8話 再会
「貴女は一体……」
警戒しつつ距離を取るヘカテー。それに対して、アコナイトは、少女へと近づいていく。
「ア、アコナイトさん!危ない人かも知れませんよ! 下がって!」
ヘカテーが慌てて叫ぶが、アコナイトは意に介さない。
「大丈夫です。ヘカテー殿、精霊達を仕舞っていただけないでしょうか?この娘と話がしたいのです」
「え……でも……分かりました」
ヘカテーは、渋々といった様子だったが精霊達の召喚状態を解除した。精霊達はヘカテーの頬にキスをして消えていった。
「それで? 私に何か用ですか」
「そうね。まぁ、とりあえず座ったら? 」
そう言って、赤髪の少女は、近くの椅子に腰かけた。それを見て、アコナイトも対面の席に座り、テーブルに肘をつく。
ヘカテーや周囲の冒険者は、2人、特に即座に4人を鎮圧した凄腕の女剣士の事を恐ろし気に見ていた。アコナイトの事を心配する声もしている。
緊張の一瞬。
だが、そんな周囲の心配をよそに、2人の間では、なごやかに会話が始まった。
「久しぶりですね。クローバー。元気そうでなによりです」
「兄さんこそ、相変わらずの美少女ぶりで安心したわ。本当に生きていてくれて良かった。」
そう言って2人は笑い合った。周囲はそんな気安い雰囲気に困惑した。
「あの、知り合いだったんですか?」
ヘカテーは2人に問いかける。
「えぇ。知り合いも何も彼女は私の妹のクローバー・ソードフィッシュです。」
「ええっ?! アコナイトさん、妹さんがいらっしゃったんですか? 」
「はい。私がラノダ人な事は知っていると思いますが、祖国が滅亡した時に、彼女とは離ればなれになってしまいましてね。」
「あ、なるほど。そういう事でしたか。すみません。嫌な事思い出させてしまって……」
アコナイト達が祖国を滅ぼされ、ボロボロの状態でここまで逃れてきたという事を知っていた彼女は、そう言って詫びを入れた。だが、アコナイトは気にしなくていいとかぶりを振った。
「いえ、お気になさらず。それより、彼女にホットミルクでも出してもらえませんか?お金は私が払います」
「は、はい! ホットミルクが一つですね。ご注文承りました!」
ヘカテーはそう言うと、厨房にオーダーを入れに行った。他の冒険者達も、彼女がアコナイトの妹だという事が分かると、納得した様に、仕事に戻っていった。中には、美人な彼女に好色な視線を送る者もいるが、それらは、アコナイトに睨まれると、慌てて目を逸らしていた。
アコナイトは、ヘカテーの後ろ姿を見送ると、目の前の赤髪の少女に向き直る。
「ところで、クローバー。何故、ここに?」
「んー、まぁ、端的に言うと、ファントム様の指示よ。元々、私達はラノダ本国でパルチザンとして抵抗運動をしていたのだけど、先日、ファントム様から、配置転換の指示があってね。今度はカタストで、件の邪像を探す任務をしている兄さん達を支援しろって」
「ファントム様が言っていた、パルチザン組から引き抜いてくるメンバーとは、貴女の事だったのですか」
「私だけじゃないわ。……噂をすれば、ほら!」
クローバーがギルドの入り口を見ると、丁度、2人の男女がギルドの建物に入って来た。
「クローバー、僕達を置いていかないでよ!」
「クローバー様、初めての外国でテンション上がっていますからね……いましたが、これはこれは、また懐かしい顔と一緒にいらっしゃいますね」
1人は、緑髪の中性的な容姿の青年、もう1人は、オレンジ色の髪をショートヘアにした、優し気な女性だった。青年の方は剣を。女性の方は槍を得物としていた。
この2人の事も、アコナイトはよく知っている。
「ヘリオトロープ殿に、我が義弟、シスル。貴方達も、そりゃ一緒ですよね」
これは、追加注文が必要になるな。そう、アコナイトは思った。
***
「奇遇だな。アコナイト義兄さんと、すぐに合流出来るなんて」
緑髪の青年は、そう言って、運ばれてきたコーヒーに、砂糖とミルクをたっぷり入れて飲んでいる。
彼の名前は、シスル・ソードフィッシュ。クローバーの婚約者であり、アコナイトの義弟である。
中々の美青年で、アコナイトには及ばないものの、可愛い系の顔をしている。しかし、そんな顔に似合わず、なかなかの剣の使い手だ。
アコナイトとは、少し因縁の様なものもあるが、おおむね関係は良好である。
元々、彼はある寒い冬の朝、ソードフィッシュ家の屋敷の前に捨てられていた捨て子であり、それを気の毒に思ったアコナイト達の実父であるクロードの手によって、ソードフィッシュ家の養子として育てられたという過去を持つ。その後、持ち前の才能と真っ直ぐさでもって、紆余曲折の末、義姉にあたるクローバーを射とめ、ソードフィッシュ家の婿養子に成り上がった。
「プサラスは地味に広いですからねぇ。偶然会う確率も低いでしょう。運が良かったです」
「一応、どこに住んでいるかは、ファントム様から教えてもらったけど」
「我が家は中心部からは遠いですからね。多分、案内無しでは迷いますよ」
そう言って、アコナイトはからかうように微笑んだ。実際、彼らの住む屋敷は山沿いの山道に面している。少し道を間違えると山に入ってしまい、迷ってしまう。
「アコナイト様は、お元気でしたか?」
今度は、そうオレンジ髪の女性が聞いてくる。彼女は、ヘリオトロープ・アルバコア。クローバーの乳母姉にして側近である。クローバーにとって、ピンギキュラのポジションにあたる。
「えぇ。勿論。元気でしたよ。貴方達も変わりないようで何よりです……。南部戦線で孤立したと聞いて、心配していました。死んだという話は聞いていませんでしたが」
「……ラノダ砦の戦いの前に、ラノダコールの戦力は分断され、我々は南部戦線に貼り付けにされましたからね……。アコナイト様達には、多大なご迷惑をおかけしました」
「あまり、気にしないでください。あの時、貴女達までラノダ砦で玉砕していたら、現在のパルチザン活動は出来ていませんし」
そう言って、アコナイトはフォローした。
ラノダコール・ノスレプ戦争末期、彼女達の部隊は主力軍とは別方面で戦っていた。が、そのまま敵軍が進出した事で分断され、ラノダ砦の戦いには、参戦出来なかったのだ。結果、戦力をそのまま保ったまま終戦し、彼らの多くは残党軍として、占領軍及び、ノスレプの傀儡の現ラノダ共和国にゲリラ戦とテロ攻撃で抵抗運動を行っている。
「ローズ様……母上の様子はどうですか? クロード様が死んだという事は伝わっているでしょう」
少し躊躇いつつも、アコナイトは自身の生みの母親の事を尋ねた。彼らの母、ローズ・ソードフィッシュは、クロードの正室として、まさにこちらの別動隊の方にいて、守られていたからだ。それには、シスルが答えた。
「お元気です。父上の死を聞いて、ショックからしばらく寝込んでいましたが、今は立ち直り、復讐心のままに、パルチザン活動の指揮を取っています」
「それはよかった」
「まぁ、未だに、アコナイト兄さんの事は毛嫌いしているけど……」
「まぁまぁ……こちらもあの方は嫌いですし、お互い様ですよ」
アコナイトはそう言ってほほ笑んだ。
「ところで、あなた達はプサラスには何をしに?」
アコナイトが尋ねると、クローバー達は顔を見合わせた。そして、代表してクローバーが答える。
「私達の目的は、邪像の調査よ。まだ調査を始めたばかりだけど」
「……ファントム様は、プサラスにもあると見ているんですか?」
「兄さん達の蛇退治の話は、私達もあのお方から聞いたわ。その蛇、この街を目指していたっていうじゃない。ファントム様は何か関係があるんじゃないかって読んでいる」
「まさに、私達は住んでいますが、そんな噂は知りませんね。深読みし過ぎな気がします。あの蛇は単に一番近い都市がここだから向かっただけ、と私は見ています」
「あー、やっぱり。期待はしていなかったわ」
クローバーは、残念そうに言った。
「ファントム様、僕達と義兄さん達をで、久々に再会してこい。とかも言っていたから、案外、邪像探しというより、兄妹の再会をさせる粋な計らいという面が大きいのかも」
シスルが言う。ファントムならそういう事はやりそうだ。
「それなら、それに甘えさせてもらいましょう。今夜の宿はとっていますか?まだなら、我が家に泊まっていきませんか? ぼろくて汚い屋敷ですが……」
「兄さんの家に……。いいの? 」
少し、遠慮がちにクローバーが聞いた。突然邪魔して良いものか、という気持ちが浮かんでいる。
「食料なら余裕がありますし、部屋も空いている部屋があります」
「義兄さんがいいと言っているんだから、遠慮なく行かせてもらおうよ」
「そうですよクローバー様。それに、兄弟妹久しぶりの再会で積もる話もあるでしょう。」
シスルとヘリオトロープは乗り気だった。
「まぁ、うちの屋敷自体、結構訳ありな所ですが……さて、そうと決まれば早速行きますか。私の方の乳姉妹を、いつまでも待たせておくのもなんですし」
アコナイトはそう言って、勘定を済ませ、3人を連れて冒険者ギルドを発った。
アコナイト「私とシスルの因縁に関しては、姉が評判最悪な婿から(以下略)の29話を参照ください」
シスル「義兄さん、まだ根に持ってるんですか……謝ったじゃないですか」
アコナイト「それにしたって手心ってものがあるでしょう。……まぁ私のトリカブトは、あの後も問題なく使えているんで良いんですけど」
シスル「下ネタはやめてください。なろうって破廉恥な描写に関する規制厳しいんですから」
アコナイト「ここまで読んでくれた皆さま、まだの方は評価、ブックマークよろしくお願いします」
シスル「コメント、誤字脱字報告もよろしくお願いします」




