズのストレンジリアルの年表とか、見てるだけでわくわくしてくる人だからね」
フロッガー「設定厨かつ、歴オタの血が……」
ドロセラ「架空の地図とか歴史が好きな人は、ブックマーク、評価もお願いします」
フロッガー「感想、誤字脱字報告もお願いね!」




