6話 触手封印
こうして、アコナイトたちは、謎の巨大触手との第二ラウンドに突入した。今度はアコナイトとフロッガーに加え、ドロセラとピンギキュラもいる。
「私がシールドを張る! 姉様達は、まずは魔法攻撃で様子見を! 」
ドロセラはそう言うと、呪文を唱える。セオリー通り盾魔法を張るためだ。
「水よ、我に集い、我と我の愛する者たちを守り給え……『ウォーター・ウォール』」
ドロセラの唱えた魔法により、彼女の周囲に透明な水の盾が現れる。これは物理・魔法両面の攻撃を防ぐ盾魔法の1つ。水属性のものだ。
続いて、ピンギキュラも魔法を唱えた。
「ピンギキュラの名において命ず。巨神の名の炎よ、我が敵を焼き尽くせ。消え去れ! ファイヤーアトラス! 」
この屋敷は、街中央部から離れた、寂れた山道の中にあり、周囲に与えるダメージを考慮する必要はない。ピンギキュラは遠慮なく、得意とする火球攻撃、『ファイアーアトラス』を放った。
彼女が放った火の玉は一直線に飛んでいき、触手に命中する。触手に命中した瞬間、大きな爆発音と共に、爆煙が上がった。
しかし、それだけでは倒すには至らなかった。
「……? 姉様、今の威力で倒せなかったの? 」
「うーん。さすがタフだね……」
触手は、少し焦げ目がついた程度で、健在している。触手の表面には、傷跡が残っているが、致命傷ではないようだ。
「……これならどう? 『シクトキシン・ショット』」
次に、フロッガーが毒レーザーで触手を焼こうとする。白いレーザー光線が、触手に放たれ、命中した。レーザーはそのまま触手を貫通する。
だが、触手はひるまず、鞭のように自身をしならせ、そのまま、水の盾を壊すべく、攻撃をしてくる。突き攻撃だ。触手の先端は鋭く変化し、槍のようになっている。盾を貫通させるつもりだ。
「ちっ! まだ耐えられるけど……! 」
少しずつ、水の盾は薄くなっていく。このままではいくらももたない。盾の維持に集中するため、ドロセラは魔法攻撃が撃てない。
「兄様! まだかかりますか?! 」
「こちらも急いでいますが……まだかかります! 」
「急かしたくはないけど、急いで! 」
「分かっています! ですが、もう少しだけ待ってください、あと5分! 」
アコナイトは、複雑な呪文を唱えている。彼の集中力を乱さないように、ピンギキュラは、フロッガーに声をかける。
「フロッガー、私達で時間を稼ぐよ! 」
「分かった! アコ太郎、貸しだからね! 」
「えぇ。忘れませんとも。ですが、それは生きて帰れたらの話ですがね」
ピンギキュラは、ファイヤーボールを、連続で放ち牽制しながら、再度、本命のファイヤーアトラスを。フロッガーは、獣形態に変化すると、機動力を活かし、走り回り攪乱しながら、シクトキシン・ショットを放つ。彼女達の火球と毒レーザーを浴びて触手は流石に苦しそうに怯んだ。
「このままで大ダメージを与えよう! 」
フロッガーは怯んだ隙に爪を立てて近接攻撃を行おうとする。
元々野生動物だけあり、ケルベロスの爪は鋭い。フロッガーはその鋭利な爪を使い、触手に斬りかかろうとする。
「これで終わりだ! 」
フロッガーがそう言ったその時だった。
触手は自身の先端をまるで刺又の様にの様に変化させ、そのまま飛び掛かってきたフロッガーを挟み込んだ。
「っ! しまった! 」
フロッガーは体をよじり逃げ出そうとするが、触手は3つの首の犬をギリギリと締め上げていく。
「がはっ!い、息が……」
「くっ! このままじゃ駄犬が持たない! アコちゃん! 早く! 」
「今やっています! あと3分で完成します! 」
アコナイトはまだ何かの呪文を唱えており、その顔は必死の表情だった。
その間もフロッガーは徐々に締め上げられていく。
「ぐっ、がぁ! 」
彼女は何とか逃れようと足掻こうとするが、うまくいかない。
「姉様! 一応、あいつもうちのペットだし、また目の前で死なれると気分が悪い! 助け出そう! 」
「どうやって!? 」
「姉様、まだ魔法は使える?! できるだけ派手なの! 」
「ファイアーアトラスなら何発か使える! 」
「それで敵の注意をそらして! 墓標を狙って! 私が本命を叩き込む! ただし、盾魔法は解除するから、触手の反撃に注意! 」
「……分かった! ドロセラちゃん、決めてね! 」
ピンギキュラはそう言うと、ファイアーアトラスの詠唱を始めた。そのまま何発か巨大な火球を放つ。
炎は墓標の方へ向かって飛んでいく。触手はそちらに注意が向いたようだ。触手はまた先が分裂し、新たに生えた一本の触手が盾のように墓標の前に立ちふさがり、それを守りながら火球を受けた。
触手は苦し気に悶えるが、今度は怒ったようにピンギキュラの方を向く。
「姉様、ナイスな囮!本命はこっちだよ!」
ドロセラはそう言うと詠唱を始めた。彼女の使う魔法は水属性。詠唱するのはその中でも鋭利な水の刃を放って相手を切断する魔法『ウォーター・ダガー』だ。
「水よ、我に集い、我が敵を切り裂き給え。鋭刃よ、顕現せよ! 『ウォーター・ダガー』! 」
ドロセラが唱え終わると同時に、彼女の手には水でできた美しい巨大な刃が現れた。
「お待たせ、駄犬! 今助ける! 」
ドロセラは手にした水の刃を触手に向けて発射した。この刃は剣として使うこともできるが、それ以上にホーミングする疑似的な投擲兵器としても使える高性能な魔法だ。その分、制御に魔力のリソースを使うので、人間の持つ魔法の力では他の魔法と併用して用いることはできないが。
「行け! 」
放たれた水の刃は、ピンギキュラに気を取られていた触手の死角から飛んできた。そのまま、フロッガーを掴んでいた二股部の根元を切断する。
「がうぅっ!! 」
フロッガーは、拘束を解かれ地面に落下する。高所から背中から落下した彼女は、痛みに悶えた。
「駄犬! 大丈夫?! 」
「げほっ、ごほっ! 相変わらず、ケルベロス使いの荒いウルフパックのことで……もう少し、優しく下ろしてくれると嬉しかったな」
「話せるなら大丈夫だよ」
咳き込んでいるが、フロッガー自体は無事なようだ。
一方、先端部を切断された触手は、流石に痛かったのが、気持ちの悪い動きで悶えている。
「よし、これならいけそう! 兄様! 」
「はい、分かりました。では、皆下がってください! もう、封印魔法が完成します! 」
アコナイトは、そう言うと、両手を天に掲げる。
「……我と我に宿る紺碧薔薇の魔女の名において、この術を発令する。今こそ、我らが願いを聞き届けたまえ! 強制封印! 『物体封印』」
そうアコナイトが唱えると、石碑の周りに光の壁が現れる。更に、石碑から生えていた触手も、この光の壁の内部に引き込まれていった。触手は断末魔のように悶えながら、壁の中に消えていく。
そして、数秒後、触手が消えた後に残ったのは、石碑だけだった。もはや、封印魔法をかけられた石碑は、時間を止められた状態であり、どんな衝撃を与えても破壊することはできないし、触手が這い出てくることもない。
「ふー……なんとかなりましたね」
「兄様、ありがとう。お見事! 」
「えぇ。私も久々に魔法を使いすぎてフラフラです」
アコナイトは、そう言いながらも笑顔を浮かべる。
「流石に疲れたので、少し休みたいですね。ギルドで依頼を漁るのは、午後からにしましょう」
「アタシも疲れた〜。少し休む。ゴホッゴホッ! 」
フロッガーは、疲労困憊といった感じで、座り込んでしまった。すでに獣形態から、エネルギー消費が少ないという人間態に戻っている。
「あぁ! 駄犬! こんな所で寝たら駄目! ほら! 立って! 」
ドロセラに起こされながら、フロッガーは、彼女に笑みを向けた。
「アセロラさん! 助けてくれてありがとうね! 」
「好きで助けたんじゃない。目の前でまた死なれちゃ、気分が悪いと思っただけ! 」
「ツンデレだ! 」
「ツンデレじゃない。私がデレるのは兄様だけだもん」
「やっぱり、アセロラさんは根は優しい子だねぇ〜」
「優しい? 自慢じゃないけど、兵員輸送馬車51両、物資運搬車80両、100mm以上の火砲15門、敵竜騎兵1騎撃破。ノスレプへの無差別爆撃作戦への参加20回。殺したノースズの数は数千はくだらない。そんな女が優しい? 」
「前言撤回。別に優しくないね。うん。怖いわ。うちの正室様は本当に人殺しに慣れてるよ。ま、とにかく、ありがとうね!」
緑髪のケルベロス少女は、そう言ってウインクした。
ドロセラ「触手回だけど、特にいやらしい場面は無しだよ。期待していた人はごめんね」
フロッガー「その代わり動物虐待が行われた気がするけど」
ドロセラ「この小説に動物虐待を肯定、推奨する目的はありません」
フロッガー「話は代わるけど、このアホ作者、今度はエス〇ンのPS2三部作引っ張り出してまたやってるね」
ドロセラ「私の空戦描写の研究……というのは建前で、本音はなんかやりたくなっただけみたい」
フロッガー「まーた投稿ペースが遅れそうな事を……」
ドロセラ「しばらく起動して無かったPS2が無事起動した事が一番の驚きだったよ。PS2AC三部作が好きな人は評価、ブックマークお願いします」
フロッガー「コメント、誤字脱字報告もよろしくね!」




