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7話 令嬢と虫取菫2

「……嫌な事を思い出させてしまいましたか」


 マリーは高慢ではあるが、人の気持ちを理解出来ない人間ではない。まずい事を聞いてしまっただろうか? と、少し反省した。


「……いえ、お気になさらず。むしろ、我々の戦いを伝える為に、聞いていただきたい位です」


 一息置いて、ピンギキュラは話を続ける。


「バーンブリアの戦い、カハナの戦い、アロモグ市焼き討ち、ウモドス市焼き討ち……。技術士官ですが、なまじ魔法が使えたので、人手不足もあって、主要な戦いには大体出ました。軍の一部は裏切って敵に回りましたからね。やってられませんよ」


「……」


 苦々しい顔をしながら語る彼女に、マリーは、かける言葉が見つからなかった。


「アロモグに、ウモドス……。あそこでは、新兵器が投入されて、大虐殺が起きたとか。強烈な爆裂魔法の様なものを発生させる兵器だったと聞いていますが」


「その通り。あそこは共和国の出撃拠点でしたから、ちょっと、『過激な手段』で殲滅しました」


 ピンギキュラは少し含みをもたせた言い方をする。


「技術者として、アレには関わっていたので、私も威力は見届けましたがね。……女子供合わせて、ざっと10万は死にました。あぁ、アコちゃんには、あんまりこの事は言わない様にお願いします。あの子、この事が多分トラウマになっていると思いますから」


 そっと、マリーは運転席の方を向く。アコナイトは、助手席で警戒中だったが、マリーからの視線に気がついたのか、柔和な微笑みをみせた。


 こんなに美しい人も、心に傷を持っているのか、と思うと複雑な気分だった。


 まあ、彼の心の闇自体は、先程嫌というほど知る羽目になったわけだが。


「アロモグもウモドスもですが、それ以上に辛かったのは、最終決戦のラノダ砦の戦いと、その後落ち延びる時でしたね」


 ピンギキュラは、水筒の水を一口含んで口を湿らせて、話を続けた。普段、そこまで饒舌ではないのだろう。


「ラノダ砦は、戦いというには余りにも一方的な虐殺でしたよ。何しろ兵士の数からして足りぬのです。籠城しましたが、ウドモス、アロモグの件で完全に共和国軍は怒り狂っていました。援軍も無く、投降しようが、待っているのはなぶり殺しです。必然、残った選択肢は自決するか、万歳突撃して果てるかの二択です。私達みたいに、どさくさに紛れて、脱出出来たのは本当にラッキーでした」


「幸運でしたわね」


「父上が、自分とアコちゃんの家の血を絶やすのを嫌がって、隠し通路を使わせてくれたのですよ。まあ、隠し通路を使って脱出したのは、私達だけではなく、他の貴族の若い人達も一緒ですが」


「……その、お父君は? 」


「王家に殉じて、最後まで戦い、討ち死にしました。恐らく、一門の者も同様」


「……」


 なんとなく、そんな気はしたが、マリーは言葉を紡ぐ事が出来なかった。

 

 一呼吸置き、ピンギキュラは言う。


「実際見た訳ではありませんがね。噂で、王都で皆の首が梟首(きょうしゅ)された事を聞きました。影武者の可能性もありますが、父上の性格的に、戦いから逃げるとは思えないので、まあ、多分本物でしょう」


「忠臣でしたのね」


「……父上は忠臣でしたが、ラノダコールは忠臣以上に、権力者におもねる佞臣が好き勝手やって腐敗していましたからねぇ。正直、滅亡したのもやむ無き事ではあります」


「貴族制と腐敗は、切っても切れないものですから」


 自らの記憶にも様々な覚えがあるのか、マリーは、諦めにも似た表情になっている。


 マリーが不愉快な思いをしない様に、気を遣いつつ、ピンギキュラは話を続けた。


「政治の話は、面倒臭いので止めましょう。私は技術屋ですから、専門外ですし。それより、その後です。落ち延びる道筋は、それは険しいものでしたよ。何しろ、共和国軍が至るところで残党狩りをしているんです。普通の戦争なら、貴族は捕虜にして、身代金請求ってのが常道なんですが、いかんせん、その請求先が滅びている上、相手は怒り狂っているので……」


「身ぐるみを剥がされて、殺される? 」


「その通り。しかも、貴族なんて大抵、安全な後方に引きこもって戦場に出た事なんてありませんから、これ程、狩り易い奴らはいません。必然、そんな私達を狙って、剣や槍やら魔法やらが常に飛んでくるんです。私も自分と妹と、アコちゃんの命を守るので精一杯ですよ。結局、脱出した時には、他の貴族の子弟は30人くらいは居ましたが、死んだりはぐれたりして、国境を超えて帝国に逃れたのは、私達含め、14人だけでした。半分やられた計算です」


「……苦労されたのですね」


「戦争に負けるっていうのは、こういう事ですよ。仕方ありません。絶滅戦争は嫌ですねぇ」


 事も無げに、ピンギキュラは言う。


 彼女なりに吹っ切れているのだろうと、マリーはみた。


「よくぞ主君を守りきったものです。見事ですわ」


 素直に、マリーはピンギキュラを褒め称えた。


「私にも、貴女達の様な忠臣がいれば……」


 マリーはボソボソと独り言を呟く。ピンギキュラは、それを聞き取る事は出来なかった。


「どうかされました? 」


「いえ、なんでもありません」


 訝しげにマリーを見つめつつ、ピンギキュラは話を続ける。


「実は私、側室の子なのです。序列としても、アコちゃんも、ドロセラちゃんも、私なんかより遥かに命の値段は高い……」


 気付けば、彼女の目からは光が失われている。


 マリーは、なんとなく、嫌な予感がした。その予感は案の定、数秒後には的中する。


「だから、1番、価値の低い私が2人を守らなきゃいけないんです……」


「ピンギキュラさん……? 」


「……例え死んでも、2人を守らなきゃ、アコちゃんとドロセラちゃんに危害を加えようとする敵は皆殺しにしなきゃ……。それ以外に、私の存在価値などありません」


「あのー、ピンギキュラさん? 」


 この辺りで、ピンギキュラは我に返った様だ。段々、瞳に光が戻ってくる。


「……申し訳ありません。つい、頭に血がのぼってしまいました」


「いえ、忠誠心が高いのは良い事です」


 口ではそう言いつつ、マリーは察してしまった。


 なるほど、この人もアコナイトとは別のベクトルで病んでおられる、と。


「もしも、もしもですよ? アコナイトさんがお亡くなりになったりしたら、どうされます?」


 興味本位なマリーの言葉を聞いて、ピンギキュラは一瞬にして再び目から光が消える。


「殉死します」


 即答である。


 そのまま、うっとりとした表情になった彼女は言葉を続けた。


挿絵(By みてみん)


「殉死……。なんと美しい響きなのでしょう。究極の忠誠心の発露です。そうは思いませんか? 」


「……」


 いわゆる、『危ない人』の表情になっている彼女。


 マリーは、光が失われている瞳を見ながら、愛想笑いをしつつ頷くしかなかった。



ピンギキュラ「ちなみに私の母上ですが、これがとんでもない人でした」

マリー「貴女を見ていればなんとなく想像出来ますが」

ピンギキュラ「元々、父上に仕えるメイドだったんですが、その父上にベタ惚れしまして、身分の差を超えて結ばれる為に、出すお茶に少々『細工』をして……なんやかんやあって私を妊娠して、さらっと側室の座に収まりました」

マリー「なんやかんやの部分には、あえて言及しませんわ」

ピンギキュラ「その後、ラノダの戦いでは、我々を逃がした後、父上の護衛として付き従い、敵将の首を素手でねじ切って10人程討ち取ったとか……」

マリー「創作物における、メイドさんの強キャラ率は何なんですかね……」

ピンギキュラ「……母上みたいな、強いメイドさんに仕えてもらいたい読者兄貴は、評価・ブックマークよろしくお願いするね」

マリー「ピンギさんのお母上は色々強すぎますわ」




ピンギキュラ「あと、地味にタイトル変えました。こう、もうちょっと、なろうなろう感が欲しかったそうです」

マリー「ちょっと長くなりましたわね」

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