7話 大太刀使い
アコナイトは、少しの休息の後、冒険者ギルドへ赴いた。郊外……というより街の辺境にある屋敷からは、徒歩での移動になる。中々の距離だ。
あの屋敷の、ある意味幽霊が出るより厄介な部分は市街地中心へのアクセスの悪さだった。そのうち、引っ越そうか、いや、近い将来、祖国奪還の為の号令が出た時には、あそこともおさらばなのだから、引っ越し費用が無駄になるか……等と考えつつ歩いていると、目的地に着いた。
「こんにちは」
アコナイトがドアを開けると、中には沢山の冒険者達がいた。皆、依頼掲示板の前でどの依頼を受けるか相談しているか、不良冒険者はいつもの様に、酒場で日銭をアルコールに変換している。受付カウンターには誰も並んでいない。アコナイトは、早速受付に立っていた顔なじみの受付嬢ヘカテー・レンジャーへ話しかける。
「すみません。ちょっといいですか。」
「あら、アコナイトさん!お久しぶりです。ご活躍は聞いていますよ。なんでも、最近、大活躍したとか」
「嫌味ですか?大蛇討伐の報酬をなんだかんだと理由をつけて踏み倒しておいて」
「あれは、ギルドの意向ですよ。それに、一介の受付嬢の私に言われましても……」
「えぇ。わかってます。ただの愚痴です」
アコナイトは、そう言うと、ため息をつく。彼は本来、かなり根に持つタイプであるが、同時に、最低限の道理くらいは分かる男である。ヘカテーにいくら苦情を言っても、仕方が無い事は分かっている。
「それで、今日は何の御用でしょうか?依頼受注の手続きですか?それとも、相談ですか?新たなパーティーメンバーの募集ですか?」
「相談です。なるだけ、リスクが低く、かつ実入りの良い仕事はありますか?」
「アコナイトさん、いつもそれですよね。そういう割の良い仕事は中々降りてこないんですよ」
「分かっていますよ。駄目元です。何かありませんかね」
「そうですね……。あっ! そうだ! 良いのがありました! 」
「本当ですか!?」
「ええ。実は、先日、流民崩れの野盗が辺境のモストラルの村を襲ったらしいんです。盗賊自体は、通報を受けてきた軍によって追い払われたのですが、そこで、村長の娘であるテレサ・サケットが攫われてしまいました。彼女の奪還の依頼がきています。期限は1週間。どうでしょう? これなら、アコナイトさんの実力にも見合っていますし、相応の報酬も出ます。……テレサさんの救出で50万帝国シェル。盗賊の首級1つにつき、5万帝国シェル。捕縛で8万帝国シェル。人殺しに躊躇はありませんよね?」
「……人殺しには慣れています。ラノダに居た頃、色々ありましたから。……色々。それに捨て置けないですね。分かりました。では、その依頼受けましょう。しかし、その娘、まだ生きていますかね? すでに乱暴された挙句、殺された可能性が高いと思いますが……」
「その場合、遺品、遺骨の回収をお願いします。その場合は、報酬は半分の25万帝国シェルになります。盗賊の拠点については、いくつか候補があります。それらを探索し、賊の掃討とテレサさんの救出をお願います」
「洞窟に、廃教会に、廃砦…ふむ。拠点にするには悪くない場所ですね。まぁ、いずれにせよ、やってみましょう」
アコナイトはそう言うと、依頼書にサインした。これで契約完了だ。後は、期限までに娘かその遺品遺骨を回収して引き渡せばいい。
アコナイトが席を立とうとすると、背後から声があがった。振り返ると、ギルドの入り口には、赤髪の少女が立っていた。歳は17、18といった所だろうか。
「たのもーう!」
そう大声で言い放った少女は、つかつかと大股でギルドの建物内に入ってくる。
彼女の髪は血の様な真紅色で、ショートヘア。瞳は雲一つない大空の様な藍色。ラフな格好だが、背中には刃渡り1.5mほどの大太刀を背負っていた。
突如として現れた美少女に、ギルド内も静まり返った。だが、彼女の容姿に惹かれたのか、それまで仲間たちと酒をあおっていた不良冒険者の1人が絡んでくる。
「おい! ねーちゃん! ここは遊び場じゃねぇぞ!俺みたいな男にヤられちまうぜ~」
そう言って、男は少女の肩に手を伸ばし、馴れ馴れしく肩を組んだ。
「ん? 何? 困るなぁ、私には将来を誓った相手がいるのに」
そう言って、彼女は男の手を掴んで、簡単にひねりあげてしまった。彼の腕からはギリギリと音がする。
「ぎゃあああ!」
男が悲鳴をあげる。少女は、男をある程度痛めつけると突き飛ばしてしまった。それを見た男の仲間たちは、慌てて立ち上がり、剣や斧を抜いて、戦闘態勢に入った。
「あ? なんだてめぇ? やんのかコラァ!!」
「よくも俺達の仲間を!このアマぶっ殺してやる! てめえら! やっちまえ!」
酔った勢いも相まって、頭に血が上ったのだろう。突き飛ばされた男も含め、不良冒険者4人が少女を囲む。流石にまずいと思ったのか、ヘカテーはすぐにカウンターから躍り出た。
ヘカテーは、『精霊使い』という珍しい技能を持っている。契約している精霊3匹を使役し、様々な支援をさせる事が出来るのだ。冒険者同士の喧嘩くらい、すぐに鎮圧出来るくらいの実力がある。実際、彼女にセクハラを働こうとした冒険者が返り討ちに遭う光景は、ここのギルドの日常茶飯事だった。
「皆さん! 落ち着いてください! ギルド内での暴力沙汰はご法度ですよ! こんな昼間っから酒飲んで暴れるなんて!」
ヘカテーは、そう言って、精霊達を3匹召喚した。それぞれ、赤、青、黄の髪をした100㎝程の身長の幼女達が現れた。彼女達は、外見こそ普通の少女だが、地面からは浮遊していた。
精霊は、分類上はモンスターの一種だ。肉体を持たず、霊体のみが存在し、その外見は全て少女の見た目、という珍しい種族である。普通の人間では肉眼では見えず、触る事も出来ないが、時々、精霊を見る事が出来る人間というのがいる。更にその中には、精霊と心を通わせ、対話し、いたく好かれ、奉仕される様な人間もいる。それが『精霊使い』だ。
彼ら『精霊使い』は、召喚魔法をベースとした、精霊に一時的な肉体を与え顕現させるという技を使う。召喚された精霊たちは、少女の様な見た目と裏腹に、強力な力を持つ。不良冒険者達を鎮圧する位は訳の無い事だ。
しかし、そんな精霊達が活躍する事は無かった。
「ふーん、武器を先に抜いたって事は、正当防衛が成立するわよね……」
赤髪の少女はそう言うと、背にしていた大太刀を抜いた。
次の瞬間、少女は目にも止まらぬ速さで動いた。一瞬で距離を詰め、不良冒険者の一人の首を刀の峰で打つ。そして返す刀で、もう1人の鳩尾を柄の先、頭の部分で殴りつけた。即座に2人の男が戦闘不能にされた。
「「は?」」
突然の出来事に、残った2人は呆然と立ち尽くす。その間にも少女は動きを止めない。あっと言う間に、1人の懐に入り込み、その顎を蹴り上げた。その強力な一撃に、男は即座にノックアウトされた。更に、少女は、最後に立っていた男に峰打ちを仕掛ける。
「わ!わ!」
不良冒険者は咄嗟に剣で受けた。だが、その剣は大太刀の前に、あえなくへし折れた。
「ひぃ!?」
男は情けない声をあげ、腰を抜かす。少女はその首筋に大太刀を突きつける。
「……まだやる?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
男は顔を真っ青にしてほうほうの体で逃げて行った。
「ふん、口ほどにも無いわね。冒険者なんてこんなものか……」
警戒しながら、少女は大太刀を鞘に収めた。そして、ゆっくりとアコナイトの方を振り向く。そして、にこりと笑みを浮かべた。
「丁度良い所にいたわね。プサラスで冒険者をしているって聞いたから来てみたけど、まさかギルドにいるとは思わなかった。探す手間が省けたわ」
アコナイトは、この赤毛の凄腕剣士に見覚えがあった。
ヘカテー「えっ、何ですかこのヤバそうな人」
アコナイト「はは……私の知り合いです。姉が評判最悪な(以下略)も読んでくれた方には分かると思いますが、あの人です」
ヘカテー「未読の人は、次回まで正体はお預けです。次回もお楽しみに!」
アコナイト「評価、ブックマークもよろしくお願いします」
ヘカテー「コメント、誤字脱字報告もよろしくお願いします」




